軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狩猟大会③

馬は興奮状態のまま森に入っていき、枝に頭をぶつけないように避けながら手綱を軽く左右に引っ張っては斜め方向に行くように誘導する。

同時に馬を落ち着かせようと私は声をかけ続けていた。

しばらくして馬は落ち着きを取り戻したのか速度を落としていき、完全に止まったのを確認すると私は馬上から周囲を見回す。

「……クロードがいつも狩りをしていた場所は、ここを直進していった辺りかしら」

二十年も経っているが、森は昔とさほど変わってはいなさそうだ。

クロードを罠にはめるために叩き込んだ森の地図が役に立つとは思わなかった。

何でも勉強しておくものだ……。

とはいえ、小動物エリア内ではあるが、大型動物エリアに近い場所ではある。

運が悪ければ狼なり熊なりと遭遇するかもしれない。

念のため、持ってきていた袋からとある植物らを小麦粉に混ぜ込んで小さく丸めた物を二個ほど奥に向かって投げておく。

安全は確保できていないが、周囲に人の気配もないので間違って射られる可能性も低いことから私は心なしかしょんぼりしている馬に目を向けた。

「いきなりで驚いたでしょう。あのまま真っ直ぐ行っていたら大型動物エリアに入っていたでしょうし、言うことを聞いてくれて助かったわ」

首の辺りを撫でると、馬は頭を下げてしまった。

まるでごめんなさいと謝っているようだ。

「それにしても……まさかセレネを利用するなんてね」

馬が走り出す一瞬だけだったが、私はセレネの顔を確認していた。

なんで? という予期せぬ出来事に恐怖と驚きが入り交じっていた顔からすると、彼女は何も知らなかったのかもしれない。

ただ、馬に乗るように言って出来なかったときに笑いものにしろとでも言われていたのではないだろうか。

あの子は両親から溺愛されているし、私を傷つけるための駒になどしないと思っていた。

「後先考えないとは思っていたけれど、馬を興奮させて暴走させるとは……」

一歩間違えれば死んでいてもおかしくなかった。いや、私でなければ死んでいた。

実の娘にここまでするのか……。

アリアドネの手を汚すわけにはいかないと時間に任せるつもりだったが、その考えを改める必要がありそうだ。

「……殺さなければいいのではないかしら」

公爵夫妻の周囲から一個ずつ力を剥ぎ取るぐらいであれば大丈夫なのではないか?

いや、でもそれも手を汚すことになるのだろうか?

普通が分からないから、程度が分からない。今の私の考えもやり過ぎているのかもしれないしそうではないのかもしれない。

けれど、このまま何もしなければ同じようなことがこれからも起こる。

「どちらにせよアリアドネの安全を取った方がいいわね」

綺麗事だけではフィルベルン公爵夫妻に立ち向かうことはできない。

アリアドネを守るためにも誰かを巻き込んでしまった方がいい。

できれば真っ当な人を味方に付けることができれば言うことはないが……と考えたところであることが頭に浮かんだ。

「毒の知識と技術を公にすれば人からの注目を集めることができるかもしれないし、皇帝から守ってもらえるのではないかしら?」

知識があっても毒や薬を作ろうとすれば経験とセンスが必要になってくる。

分量が周知されているものならともかく微妙な差で作るのが難しいものまではクロードも出来ないし把握出来ていないものもあるはずだ。あの子、不器用だったし。

それを私が知っていて、作れることが分かれば皇帝は味方に引き入れようと声をかけてくる。

以前は誰かを陥れるために使っていた私の力。

今度は殺すためではなく生かすために私の力を惜しみなく使いたい。

これが罪滅ぼしになるわけではないが、私ができることなんてこれくらいしかないのだから。

過去のことから一人でああでもないこうでもないと考えていた部分もあるが、味方が誰も居ない状態では限界がある。

「一人でなんとかしようと思っていたけれど、他の人の力を借りればいいのよ」

一人でもなんとかする方法を考えていたが、何も一人で頑張る必要はない。

まずは味方を作ることが大事なのではないかと、ふと思ったわけである。

敵ばかりだと気を張っていたけれど、それだとこれまでと何も変わらない。

「もう少し肩の力を抜いて、人に甘えることも覚えた方がいいのでしょうね」

まだ抵抗は残っているが、無駄なプライドは捨て去った方がいい。

もうアリアドネ・ベルネットは死んだのだから。

どうするのかある程度先のことは考えられたが、このままここで考えていても仕方がない。

フィルベルン公爵から実行に移されたのだから、まずはこの状況を最大限利用させてもらおうじゃないか。

馬が暴走したときに他の貴族の家族が数名いたから、きっとこのことはすでに報告されているはずだ。

皇帝の叔父の孫娘が乗った馬が暴走して森に入ってしまったとなれば皇帝に絶対に報告が行く。

皇帝が動けないとなれば、皇室騎士団もしくは腹心の部下であるクロードに捜索するように命じるはずだ。

なんせ皇族は皇帝一家しかおらず、皇族を補佐できるのは同じ血が流れているフィルベルン公爵家しかいないのだから。

何が何でもアリアドネを助けようと動くはずだ。

そして、クロードのいつもの狩り場に近い場所にいれば必ず彼に会えるはず。

「利用させてもらおうとは思っていたけれど、あの人の身勝手さにはほとほと嫌気が差すわね」

はぁ、とため息を吐いていると、背後からガサガサと音が聞こえてくる。

振り返ってみると、ヨロヨロとした足取りで狼が茂みの中から出てきた。

苦しそうな呻き声を上げて二、三歩進んだところで狼はバタリと地面に倒れてしまう。

どうやら、先ほど投げたものを口にしたようだ。

麻酔と痺れる効果のあるものを入れただけなので死にはしないが、ここでも狼と遭遇するのか。

どうやら私は運が悪いらしい。いや、良かったことなど一度もないからこれが普通なのだろう。

けれど、このままここにいるのはマズい。

「少し早いけれど、ここから離れないといけないわね」

フィルベルン公爵の計画を台無しにする予定だったが、怪我をしてしまっては本末転倒だ。

すぐに馬を反転させて、来た道を戻って歩かせる。

斜めに突っ切って来たから、そのまま歩かせれば大型動物のいるエリアからは遠ざかることはできるだろう。

そうして、馬を移動させている途中でウサギや鹿を見かけることはあったが、先ほどのような狼と遭遇することはなかった。

馬を歩かせて少し経った頃だろうか、かすかに奥の方から音が聞こえてきた。

動物だろうかと思ったが、音の感じが違っていた。

徐々に近づいてくる音は、馬を走らせているような音だった。

狩りにしては音を立てすぎていたことから、私が森に入ったことが知らされて捜索に来たのかもしれない。

クロードだったら助かるのだけれどと思いながら、馬を止めて奥の方を見つめていると現れた人物を見て私はほくそ笑んだ。