軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39 コンラート 5

「ちょ、お、お兄様、一体何を……」

私は慌てて立ち上がると、兄に向かって両手を突き出した。

いや、お兄様の一風変わった冗談ではあるのでしょうけど。

でも、言われた本人が正面から受け止めると、非常にダメージを受ける発言だわ。

コンラートが幼すぎて、あまり意味が分かっていないだろうことだけが救いだけど、でも、これは駄目な種類の冗談だわ。

そう思って、兄を止めに入る。

「お、お兄様、の冗談にしては、珍しく意図が分かりません。ええと、聞いたコンラートがどう受け取るかしら?」

けれど、兄はいつもと違い、全く冗談で返してこなかった。

顔もにやにやとした面白がるようなものではなく、真顔になっている。

一体どうしたのかしらと首を傾げていると、兄はコンラートに視線を定めたまま質問してきた。

「この5分間何をやっていた?」

「へ? 5分間というと……ちょうど、コンラートがお菓子を食べるのを眺めていたと思いますけど。……ええと、お菓子は私が手作りしました」

私の言葉を聞いた兄が、ちらりとお菓子が入った皿に視線を動かしたので、私の手作り品であることを補足する。

ええ、まあ、確かに全体的に茶色っぽくて、華やかさに欠けるお菓子ではありますよね。

そう考え、少しだけ気落ちしていると、コンラートが慰めるかのように口を開いた。

「んー、 コ(・) ン(・) ち(・) ゃ(・) ん(・) は(・) 、 お(・) 姉(・) さ(・) ま(・) が(・) 作(・) っ(・) た(・) お(・) 菓(・) 子(・) を(・) 食(・) べ(・) た(・) か(・) ら(・) 、 動(・) け(・) る(・) よ(・) う(・) に(・) な(・) っ(・) た(・) よ(・) う(・) 」

「コンちゃん! なんて、優しいの!」

私の気落ちしていた気持ちを読み取って、フォローするかのように優しい言葉を掛けるコンラートに、思わず感動する。

「お兄様、ちょっと訳があって、コンラートとこの家を出て行く話をしていたのですが、その際にこの子は、『お菓子を食べないと動けなくなる』と言ったんです。つまり、コンラートにとって1番大切なのはお菓子なんですよ。そんなコンちゃんが、私の作ったお菓子で元気になったと言ってくれるなんて!」

「お前は、……そんなに簡単に弱点を聞き出しておいて……」

兄は頭痛がするとでもいうように、顔をしかめた。

「お兄様?」

兄の表情が今の状況にそぐわなすぎて、思わず首を傾ける。

けれど、兄はわずかに目を眇めると、聞こえない程の小声で何事かを呟いた。

「……なるほど。魔法使いの手作り菓子が 発動条件(トリガー) だったのか」

それから、兄は私に近くに来るようにと手で合図をした。

何かしらと思いながら近付いて行くと、兄は無言で私の顎を掴み、至近距離から覗き込んできた。

「お、お、お兄様?」

近すぎると思い、慌てて離れようとしたけれど、兄の力が強くて顔を離すことができない。

まあ、掴まれている部位はちっとも痛くないのに逃げられないって、どんな掴み方をしているのかしら?

そう考える私の気持ちなどお構いなしに、兄は私の瞳をまじまじと覗き込んだ後、苦々しそうに呟いた。

「……『魅了』か。やっかいな」

「へ? あ、あの、お兄様……」

「……学園へ戻る時間だ。別れを言え、ルチアーナ。『コンラート』に普段通りの別れを告げるのだ。刺激することなく、普段通りであることを示すだけでいい」

兄の発言は全く理解できなかったけれど、フリティラリア公爵領の一件で兄が信頼できる人物だということは分かったので、言われるがままにコンラートに向き直る。

「ええと、……それじゃあね、コンちゃん。お姉さまは学園に戻らないといけない時間になってしまったわ。週末にはまた帰ってくるから、おりこうさんにしておいてね」

「はあい、お姉さま! コンちゃんはおりこうさんにしているから、絶対に帰ってきてね!」

「も、もちろんよ、コンちゃん! 約束するわ!!」

最後にコンちゃんを抱きしめようと思ったけれど、兄が片手を握りしめたまま離してくれないので、弟が座っているソファの近くに戻ることが出来なかった。

じろりと恨めし気に兄を仰ぎ見たけれど、無視をされ、コンラートの部屋の扉をバタンと閉められる。

それから、腕を握られたまま、足早に玄関まで急がされた。

途中、兄は歩きながら、玄関近くにいた執事に指示を出していた。

「『コンラート』の部屋付近には、しばらく誰も近付けるな」

「え、ちょ、何てことを申し付けているんですか! しばらくってどれくらいですか? あの子は小さいんですから、色々とお世話をする人が必要ですよ!」

慌てて言い募るけれど、これまた無視される。

まあまあ、何てことでしょう。

いいですわ、お兄様。上等ですわよ! 可愛いコンラートのためならば、私は戦いますからね!

そう憤る私の手を掴んだまま、兄はそのまま馬車に乗り込んだ。

「へ? お、同じ馬車で学園に戻るんですか? というか、このまま? 私の荷物は部屋にあるんですけれど……」

もはや、兄の行動が全く理解できなくなったため、私はぱちぱちと瞬きを繰り返した。

……これは一体、どうなっているのかしら?

お兄様と私はいつも、学園へ往復するのに別々の馬車を使っていたはずだけれど?

というか、私はフリティラリア公爵領から戻ってきてすぐにコンラートの部屋に行ったから、荷物は何一つ整理できていないし、部屋に置いたままなのだけれど。

「お、お兄様?」

困惑して尋ねる私に対し、サフィアお兄様は無言で見返してきただけだった。