軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話 3層の景色

3層。それは低層ダンジョンの最上階。探索者の半分はこの三層で成長限界を迎えることとなる。

そんな3層で、鈴鹿は探索を行っていた。

「3層1区は密林か! めっちゃ探検してる感あるなぁ。すげぇ。1層5区とは似てるけど全然違う」

自然に覆われた景色は似ているようにも見えるが、植生の違いから受ける印象は全然異なる。1層5区は樹海のためか樹々が密集し、枝葉が重なり合う様にして陽の光を 遮(さえぎ) っていたため草はあまり生えておらず、苔が多い環境だった。ゴツゴツとした岩もそこかしこにあり、不気味さを感じるエリアだ。

一方3層1区は草木が生い茂る生命の力強さが感じられるエリアだ。それは植物だけでない、生き物全てが生命エネルギーに満ち溢れている。この地では数刻前まで狩る側だった者が、気づけば狩られる側になる。そんな弱肉強食の世界である。樹々の上や大きな葉っぱの陰から肉食獣や巨大な蛇などが襲い掛かってきそうな雰囲気がビシバシ漂っていた。

「それにしても、暑いな。湿気もあるし、日本の夏みたい」

高温多湿のエリアの様で、じっと止まってるだけで肌がべたつき不快にさせられる。2層といい、暑さが続くエリアである。

「うん。この辺はさらっと見るくらいにするか。汗かきたくないし」

ダンジョンを探索中の者とは到底思えない発言をしながら、鈴鹿は駆け脚気味で3層を見学してゆくのであった。

鈴鹿は絶景が望める地に足を踏み入れていた。そこは砂利や岩肌が露出する地面もあれば、緑の絨毯が広がる美しい景観も見られる場所。景色を見ただけで空気が澄んでいることがわかる。

標高の高い尾根のような場所。そこに鈴鹿はいた。

「狂鬼の面を装着してっと。よし。配信開始っと」

マスクのように口元だけを覆う狂鬼の面は、とりつけると口と一体化する特殊な面だ。口を開けば面の口も開き、飲み物も食べ物も仮面をつけた状態で食べることができる。それ以外にも装飾品のため効果はあるが、重要なのは仮面をつけたままご飯が食べられるということだ。これで配信がしやすくなる。

ちなみに格好はいつも通り猿猴の防具を装備している。前回狂鬼に左肩から先を破壊されたが、その程度では完全破壊とはならなかったようだ。一式防具の機能の一つである自己修復機能によって、今では元通りになっていた。次破壊されたらどうなるかもわからないが、鈴鹿には狂鬼から出た一式防具もある。狂鬼の防具は中層である4層から解禁しようと思っているため、今日はまだ猿猴の防具を身にまとっている。

「やっほ~! お久しぶりです。狂鬼です」

【わこわこー!】

【いつもよりちょっと期間空いた?】

【前と同じ仮面だ! 目元だけでも狂鬼さんまじイケメン! 眼福です】

【あれ、2層じゃない】

「そうなんです! 今日から3層探索開始でーす! いえ~い!」

スマカメを動かして周囲の景色を撮影する。ここからだと1~3区を見下ろすことができる素晴らしい景観が眼下に広がっていた。

3層は1区が密林地帯、2区が密林に加え霧やスコールが発生する雨のエリア、3区で密林が途切れたかと思えば、出現するのは 峻厳(しゅんげん) な山。なだらかな斜面もあれば急斜面もあるような、登山道もない山を登る必要がある。そして、8合目を越えたあたりから4区となり、連峰の尾根が広がる絶景エリアとなった。

「いやぁ、3層思ったよりも探索するのに時間かかっちゃったよ」

【3層は広いからな】

【4区も前みたいに見て回ったりする?】

「うん、その予定。明日の午前中は回り切れなかった3区の続き見て、お昼頃から3層4区ツアー開始するつもりだよ~」

3層はダンジョンの入り口から2層も階層をまたぐ必要があり、3層1区にたどり着くだけでも一苦労だ。さらに3層自体が広いために時間を多くとられてしまった。結局あの後も密林にワクワクして不快な気候ながら1区や2区もガッツリ回ってたら、3区を見る時間もなく急いで4区まで来た次第である。

明日は午前中かけて3区を見て回り、午後から配信しながら4区を回る予定だ。2層もそうだったが、1~3区を配信するつもりはない。1~3区は多くの探索者が活動しているため映像なども多いだろうし、他の探索者を映してしまう恐れもある。そこから鈴鹿が探索しているダンジョンを特定されるかもしれないので、利もなさそうな1~3区は鈴鹿だけで探検するのだ。

ただ、2層でも思ったがコメントと会話しながらダンジョンの綺麗な景色を見て回るのは楽しい。やはりいい景色を共有できるというのはいいものだ。一人旅も好きだが、こういう旅も悪くない。

