作品タイトル不明
265 聖夜祭前イベント 2
私がお姫様で、お兄様が騎士ですって?
私たちのチームにはたくさんの生徒がいて、平等にプディングを食べたのに、こんな偶然が起こるものかしら。
疑う気持ちが芽生えたけれど、すぐに偶然に決まっているわと自分に言い聞かせる。
「いつもより遅めに起きて、プディングの真ん中部分を食べたのは私だわ。お兄様が画策できる余地はなかったはずよ。でも、偶然だけとも言い切れないから、きっとお兄様が強運を引き寄せたのね」
何てことかしら。お兄様は運ですらコントロールできるのかしら、とため息をついていると、兄がにこやかに尋ねてきた。
「ルチアーナ、役付きはそれぞれ外部から、一人の応援者を呼ぶことができるようになっている。お前はどうしたい?」
お兄様ったら、難しいことを聞いてきたわね。
たとえば策略に長けた者とか、魔術に長けた者とか、領地戦の助けになりそうな人を呼んではどうかと、兄は私に確認しているのだろう。
けれど、そのどちらも満たす人物といえば、やはり先日兄が提案したジョシュア陸上魔術師団長とアレクシス海上魔術師団長の2人しか思い浮かばない。
そして、その2人は強力過ぎるから、参加させた場合、ゲームのバランスが崩れてしまうだろう。
「私はお兄様に守ってもらうので、他の者は不要です」
敢えて兄が気に入るような言い回しを使うと、兄は満足気な笑みを浮かべた。
それから、兄は優雅な仕草で片手を胸に当てると、片足を後ろに下げて紳士の礼を執る。
「プリンセスのお望みのままに」
兄がふざけているのは分かっていたけれど、その姿は小憎らしいほどキマっていた。
兄は華やかな雰囲気を持っているし、どんな動きをしても見栄えがするので、いつだって魅力的なのだ。
その証拠に、兄がいったん目を伏せ、再び視線を上げただけで、何ともいえない艶っぽさが生じ、その場にいた大勢の女子生徒が奇声を上げた。
「ひゃああああ、サ、サフィア様から流し目をいただきましたわ!」
「わ、私もいただきました! ありがたいことですわ。これで聖夜祭に出た甲斐がありましたわ」
「皆様、落ち着きなさいませ! 終わったような口ぶりですけど、聖夜祭はこれからですわ。そして、私たちはサフィア様と同じチームなのですから、今日一日たっぷりとサフィア様を鑑賞するチャンスがありますわ!!」
「「「最高ですね!!」」」
うっとりした女子生徒たちの声に続き、なぜか低い声が続く。
「さすがだな! 相変わらずサフィアは、何をやらせてもカッコいいな」
「その通りだ。『ご令嬢の好感度をアップするためのマナー講座』ってのがあるが、あの講座を受けるよりも、サフィアを観察して、片っ端から彼の所作をコピーするのが正解な気がするよ」
「サフィアって、いいよなー」
不思議なことに、昔から兄は男性人気が高いのだ。
以前、左腕を失って侯爵邸に籠っていた時も、お見舞い客の大半は男性だった。
「いえ、人気があるという表現は、正確ではないわね。羨望の眼差しというか、……どういうわけか一部の男子生徒は、女子生徒に負けないほどの熱い眼差しでお兄様を見つめるのよね」
でも、これは追及しない方がいい問題のような気がするわ。
私が覗いてはいけない男子生徒の暗部について考えていると、礼を一つ執っただけで部屋中の生徒の視線を集めた兄が体を起こした。
それから、兄はぐるりと生徒たちを見回す。
すると、部屋のあちこちで、「ひっ」「ひゃあ」と短い奇声が上がった。
兄はそんな生徒たちにうっすら微笑むと、右手と左手の親指で何かを天井に向かってピンピンと弾いた。
それから、生徒たちに視線を固定したまま、まっすぐ落ちてきたそれらを右手と左手でぱしりと受け止める。
その一連の仕草がものすごく洗練されて見えたため、これは女子生徒も男子生徒も兄に傾倒するわよね、とあきらめの境地に至った。
皆と同じように兄を見つめていると、兄は楽しそうな表情で両方の手を開いてみせる。
すると、誰もが予想した通り、兄の手の上で剣とティアラのミニチュアが輝いた。
どよめきが起こる中、兄がひときわ声を張り上げる。
「我が北チームの役が決まった! 私が騎士で、ルチアーナがプリンセスだ! 外部からの協力者は招聘しない。ここにいる全員で、優勝を目指すぞ!!」
兄の言葉に応えるように一斉に椅子から立ち上がり、歓声を上げる生徒たちを見て、兄は何でもできるのね、と私は改めて感心した。
私の知っている兄は、自らリーダーとして立とうとするタイプではないし、周りを鼓舞するタイプでもない。
けれど、役付きになってしまったため、兄か私のどちらかが、北チームのリーダーにならなければならなくなってしまった。
そのため、チームリーダーになるのは絶対に嫌だという私の気持ちを汲み取った兄が、自らリーダー役を引き受けてくれたのだろう。
そして、正しく役割を果たすために、生徒を鼓舞することにしたのだろうけれど、これ以上はないほど上手に盛り上げている。
声の張り方なのか、表情なのか、ポーズなのか分からないけど、絶妙に生徒たちを興奮させ、やる気にさせたのだ。
その気になった兄は誰をも引き付けることができるし、生徒たちを自由に動かすことができるのだわ。
すごいわねと感心していると、大歓声の中、兄が私を振り返り、耳元に口を近付けてきた。
それから、ぞくりとするような美声で囁く。
「ルチアーナ、そろそろ女子生徒は私室に戻って、プリンセスになる準備をする時間だ。私もお前の騎士となる準備をしよう」
どうして兄はいちいち刺激的な言い方をするのかしら。
そう思ったけれど、兄は普段通りの表情を浮かべていたので、これが兄の平常運転ならばどうしようもないわねと、私は諦めて頷いたのだった。