軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 フリティラリア公爵の誕生祭 19

頬を赤らめたラカーシュを見て、本能的に何だかまずいと思った私は、セリアに向かって声を掛けた。

「セ、セリア様!」

「はい、ルチアーナ様、何でしょう?」

名前を呼ばれたセリアはニコニコと満面の笑みで、私の言葉を待っている。

ああ、まずいわ。いつの間にか、セリアが親鳥を待つ雛鳥のようになってしまっているじゃあないの。

それなのに、お兄様に言われるまで気付かなかったなんて不覚だわ。

ラカーシュをちらりと見やると、その彫像のように整った顔は相変わらず無表情だったけれど、頬が未だに赤らんでいる。

恋愛偏差値が低すぎて、ラカーシュの赤らんだ頬の意味は理解できていないけれど、今までのように嫌悪感満載という雰囲気ではなくなってきている気がする。

そうよね。一緒に戦ったし、仲間意識みたいなのが生まれていてもおかしくはないわよね。

それだって、望まない感情ではあるのだけれど。

どう見たって望まない方向に盛り上がっているフリティラリア兄妹の感情を方向転換させたくて、私はセリアに約束を思い出させることにする。

「セリア様、あなたは先ほどの狩りの時間に私とお約束をなさいましたよね。今回のイベント期間、危ないことは決してなさらないと」

「ええ……」

私の発言の意図が分からないセリアは、不思議そうに返事を返してきた。

私は感心したような表情を作ると、セリアを正面から見つめる。

「私との約束を守っていただくため、魔物からご自分の身を守ろうと走り去られるなど、セリア様は実にご立派でしたわ! そして、『先見』にて危険が去ったことを予見したというのならば、今回の滞在において、危険なことをされる可能性はもうありませんね。セリア様、お約束を守っていただきありがとうございました」

「え、あの、ルチアーナ様……」

私の言いたいことが分からず、戸惑ったような声を上げるセリアに向かって、私はにこりと微笑んだ。

「ですから、私もお約束を守りますわ。私は今後一切、二度と決して、ラカーシュ様には近付きません!」

「そんな!」

約束の内容を思い出したセリアが絶望的な声を上げた。

ラカーシュは相変わらずの無表情だったけれど、私の絶縁宣言を聞いた途端、びくりと体を強張らせた。ちらりと見ると、頬の赤みも引いたようだ。

それまで黙って成り行きを見守っていた兄は、理解できないと言った風に声を上げた。

「ふうむ、ルチアーナ。お前の恋の駆け引きは、難解すぎて人を選ぶな。お前が望んでいるところが全く見えないので、意見を差し挟むことははばかられるが、このやり方では何一つ手元に残らないぞ」

兄の言葉を聞いた私は、うつむいた振りをしてにやりと微笑んだ。

ふははははは、お兄様。それですよ。

手元に何一つ残らない。それこそが、正に私の狙いなのです。

してやったり感一杯で、うつむいてにやにやとしていると、私の視界に磨き抜かれた靴先が入ってきた。

思わず目を上げると、彫像のように整った美貌が目の前にあった。

うぐっ! これは本当に、油断をしたまま見つめていい顔じゃあないわね。

息が止まるくらいの美貌って、このことだわ。

そう思ってラカーシュを見つめていると、彼はすっと上半身を倒してきた。

「へ?」

思わずぽかんと見つめていると、耳に心地よいバリトンボイスが響いてくる。

「ダイアンサス侯爵令嬢、君に対して行った全ての無礼な行為に対して謝罪をする。誠に申し訳なかった」

体を倒したのは、私に謝罪するためだったのだと気付いた私は、驚いて声を上げた。

「へ? へええ? いや、ラカーシュ様、あなたが謝るようなことは、何一つありませんよ!」

本当に、何一つ思い当たらない。

確かに私に対するラカーシュの対応は、紳士の手本とは決して言えなかったけれど、元凶は私なのだ。

「元はと言えば、迷惑がられているのも顧みずにエルネスト殿下につきまとっていたり、上級貴族でありながら一切の貴族の義務を果たさずに怠けていたりした私が悪いのです。ラカーシュ様が私に嫌悪感を抱くのは、至極普通ですわ」

私は両手を目の前でぶんぶんと振ると、勢い込んでラカーシュの正当性を主張した。

「いや、ご令嬢、そのように自分を貶めるものでは……」

私の口から飛び出した私自身に対する評価に対し、驚いたように口を差し挟んできたラカーシュだったけれど、私の最後の台詞を聞きとがめると、はっとしたように目を見張った。

「嫌悪感……私の言動は、君がそう認識するほど酷いものだったのか」

ラカーシュの無表情が崩れて、彼が後悔している様子が透けて見える。

ええと、どうしたのかしら、ラカーシュは?

何だか突然、親し気になったように思われるのだけれど。

妹のセリアを助けられたと思って、突然私が正義の味方に見えてきたのかしら?

そう言われれば、色々なスポーツでもそうだよねと、知っているものに当てはめて考えてみる。

チームみんなで頑張っていても、最後に点数を入れた人が、ヒーローとして祭り上げられたりするわよね。正に今、あんな状態なのかしら。

魔物を倒した際、最後の一押しをしたのが私だったから、ラカーシュには私がヒーローに見えてきたとか?

……うーん、自分で言っておきながら、ハズレている気がする。

そこまで考えた時、私はハッとして大事なことを思い出した。

「そうだわ! 『 世界樹(ユグドラシル) の魔法使い』! うやむやになっていたけれど、あれはどうなったんですか?」

尋ねながら、ラカーシュと兄を交互に見やる。

私は絶対にそんな物珍しくも貴重な存在ではないという自信があるのだけれど、この2人も分かっているのかしらと心配になったのだ。