「今日はタイトル通り、雑談と3層の予定を話すつもり。まぁ、もういい時間だし、野営の準備するからちょっと待ってね」

もう辺りは陽がほとんど沈み、 宵闇(よいやみ) が広がっている。慌てて3区を吹っ飛ばして4区に来たため、まだ何も準備ができていなかった。配信は事前に配信時間を予約していたため、とりあえず配信を開始したのだ。

【今回もエリアボスと戦うんですか?】

「いや、今回は戦わないかなぁ。ちょっと予定もあって、そんなに長く潜らないんだよね。4区ツアーしたら一回戻るつもり」

3層まで来るのに時間がかかるとはいえ、鈴鹿が走ればあっという間だ。だから長くダンジョンに 籠(こも) ることはせず、適度に地上に戻る予定だ。せっかく出雲に来ているので美味しい海鮮を食べに行きたいし、のんびり探索するつもりである。もちろん今回の遠征費用を稼ぐために4区5区のモンスターからアイテムを得る予定ではあるので、戦闘もするつもりだ。

ここにきて、鈴鹿は心にゆとりができていた。2層で活動していた頃は強くなりたい、スキルレベル10にしたい、他のギルドや探索者が強引に来ても跳ね返せるようにレベルを上げたいと思っていた。だが、狂鬼と戦ったことでそのあたりが解消された。

まずレベル。150を超えたことで存在進化の強化が行われた。まだ状態は『幼』であるが、それでもかなり強化されている。レベル150越えは一級探索者に分類されるため、鈴鹿はすでに探索者の上澄みとなったのだ。

次に種族。 鬼種(きしゅ) よりも明らかに上位存在っぽい 鬼神種(きじんしゅ) となったことで、存在進化で得られる恩恵も大幅に増している。それが150を超えたことで強化されているのだから、レベル200越えである特級探索者並みの恩恵が得られているのではないだろうか。

最後にスキル。もうこれが全てだ。正直特級探索者であろうとも負ける気がしない。剣神クラスならわからないが、そのレベルのスキルを所持していない者ではレベル差があろうとも鈴鹿を止めることはできないだろう。狂鬼すら惑わす気配遮断、体術・武神・鬼神纏いによる超越した技量、脳みそすらバグらせるレベルの各種強化、それに加え毒や雷、聖魔法と隙が無い。うん、なんか小国くらいなら 滅(ほろ) ぼせるかもしれない。やらないけど。

そんな理由から、鈴鹿は探索を焦らずに行うことができる心の余裕が生まれた。といっても、レベルは高いことに越したことないからだらだら探索するつもりはない。周りの景色を楽しみながら、しっかりとダンジョンを楽しむ。そして、せっかく出雲まで来ているのだから遠出しているこの地も楽しむ。そういう探索方針を取る予定だ。

慣れた手つきで野営の準備を済ませ、夕飯を調理しながら鈴鹿は気になったことを視聴者に聞く。

「そういえば、3層って広いよね。でも、3層で成長限界を迎える人も多いってことで探索者の数も多い。これだと3層で探索する人が溢れて、端末のスケジュール埋まってダンジョン探索できないってことあるの?」

【あることもある】

【地方ならほぼないんじゃない? 混んでるダンジョンは埋まることもあるって聞くけど】

【博多ダンジョンはぎっちぎちのはず】

【博多はね。他のエリアもそうかもしれないけど、混みすぎてて拠点移動するってギルドもあるよ】

博多ダンジョンは外国人の利用も許可されているダンジョンのため、日本国内のその辺のダンジョンよりも利用者がずば抜けて多い背景がある。

「はぁー、そうなんか。早い者勝ちになっちゃうんだ」

【協会で事前に予約できる】

【協会側がその辺の管理してるから、何日間探索するって申告すれば調整して可能な日程出してくれるよ】

【早い者勝ちと言うよりはギルド次第のところがありますね】

「どういうこと?」

【古くからその地で活動しているギルドの方が、協会に話が通しやすいです。常に探索できる枠を抑えていると言った方が正しいでしょうか。パーティや探索者ではなく、ギルドとして探索の枠を確保するんです。そうすることでギルド内でスケジュールを調整して、常にそのギルドの探索者が抑えたエリアで活動している状況を作れます】

【成長限界が多くて混みやすい3層2区、3層3区、4層1区はそうやってギルドが枠を埋めてることが多い。もちろんちゃんとギルドの探索者が活動しているから、別に悪いことではない。それも一つの戦略だし、ギルドの魅力でもある。そういったギルドは所属してる探索者の数も多いから、ローテーション組んで永遠に枠抑えてられるんだよね】

