軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55 魅了の力 13

丁度その時、ルイスも「春の庭」に足を踏み入れたところだったようで、漏れ聞こえてきたサフィアお兄様とジョシュア師団長の会話に驚いたような声を上げた。

「え、兄上とサフィア殿はお知り合いだったの!?」

ルイスの言葉にジョシュア師団長が顔をしかめる。

「お知り合い……。そんな言葉じゃあ、片付かないだろう。『高位の者であるほど、より多くの義務を課されるべきだ』との王国規範に基づいて、13になったばかりのサフィアを魔術師団で預かりはしたが……、私は凡人魔術師だということを痛感させられた3年間だった」

ジョシュア師団長の言葉を聞いたルイスは、全く意味が分からないと言った風に大きな目をぱちぱちと瞬かせた。

「はい? 何を言っているの? 兄上は、誰も成しえない程の好成績を残したから、史上最年少で魔術師団長の座についたのでしょう? 誰もが、兄上は天才だって言っているよ?」

ジョシュア師団長は可笑しくもなさそうに唇を歪める。

「事実とはだいぶ違うが、……そうだな、確かに、 私(・) は(・) 魔(・) 術(・) の(・) 常(・) 識(・) が(・) 覆(・) さ(・) れ(・) る(・) 現(・) 場(・) に(・) 居(・) 合(・) わ(・) せ(・) た(・) 。そして、不本意なことにそれは私の功績となり、その際の異常なまでの昇進具合からこっち、師団長にまでなれたのだが………」

ジョシュア師団長は何事か含みを持たせ、わざとらしいほどに兄を見つめていたけれど、兄は知らない振りを決め込んでいた。

そのため、ジョシュア師団長は諦めた様に小さくため息をつくと、ルイスに向かって皮肉気に微笑んだ。

「……悪いな、ルイス。この辺りの情報は、かなり広範囲に秘匿義務が課せられていて、話せる部分がほとんどない」

「う、うん。もちろん兄上の任務はいつだって重大なもので、秘匿情報にかかるものが多いのは分かっているから」

「……そうか。だが、私にかかっている秘匿義務というのは、突き詰めてしまえば、ある1人の人物に関することなのだが。……なあ、サフィア?」

ジョシュア師団長からじろりと睨め付けられた兄は、大袈裟に肩をすくめていた。

「やー、もしかして私は今、足抜け禁止の軍を何度か抜け出して、領地に戻ったことを責められているのか?」

「サフィア! お前はほんっとに、そのとぼけ具合をいい加減にしろよ? ああ、もういい! そうだな、軍からあんなに自由に抜けだしたり、戻ったりする者なんて、私の長い軍生活を振り返ってみても、お前の他にはいないわ! 私が何度お前の不在を上官にごまかしたと思っている! お前のせいで、私は禿げる寸前までいったぞ!」

「いやー、あの程度の個人行動くらいで、禿げると脅されてもなあ。それに、10年程度の軍生活を長いと表現されるのもなあ。師団長殿は相変わらず、物言いが大袈裟だ」

「サフィア!!」

大声で兄を怒鳴るジョシュア師団長を見て、ルイスは目をぱちくりとしていた。

「あ、兄上が怒鳴るなんて……。兄上とサフィア殿は、本当に仲が良いんだね。……要するに、兄上とサフィア殿は、何年もの間、魔術師団で共に働いていたことがあったってことだよね?」

「『共に働いた』! すごいな、言葉ってのは、真実の一片だって伝えないものだと、改めて感じさせられるな!! 私はただただ、サフィア、お前に振り回されるだけの日々だったというのに!!」

「やー、本当に師団長殿は、物言いが大袈裟だ」

興奮するジョシュア師団長と呆れたように肩をすくめる兄を見て、思ってもみなかった組み合わせだけれど、仲がいいのねと意外に思う。

……というか、兄は非常に個性的で、付き合う相手としては滅多に選ばれないように、一見思われるのだけれど。

けれど、不思議なことに実際には、兄と合わないという人をほとんど見たことがない。

何だろう。ちょっとした個性の強さだったら好悪が分かれるものだけど、卓越した個性の場合、誰もが諦めてしまい、その相手に合わせ出す傾向があるのだろうか。

徹頭徹尾兄の文句を言い続けているジョシュア師団長だけれど、決して兄を嫌いなようには見えない。

不思議に思い、こてりと首を傾げていると、兄と目が合った。

すると、兄はちょいちょいと私を手招きしてきた。

「やー、師団長にご足労いただいた理由は妹でして」

兄の言葉にはっとしたように私を見つめるジョシュア師団長に対し、兄は流れるように言葉を続けた。

「妹のルチアーナが『魅了』を掛けられており、ご丁寧にその印まで入れられている。……何とかしてもらえないだろうか、閣下?」

そう言いながらにこりと微笑んだサフィア兄様は、―――誰の目にも、私の案件をジョシュア師団長に丸投げしようとしているかのように見えた。