軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76 コンラート 10

姿形はいつもの弟なのだけれど、発せられる言葉の内容が大人びているというか、すれているというか、斜めからの意見過ぎるというか、とにかくコンちゃんらしくない。

だから、恐る恐る弟の名前を呼んでみた。

「コンラート?」

すると、コンラートは面白そうな表情を収めて私を見つめ、言い聞かせるかのようにゆっくりと言葉を紡いだ。

「……なーんてね。そんなわけ、ないからねー。ねぇ、お姉さま、このきれーなお兄さんの言うことを信じてはだめだよ。王族や公爵家の人間は、恋なんてしないんだから。そんな何の役にもたたない、何の価値もないものに心が動かされることなんて、決してないんだから」

「コンちゃん?」

ええっと、いくら元喪女だとしても、まさか私は3歳児から恋のアドバイスを受けているのかしら……

「公爵家ってのは、計算高いし、策略家だし、家としての利益を最大限追及するからねー。簡単に好きだとか嫌いだとかの感情を売り買いするし、コントロールできる。だから、彼らの『好き』という言葉には、何の重みも価値もないんだよ。『好きだ』と言って心を操り、簡単に人を殺めることだってできる。……ねえ、そうでしょう、ジョシュア兄上?」

そう言って微笑んだコンラートの表情は、子どもらしい無邪気さに溢れているように見えたけれど、その瞳だけは笑っておらず、深い深い闇の底を覗き込むような暗さを感じさせた。

私は無言のまま、そんなコンラートをじっと見つめる。

弟の表情がいつもと違うように見えることに加えて、話す内容が格段に大人びていて、まるで別人を見ているような気持にさせられたからだ。

これは本当にコンラートなのだろうかと不審に思う私の後ろから、掠れたようなジョシュア師団長の呟きが聞こえた。

「ダリル……」

思わず振り返ると、コンラートを見つめていたジョシュア師団長は、いつの間にか真っ青になっており、額からはだらだらと汗が滴り落ちていた。

「……は……っ」

そしてそれは、師団長の後ろにいたルイスも同様で、こちらは更に声も出せないような様子だった。

確かに、亡くなったはずの弟に似ている(?)髪色の子どもが現れて動揺しているのは分かるけれど、……加えて、先ほどコンラートはジョシュア師団長に冗談で(?)『兄上』と呼び掛けていたけれど、……それにしても動揺しすぎのように思われる。

そう思う私の腕の中で、コンラートはぎゅっと私にしがみつくと、強請るような声を出した。

「ねぇ、お姉さま、ずっとずうっと僕と暮らそう? お姉さまは僕におやつを作ってくれればいいし、代わりに僕は、嘘つきで保身しか考えない貴族たちからお姉さまを守ってあげる」

「コンちゃん……」

それはとっても素敵な未来に思われた。

悪役令嬢として追放された私の未来としては、元気でおやつを食べられるくらいには裕福に暮らしていて、自分の関わりたくない人(攻略対象者)と関わらないでいい生活は、とても素敵に思われる。

けれど……

「コンちゃん、とっても魅力的なお誘いだけど、お姉さまにはお仕事が残っているの。サフィアお兄様が『東星』に攫われてしまったのよ。お姉さまにとっては、コンちゃんと同じくらいにお兄様も大事だから、お兄様が見つからないうちはコンちゃんとどこにも行けないわ」

「えええ?」

私の言葉を聞いたコンラートは、寄せていた体を私から離すと、びっくりしたように目を丸くした。

「サフィアが心配って、……アレは、どうしようもないくらい強いよ? 間違いなくジョシュア兄上より、誰よりも強いよ? それこそ『四星』だとか超越した存在くらいしか、サフィアをやっつけられないんだから!!」

「いや、コンちゃん、サフィアお兄様の魔術は凄いかもしれないけれど、所詮はまだ学生だからね。職業としてやっていらっしゃる魔術師団の皆様とは比べられる訳もないから。ましてや、魔術師団のトップである師団長に比べたら、お兄様は足元だからね」

隣に立ってこちらの話をうかがっているジョシュア師団長の視線を気にして、慌ててコンラートをたしなめる。

「それから、お兄様が攫われたのは、正にその『四星』のようだから、とても心配なの。出来るだけ急いで助けに行かないと……」

「…………」

私の話を聞いていたコンラートは、黙って下を向いてしまった。

私は視線でお願いして、ラカーシュが私の腕に添えていた手を離してもらった。

ラカーシュは不承不承といった様子で手を離したけれど、何かあった場合はすぐに対処できるようにと私のすぐ後ろに位置を取る。

その抜かりなくも慎重な様子が彼らしいと頼もしく思いながら、片手でコンラートを抱き上げたまま、もう片方の手で弟の背中を上から下にゆっくりと撫でた。

「ねえ、コンちゃん。私はサフィアお兄様に色々と助けてもらったわ。……お兄様の話だと、私は7歳の時に弟を亡くしていて、それからすぐに青紫色の四足獣を抱えてきたらしいわ。……その小さな子にこの部屋を与え、『コンラート』と呼ぶのを許してくれたのはお兄様だった」

私の話を聞いたコンラートはびくりと目に見えて分かるほどに体を強張らせた。

「コンちゃんは……お兄様のことが好きじゃない?」

そんなコンラートを見下ろしながら、意識して優しい声で尋ねると、弟は小さな声で返事をした。

「…………お姉さまのことを大事にしているから、好き」

コンラートの返事に安心して、思わず小さく息を吐くと、コンラートの頭をよしよしと撫でる。

「ありがとう、コンラート。あなたは、お兄様がどこにいるのか、知っているかしら?」

「……知っている。けど……、僕は……」

腕の中の弟がぶるぶると体を震わせ始めたので、思わず名前を呼ぶ。

「コンラート?」

コンラートはしばらく口を開くかどうかを躊躇していたけれど、観念したように口を開いた。

「僕はお姉さまのことが大好き、だけれど……、聞かれたことには全て答えたいけれど、『東星』には逆らえない……」