軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話 お説教

あの後運よく2匹の酩酊羊を見つけた鈴鹿は、1回目よりも余裕をもって倒すことができた。レベルアップによるステータス上昇を得られたため、酩酊羊であれば一発で背骨をたたき折れるほど強くなることができた。

しかし立ち回り自体は1回目とそう変わらずごり押しした感が 否(いな) めないため、要練習だ。ステータスのごり押し戦法はいずれ立ち行かなくなるだろうし、早めに修正したい。

帰りに探索者協会の買取所で酩酊羊の毛を売却した。ダンジョン産のアイテムは同じアイテムならサイズや質に差が無いため、売却金は相場のとおり2,000円となった。

中学生に2,000円は嬉しい額だが、一日の報酬としてはやはり少ない。バットだってボコボコになってしまった。まだ棍棒としては使えるが、野球はできそうにない。2,000円だったらバット1本も買えないし、今回の探索は赤字と言えるだろう。

酩酊羊のマトン肉は売らないことにした。もともと食べてみたいと思っていたので売るつもりはなかったのだが、食べるとなると家族にダンジョンを探索したことがばれてしまうので売るか売るまいか悩んでいた。

外国ではモンスターを倒す行為を野蛮だという声もあれば、力を得た探索者被害に悩まされダンジョン探索を反対する声などもあったりする。一方戦後のダンジョンによって復興を遂げた日本では、ダンジョンを探索する行為を全肯定しており、逆にそれを阻害する行為を忌避する感情さえあった。探索者による被害を受けた人はその限りではないが、多くの日本人は自ら命を懸け国力を向上させている探索者に敬意を抱き、自衛隊のように感謝されている存在であった。

そんな職業なのだから両親も喜ぶだろうというのは安直に過ぎる。地位が高かろうが命を落とす危険のある職業に変わりないのだ。親としては止めることもできないが、安全な職業に就いてほしいという気持ちと相反することもあるだろう。

とりあえずダンジョン探索ってどんなものだろうという軽い気持ちでダンジョンに入ったため、今回のダンジョン探索は親に内緒にしていた。入ってみたら大して興味もわかず1回こっきりで辞めてしまうかもしれなかったし、説得することも面倒だと感じたためだ。

そんな言い分は親にばれなければ確かに問題なかっただろう。だが、鈴鹿はダンジョンでモンスターを倒しレベルを上げてしまった。それも最上のステータス上昇量で2レベルも上がったのだ。レベル10まではステータスの上昇量に応じて身体に変化が表れる。身体は引き締まり顔だちも整い、似てる芸能人の芸能人側になっていくのだ。つまり何が言いたいかというと、鈴鹿はイケメンになったのだ。

ダンジョン探索をしているときは、自身の身体に大きな変化が見られなかったため外見の変化は少ないと思っていた。元々背も低い細身のもやしっ子である鈴鹿は、身長も変わらなければ引き締める贅肉もない。腕が少し太くなり、腹筋も硬くなったかな? という程度の変化しかなかった。

だが、ダンジョンを出てトイレに行った時に見た自分の顔は、確実にカッコよくなっていた。面影もあるし鈴鹿だと簡単に判別出来はするものの、イケメンといわれる部類に入れる顔になっていたのだ。

これでは家に帰ればダンジョンを探索してきたことが一発でばれてしまう。そこで鈴鹿は腹をくくることにした。ピンチはチャンスというではないかと。

「ただいまー」

家に入り荷物を部屋に置き、手洗いうがいをする。洗面台の鏡を見るが、やはり顔はイケメンになったままだ。かっこいい。

一つ深呼吸をして気合を入れ、リビングへと向かった。

リビングではソファでテレビを見ている父と、台所で夕飯の準備をしている母の姿があった。兄は部屋にいるのかここにはいない。

「おかえりなさい。もうすぐご飯できるわよ」

「おかえり~」

いい匂いのする台所から母が声をかけてくる。炒め物をしているためか、まだ鈴鹿の顔は見ていない。のんびりと挨拶しながらこちらを向いた父は、きれいな二度見をした後二の句がつけず固まっていた。

「ただいま。ちょっと話があるんだけどいい?」

そんなことを言えば、何かあったのかと母親も鈴鹿の方へ向き直る。その顔を見てすべてを察したのか、炒め物の火を止めて父親と共にテーブルへと座った。

「それで、話って何?」

努めて冷静に母親は聞いてきた。

「俺の進路についての相談……いや、勝手で申し訳ないけど、俺が決めた進路について話を聞いてほしい」

居住まいをただし、鈴鹿は自身の考えを語った。

「見てわかる通り、俺は今日ダンジョンを探索してモンスターを倒してきた」

身長や体形は変化ないが、顔は変わっている。元の世界なら化粧か整形かの二択しかないが、この世界ではダンジョンがある。それも一般的に広く普及されている方法だ。両親なら一目見ればステータスが向上したのだとわかるだろう。

「最初は探索者ってどんなものなのか確認したくて行ってみたんだ。だけど、ダンジョンに入って探索してモンスターを倒して、それが凄い楽しかった。これで食っていけたらなんて面白い人生なんだろうかって思えたんだ!」

タイムリープして若返ったとはいえ、中身は30歳の時のまま。ゲーム、漫画、アニメ。あれだけ熱中して寝る間も惜しんで没頭できたそれらも、歳を重ねる度に 費(つい) やす時間は日に日に減っていき、30歳の頃には滅多に触らなくなっていた。その頃にFXにハマり眠れなくなるほどのめりこんだが、あれを没頭したとは言いたくない。

