軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

57 魅了の力 15

サフィアお兄様とジョシュア師団長の会話を黙って聞いていた私だったけれど、意味が分からな過ぎた。

2人が何の話をしているのか、ちっとも理解できないと首を傾げていると、同じように首を傾げているルイスと目が合う。

『お互いに言葉が足りない兄を持つと、苦労するわねー』

そんな意味を込め、同じ被害者の同士のつもりで微笑みかけると、「兄上とサフィア殿は、凡人が理解できない高みの話をされていて、かっこいいなあ」と返された。

……えっ? そういう発想なの?

驚いてルイスを見ると、きらきらとした目で見返される。

うっ、眩しい! ルイスのきらきらな瞳が眩しいわ!

ああ、私がとっくに失くしてしまった、ピュアなものを持ち続けているルイスの純粋さが眩しすぎるのだけれど!

そう思い、目を瞬かせていると、サフィアお兄様が私の頭に手を乗せてきた。

「ルチアーナ、これから説明することをよく聞くんだ。そして、どうしたいのかをお前が判断しろ」

「えっ? わ、私がですか?」

驚いて聞き返すと、兄は肯定するかのように頷いた。

「ああ、私も、師団長殿も、自分たちが最善だと考える結論は確認した。が、当事者はお前だ。私たちが決めて良いことではない」

兄の言葉を聞いて、ほっと安心する。

……王国の陸上魔術師団長が、直接出てくるような案件だ。

ことは個人の問題を超えており、国家単位で考慮すべき問題に違いない。……そう思っていた。

だから、サフィアお兄様のアドバイスの元、ジョシュア師団長がどのような結論を出したとしても、従うしかないのだわと覚悟していたのだけれど、私に選択権があると兄は言う。

これはとってもありがたいことだわと、私は正面から兄を見つめた。

「お兄様、私に選ばせてくださって、ありがとうございます。ただ、理解が悪くて申し訳ないのですが、横で聞いていても、お兄様たちが何を言われているのかがさっぱり理解できませんでした」

「ああ、そうかもしれないな」

そう言うと、兄は考えるかのように片手を顎に添えた。

「ルチアーナ、お前は何者かに魅了されている。そして、その術者は執着心も露なことに、お前の瞳にわざわざ印を入れた。印を読み解かれ、何者であるかを特定されるリスクを恐れることなく」

兄は私が理解できるようにと、既に知っている話から始めてくれた。

「お前の瞳に刻まれた印を確認した際、『星』をかたどった印のように私には見えた。だとしたら、……第一級禁書である『開闢記』に記されている、『四星』という存在の可能性が高い」

「よつぼし?」

初めて聞いた単語に首を傾げる。

そう言えば、先ほど兄と師団長の話を盗み聞いていた際も、この『四星』という単語が出た辺りから、さっぱり意味が分からなくなったのだ。

「………『開闢記』に記されている存在と関りがあるとしたら、大変なことだ。『四星』は、国や人などとは全く別のカテゴリーに存在している。だから、『四星』が私たちと関わろうとした時、どのような甚大な損害を与えられるか、あるいは莫大な利益を与えられるかは、一切不明だ。『四星』と関りがあると国に知られたならば、お前は国から幾つもの鎖をはめられるだろう……勿論、これは比喩だがな」

「え、ええ……」

先ほど、私も同じようなことを考えたなと思いながら、兄の言葉に頷く。

私は兄が鎖に繋がれるものだと思ったけれど、兄は私が鎖に繋がれる恐れがあると言う。

あるいは、兄も私も両方とも鎖に繋がれる可能性があるということだろうか。

混乱する私に対し、兄は話を続ける。

「だが、一方では、国に認知されることで、その庇護を得られるのも確かだ。お前は幾ばくかの自由を手放す代わりに、国からの守護を与えられる。さて、どちらがお前にとって、望ましいのか?」

そこで兄は一旦話を切った。

どうやら、この非常にざっくりとした話で、2つの選択肢を提示したつもりらしい。

一つは、私が『四星』に魅了されていると国に認知され、自由を制限される代わりに、国から守護を得る選択。

一つは、国には何も報告せず、自分で自分の身を守る選択。

分かり易い説明ではあったけれど、兄にしては少し説明が足りていないな、と思ったところで、ああ、もしかしたら、これ以上は兄も知らないのかもしれないと思い当たる。

そしてふと、私が『 世界樹(ユグドラシル) の魔法使い』ではないかと、以前兄から確認された時のやり取りを思い出した。

あの時は、私の知っているゲームの中にそんな設定は一切ないと、取り合うこともなかったけれど、そもそもあの時ですら、兄は詳しく説明しなかった。

『開闢記』に記載されている話なので、詳しい話は不明なのだろうと思っていたけれど、今回も同様なのかもしれない。

そう考える私の前で、兄は再び口を開いた。

「ジョシュア師団長にはルイス殿の他にももう一人、オーバン殿という弟君がおられる。そして、オーバン殿は王国国立図書館の副館長をしている」

「え、ええ」

突然の話の転換のように思われ、ぱちぱちと瞬きをする。

―――オーバン・ウィステリアですね。勿論、知っていますよ。

「王国国立図書館は他と異なり、多くの禁書が収められている。禁書を読むことができるのはもちろん、そこに書かれている内容を口にできるのも図書館員のみだが、特に……第一級禁書に指定されている書物については、館長もしくは副館長しか扱えない。なぜなら、口に出すことで言葉は形を持つからだ。万が一にも誤解を招いてはいけない内容のため、そのことについて発言できる者は、この国でたった2人しかいない。……そのため、『開闢記』に関連する何事かを確定する時には、この2人のうちのどちらかの発言が必要になる」

「な、何て大仰な……」

思わず言葉が零れたけれど、考えてみたらそんなものかもしれない。

『開闢記』には、世界の始まりから終わりまでが記録してあるという。

そこに記載されている内容が重要なものであることは、間違いない。

そして、大体においてそのような書物は、取り方によって、どうとでも解釈できる表現が使用されている。

『開闢記』に書かれているのは、『世界の始まりから終わりまで』だ。

誤った解釈が伝わった結果、民衆が不安に陥る恐れは十分ある。

だから、慎重に慎重を重ねたうえで取り扱うというのは、正しいのだろう。

確かに、先日、兄が『 世界樹(ユグドラシル) の魔法使い』の話をした時も、噂話レベルの内容でしかなかった。

多分あれが、兄が口にできる精一杯だったのだろう。

けれど……

口にできることと、知っていることはイコールではないわよね。

そう思い、私はじとりと兄を見つめたのだった。