作品タイトル不明
179 (ココディア)
もうすぐ日が落ちるという頃、ココディアの王宮にある国王執務室では、
疲れ切ったレイモン国王と王弟のダニエルがぐったりとしていた。
「今日もお疲れのご様子ですね。」
そこに入ってきたのは側近であるサマラス公爵家の当主となったエドモン。
エドモンが来たことで、レイモンとダニエルは顔をあげた。
「エドモン、賠償はすんだか?」
「ええ、なんとか終わりそうです。
と言っても、全部の被害がわかったわけではないので、
後から訴えてくることも考えられます。」
「それはある程度仕方ないだろうな。
王族に何かされても泣き寝入りしていた貴族もいるだろう。
公式に賠償していると知れば、うちもそうだったと言いやすくなる。
しばらくは続くと思っていたほうがいいな。」
「わかりました。
ルジャイルに派遣している文官たちにもしばらく様子見るように伝えます。」
ココディア国内の改革に加え、妹がルジャイルにしでかしたことが発覚し、
謝罪と賠償の手続きに追われていた。
遊び歩いていた妹が王宮で見かけなくなったとしても、
またどこかに遊びに行っているのだろうとしか思っていなかった。
まさか、同盟国だからと妃にしろと押しかけて行っていたとは考えもしない。
なぜなら……。
「どうして男も女も生涯一度しか結婚しない文化の国に行って、
側妃になれると思ったのか……理解できない。」
「ですよね……いくらなんでも同盟国の王族の結婚を知らないとは考えられない。
何を考えて側妃にしてもらえると思ったのか。」
「あぁ、一応ですが、前国王は止めたそうですよ。
ルジャイルの国王も王太子も第二王子も結婚しているから無理だと。
どうやら父上と伯母上がそそのかしたようです。
押しかけてしまえば娶らざるを得ないだろうと。」
「はぁ?また母上の仕業なのか……あの人は本当に馬鹿なのか。」
サマラス公爵家の三兄弟は優秀なはずなのに、こういう行動が理解できない。
自分が良いと思えば正義だとでも思っているのか、
多少強引に進めても大丈夫だと思っている。
下手に地位が高く行動力もあるせいで、周りへの影響はひどいものだ。
「私たちも国王交代するので精一杯で、
交代する前の行動をすべて把握できていませんでしたからね。
起きてしまったことは仕方ありません。
ですが、おそらくルジャイルからの同盟は切られると思います。
今、議会で検討されているそうです。
非公開の議会ですが、同情した王太子が教えてくれました。」
「王太子が同情して?
じゃあ、王族が怒ってというよりも、貴族たちが動いているということか。
それでは同盟の継続は無理だと思っていたほうがいいな。」
「どうやら、王女の件だけではないみたいです。
亡命しようとしたココディアの貴族がルジャイル国での爵位を求めてきたり、
ココディアの平民がルジャイルに移り住んだのはいいが、
お金に困って王都の外に住み始めたようで治安が悪化しているようです。」
ため息しか出ない。亡命した貴族は、
前国王と前サマラス公爵の権力にすがって生きていたような者たちだ。
亡命したとしても、その先の国で爵位をもらえることは少ない。
よほど優秀なものか、亡命先から移住を誘われた時くらいなものだろう。
それなのに自分から爵位を求めに行くとはなんという恥さらしな。
平民が移り住むのはある程度は仕方ない。
ココディアに残っていても、食料がないのだから。
だがルジャイルに移り住んでも、言葉が通じなければ仕事に就けない。
持っている金が尽きてしまえば、もうどこにもいけない。
そこから盗賊のような生活に落ちるのは早い。
これは解決しようにも、ココディアの食糧難をどうにかしないかぎり何もできない。
「結局は……ユーギニスとの結界の壁を解除してもらわなければ、
ということか。」
「その通りですね。」
このまま何もしなければ、ココディアは終わってしまう。
どこにぶつけていいのかわからない怒りで意味もなくソファを殴る。
「その気持ちはわかりますが……。」
「はぁ……これほどまでされても処刑できないとは。」
あれだけのことをしても、前国王たちを処刑することはできない。
それはココディア王家の血に理由があった。
ココディア国では、王家の血は信仰対象とされている。
そのため、王家の血をひく王族や公爵家はどんな罪を犯しても処刑にはできない。
関係している者全員を幽閉するのが最大の処罰だった。
「処刑すれば我々が非難されることになります。
関係者全員に魔力封じの首輪をつけたので、それで納得してください。」
「ああ、そうだった。」
魔力封じの首輪にも種類があり、関係者につけたのは一番強い魔力封じだった。
通常のものは魔力を外に出せなくするもので、これをつけたら魔術は使えなくなる。
一番強いものは、体内にある魔力までも封じてしまう。
王族や貴族は魔力を持つために寿命が長い。
それは体内の不調を魔力で自己修復することと、それにより老化が遅いことが理由だ。
体内の魔力を封じてしまえばそれができなくなり、一気に老化が進むことになる。
おそらく関係者のほとんどは数年以内に老衰で亡くなるだろう。
処刑はできなかったが、数年もすれば消える。
そう思えば少しは今の状況も我慢できた。
「あとは、ユーギニスにどう対応するかですね。」
「ソフィア国王代理はそれほど甘い人間ではないのだがな。
結界の壁を作り出されたことを考えたらわかると思うのだが…。」
問題はココディアの貴族、平民の間で、
ソフィア国王代理は我が国を救ってくれるはずという考えが根付いていることだった。
これも王家の血を信仰していることが原因だ。
ソフィア国王代理はココディア王家の血をひいている。
だからココディアを守る義務があるし、守ってくれて当然だと。
これを変えるのは難しく、ココディアの貴族に聞かれれば否定するのだが、
否定した言葉を向こうに否定されることが多かった。
「まだ若い王ですからね、わからないのも無理ありません。」
なんてことを返され、微笑まれたことも多々ある。
うっとおしいことこの上ないが、それ以上否定しても意味が無いとあきらめた。
「むしろ……ソフィア国王代理はココディアを恨んでいるかもしれないのになぁ。」