だが、ダンジョン探索は違った。たった数時間の探索で鈴鹿は魅了された。

1回目の人生と同じように高校、大学と進学し、就職するのも良いのだろう。記憶引継ぎというチートもあるのだから、前回よりもよい進路を選べるかもしれない。

だが、2回目の人生。やりたいことをやってみようと決めていた。安パイだと思う人生を進んだって全財産FXで溶かすような蛮行に及んだのだ。それなら、後悔しようともやってよかったと思える道を進んでみたい。探索者という道を全力で駆け抜けた先に何が待っているのか見てみたいのだ。

「だから俺の将来を決めた。俺は探索者になる」

コロコロとやりたいことが変わる子供の発言だが、鈴鹿の真剣な気持ちが伝わったのか両親も真剣に聞いてくれている。

「そう。言いたいことは二つあるわ。探索者になるってことは、進学先を探索者高校にするってことよね? 八王子にするつもり?」

探索者高校はその名の通り探索者を目指す若者が通う職業学校だ。学費も安くダンジョン探索の支援も厚い。歴史もそれなりに長く、探索者育成のノウハウも蓄積されている。それに、全員探索者を目指すという共通目標があるため、一緒に探索するパーティメンバーを見つけることだってできる学校だ。

「今のところ探索者高校に通うつもりはない。今から探索者を目指していきたいんだ」

この回答は予想外だったのか、両親も驚いた顔を見せる。画家になりたいけど美大も専門学校も行かないと言っているようなものだ。そんなことを言えば驚かれるのも無理もない。

「学校に行かないって……あんた真剣に考えてるの?」

「もちろん、本気だよ。それに、今のところは行く必要を感じてないだけで、行き詰ったら学校も視野に入れるつもりだ」

ダンジョン探索をするうえで探索者高校へ入ることが間違いないことは重々承知している。だが、鈴鹿は今ダンジョンを探索したいのだ。鉄は熱いうちに打てというように、この衝動を 燻(くす) ぶらせたくはない。そうなると探索者高校に入るころには新入生とレベル含め足並みも合わなくなるし、そちらに合わせて時間を取られたくもない。

探索者高校は来るもの拒まずな学校であり、入学試験が難しいということもない。それなら、受験まで半年はあるのだから、近くなったら改めて入学するかどうするか決めるのも手だろう。

「行き詰ったらってことは、今後もダンジョンに入るってことよね?」

「そのつもり。まずは今やれるだけのことはやってみたいからさ」

「そう……。ダンジョンに入ることは止めないわ。ただし、探索者高校は通いなさい。いいわね?」

「必要だと感じたら入る。探索者高校はあくまで探索者になるための手段だろ。通わずとも探索者としてやっていけるのなら入るつもりはないよ」

学校は手段であって、目的ではない。入ってみれば得られることも多いとは思うが、そこまで魅力を感じない。

「はぁ、何言っても聞かなそうね。もう一つ言いたいことあるけど最後にするわ。お父さんは?」

「……こんなことを言うのは良くないかもしれないが、お父さんは正直やめてほしいと思っている」

そのセリフは鈴鹿にとって意外であった。母親も学校には行けとは言いつつも、探索者をするなとは言っていない。

別の世界の常識がある鈴鹿からしたら、子供が危険な職業に就くと言うなら親が反対するのも当然だと思える。しかし、この世界の鈴鹿の常識では、ダンジョン探索を否定されることは衝撃を受けるくらいには意外な反応であった。

「ただ、お母さんとはお前たちが生まれる前から、子供が探索者をやりたいと言ったらどうするか話し合っていたし、どうするか決めてもいた」

父さんはまっすぐ俺の目を見て話しを続けた。

「頑張りなさい。精一杯やってみなさい。お父さんもお母さんもまだ不安でいっぱいだ。だからこそ、私たちが不安にならないで済むくらい実力をつけなさい」

諭すような声音で、力強く背中を押してくれた。

「……ありがとう。俺がんばってみるよ!」

思わず涙が流れそうになった。やりたいことを支えてもらえるってのは、こんなにも嬉しいことだったんだな。

最初はダンジョンに入ったことを怒られるかもとか、探索者になることを反対されるんじゃとか思っていたが、相談してよかったな。

そんな暖かい空気が流れる居間に、母親の手を叩く音が響いた。

「残念だけど、まだ終わっていないわよ」

そういえば母さんが最後に何か話したいとか言っていたな。

「鈴鹿、あんたダンジョンに入るなら事前にお父さんやお母さんに話しておくことって約束破ったわよね」

さっきまでの暖かい空気はどこへやら。剣呑な空気が漂いだす。

約束も何も鈴鹿は覚えていなかった。なぜならその約束をしたのは以前の鈴鹿なのだから。以前の鈴鹿の記憶はおぼろげにはあるのだが、鮮明に覚えているわけではない。特に、以前は探索者になろうなんてこれっぽっちも思っていなかったため、そんな約束をしてもどうせ破ることはないとさらっと受け流していた。

「明日もダンジョンに行こうとか思ってるんでしょうが、明日は罰として外出禁止よ」

「そんな! 探索者になるの賛成してくれたじゃん!」

「それとこれとは話は別でしょうが! 大体あんたは人の話を聞き流すところが昔っからあるわよね」

そこからは愚痴とお説教のお言葉のオンパレード。腹減ったと兄がリビングに来なければ、後数時間は続いていたことだろう。ありがとう、お兄ちゃん。