【これが多い地域だとたまに新興のギルドが枠が埋まって探索できない時があって、拠点を変えるって事例もある。もちろん協会に言えばスケジュール組んでくれはするけど、自分たちの好きなタイミングや期間での探索はなかなか難しい】

ダンジョンでは他の探索者と揉め事を起こさないように、そのエリアで探索できる人数が決められている。例えば枠が100あったとして、100個のギルドが枠を常に抑えていたら鈴鹿のような野良の探索者や弱小ギルドは探索することができなくなってしまう。

当然そうならない様に協会は枠の調整をしているのだが、混雑している地域ではそのせいで探索スケジュールが思い通りにならないこともあるのだ。

そして、多くの探索者が成長限界を迎える3層、4層でそれが起こりやすい。それぞれで出現するモンスターのレベルは以下の通りだ。

3層1区:66~80

3層2区:74~90

3層3区:82~100

4層1区:90~110

レベル100前後に成長限界が集中しやすいため、どうしてもこのエリアで活動する探索者の数は多くなってしまう。

【けど、ほとんど起きないよ】

【3層はかなり広いですからね。大きさにして、1~3区で東京23区がすっぽり入るくらいはあると言われていますし】

【それでも、協会側としてはダンジョンでできるだけ探索者同士が接触してほしくないから枠絞ってたりして、埋まることもあるって感じ】

【よく枠が埋まるくらい混雑してたら、協会が各ギルドに拠点移動勧めたりとかもしてたはず】

「へぇ~、なるほどね。じゃあ3層の1~3区が全部埋まるなんてことは滅多に無いんだ」

【それは無いね】

【3層1区が埋まることは無いんじゃない?】

【ゼロとは言えないけどゼロだな】

ふむ。それを聞いて鈴鹿は疑問に思う。出雲ダンジョンでは埋まっているぞと。

探索スケジュールを登録する端末を操作したとき、3層の1~3区が満杯で選択できないようになっていた。出雲の探索者協会を訪れたのは昨日含め2回しかないが、混んでいるようには感じなかった。仮に出雲ダンジョンで活動している全ての探索者が3層を探索しているとしても、果たして全ての3層1~3区を埋めれるだけのパーティ数があるのだろうか。コメントを見た限りでは、枠全てが埋まるなんてそんなに起きる現象ではなさそうだし。

たまたま今日だけ枠が埋まっていたとも考えられるが、中華料理屋で話していた探索者たちは3層を独占なんて話もしていたし、そのことと関係がありそうだ。

このダンジョン、きな臭いな。などとカッコつけて考える鈴鹿だが、3層でも4区5区は普通に探索登録できたし、こういった推理は鈴鹿は苦手なのであまり触れないようにしよう。動くとしたら4区5区も枠が埋まった時だな。

【4層3区以降を探索できる準一級以上になると、好きなタイミングでダンジョン入れるようになるよ】

【そもそも4区5区は常に探索者数ゼロ状態だから狂鬼さんには関係ないだろうけど】

「ありがと、勉強になったよ。じゃ、ご飯もそろそろできそうだし、みんなの質問に答えるよ」

【待ってました! 前回戦ってた2層5区の鬼のモンスターはどれくらい強かったの!?】

【狂鬼さん仮面変わったけどどんな仮面なの?】

【前回エリアボス瞬殺してたけど、どんだけ強いの狂鬼さん】

【エリアボスの宝珠からどんなスキル出ましたか!?】

【前回の戦いで何レベルまで上がった?】

【ドロップしたアイテムとか、教えられる奴だけでも見せてほしい!】

怒涛の勢いで質問が飛び交う。前回狂鬼を倒したテンションのままに他のエリアボスもなぎ倒し、視聴者を完全にほったらかしにして配信を終えてしまったからだろう。今日も配信を開始してから質問が多く出ていたが、まとめて回答しようと思ってあまり答えないようにしていた。

「一つずつね。あの鬼は俺もよくわかんない。ただ、めっちゃ強かったことだけは確かだね。2層5区のエリアボスとしては異常な強さだったと思うよ」

「この仮面はめっちゃすごいよ。ほら見て。飯食える」

「前回の戦いで覚醒したからね。強くなりました。レベルは151。ギリギリ150超えた」

「スキルは水魔法と気配察知と、あとは体術の強化版みたいなスキルが出たよ」

「アイテムね。こんな武器とか、一式防具とか、あ、あとでっかい収納袋も手に入った! これで焚火いっぱいできるわ」

溢れる質問達に対し、ご飯を食べながらも答えられる範囲で答えていく鈴鹿。特にゲットした武器の紹介ではとても盛り上がったので、今度鈴鹿の収納に死蔵されている各種エリアボスの武器たちでもお披露目会をしようかな。

いい動画のネタになりそうだと思いながら、止むことのない質問達に回答していくのだった。