軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33 フリティラリア公爵の誕生祭 24

馬車に乗り込むと、ユーリア様から物言いたげに見つめられた。

先ほどのラカーシュの言動について尋ねたいのだろうなと思い当たった私は、先手を打って口を開く。

「今日のラカーシュ様は、ご機嫌でしたね!」

「ご機嫌……そんな言葉で片付けられるものかしら?」

私の言葉を繰り返したユーリア様が、不思議そうに首を傾ける。

私は勢いが大事だと、こくこくと首を縦に振った。

「ええ、勿論です! ラカーシュ様はもの凄いご機嫌でしたよ!! その証拠に、いつになく沢山話をされたし、私にまでお世辞を言われました」

「お世辞……。あれを世辞と表現するものかしら?」

さらに不思議そうに、ユーリア様が深く首を傾ける。

私の言葉に全く納得していない様子のユーリア様を見て、困ったなと思った私は、ラカーシュ兄妹に迷惑がかからない範囲で、先ほどの事柄を打ち明けることにした。

なぜなら、話に真実を混ぜることで、往々にして説得力が増すからだ。

「ええと、……実は先ほど、フリティラリア城の一部が壊れまして、その時にセリア様と一緒だったんです。その際、私がセリア様を庇ったようにも見えなくもない場面があってですね。そのせいで、もしかしたら、ラカーシュ様は私に少し恩義を感じているかもしれないです」

「あら、凄い音がしたので何事だろうと思っていたのだけど、あれは城が壊れた音だったのね。あまりの轟音に何事かしらと多くのお客様がざわついていたのだけど、公爵家の方からは、『城に老朽化した部分があるから、一部改修を行っている。お客様がいる間は、音を出さない作業を行っていたはずだが、手違いがあったようで申し訳ない』と説明があったのよ」

「改修工事……」

ユーリア様の話を聞いた私は、なるほどと思い、ぽつりと単語を繰り返した。

そうよね、すごい音だったから、当然みんなに聞こえていたわよね。

そして、公爵家としては、参加者を心配させまいと作り話をするはずよね。

危ない、危ない。公爵家の説明と相反する話をしてはいけないわ。

私は慌てて話を合わせにかかる。

「そ、そうです。つまり、工事の一環でお城の一部が破壊されたのですが、セリア様と私が、うっかり巻き込まれ事故みたいになってですね。その際に、セリア様はだいぶ動揺されていたので、ラカーシュ様も感情的に引っ張られて、いつになく感情豊かになっているのかもしれません。……ふふ、おかげで、居合わせた私に感謝をしたのか、それからずっと、私が素敵に見えるフィルターが、ラカーシュ様にかかりっぱなしなんですよ」

最後の方は笑い話に転換しようと、面白がるような表情で話をしたにもかかわらず、ユーリア様は笑わなかった。

それどころか、真面目な顔で見返される。

「ルチアーナ様、男性にとって一人の女性の行動がことごとく素敵に見えるとしたら、それは……」

「それは?」

ユーリア様の言いたいことが分からなかったため、教えてもらおうと聞き返す。

けれど、ユーリア様は途中で気が変わったようで、ふっと微笑むと口をつぐまれた。

「え? あの? ちょ、どういうことですか? ラカーシュ様がどうしたってことなんですかね?」

途中で話を止められて疑問符だらけの私は、きょろきょろとユーリア様と兄を交互に見やる。

すると、兄は呆れたように口を開いた。

「どうしたのかって……、お前、理由もなく『ルチアーナ素敵フィルター』がかかるということは、ラカーシュ殿がお前に…………止めた」

けれど、結局、兄も肝心なところで話を打ち切ってしまう。

「へ? ちょ、お兄様、分かっているのなら教えてくださいよ!」

「お前は16にもなって、こんなことまで説明をされないと分からないとは。感情が成熟されなさすぎだ。自分で考えろ」

「そ、そんな!!」

悲痛な声を上げる私を、ユーリア様は面白そうに見つめてきた。

「あらまあ、本当に、……サフィア様の妹君は、サフィア様が言われる通り幼いようだわ」

「うむ。妹に高等教育が必要なのは間違いない」

兄はしかつめらしい表情で肯定した。

いつの間にか、私を置いてけぼりにして話が進んでいる。

私はきょろきょろと2人を交互に見つめてみたけれど、ユーリア様は私の疑問に答えることなく、考えるかのような表情で口を開いた。

「ラカーシュ様は完全無欠だと思っていたけれど、そちらの方面は疎いかもしれないわね。何せ、経験が全くないでしょうから。暫くはご自分の感情を受け入れられなくて、持て余してしまうかもしれないわ。……ふふ、でも、あの方は物凄く優秀だから、1度受け入れてからは早いでしょうね」

ユーリア様は可笑しそうに笑った後、悪戯を思いついたような表情で兄を見た。

「何事にも公明正大な方だから、自分の感情を自覚された後は、保護者役であるサフィア様のところに、正々堂々と交際のお申込みがあるかもしれないわ」

「やー、それは願ったり叶ったりだな。せっかく外見が美しい妹がいるのだから、多くの男性から申し込みがくるのを楽しみにしていたのだ。何と言っても私の夢は、妹にまとわりついてくる有象無象の若者たちを返り討ちにすることだからな」

兄が楽しそうな表情で返事をする。

返り討ち!

何て兄に似合う言葉だろうと思いつつも、話にのぼっている相手がラカーシュならば、この勝負はどちらが勝つのかしらと考える。

サフィアお兄様対ラカーシュ。……絶対、その場に居合わせたくはないわね。

そう戦々恐々としている私の前で、ユーリア様は可笑しそうな声を上げた。

「まあ、それは……。実質的には申し込みを許可しないと言っているようなものじゃないの。ふふふ、結局、サフィア様も妹君を手放したくないのね」

微笑んでいるユーリア様に対し、兄はいつものとぼけたような表情で返事をしていた。

「さて、私はやりたいことをやっているだけだがね」