軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

245 王宮昼餐会 5

貴族にとって爵位はとても大切なものだ。

そして、その一族がどれほど国のために貢献してきたか、現在どれほどの力を持っているのかを推し量ることができる物差しにもなる。

平民から男爵に、男爵から子爵にといった、下位貴族の陞爵は稀にあるけれど、侯爵から公爵へ爵位が上がることなど聞いたことがない。

「え……ええと、陛下、さすがにそれは大盤振る舞い過ぎるお話ですわ。あっ、陛下はワインをたくさん飲まれていましたよね」

公爵になるなんてとんでもない話が飛び出したため、何とか誤魔化してしまおうとしたけれど、王は顔を赤らめながらも勢い込んで言葉を続けた。

「いや、酔ってはいるが、こんな大切な話は本心からでなければできない! ルチアーナ嬢のおかげで、我が一族は今後も玉座に座り続けることができるのだ! その行動に対して正しく礼をしなければならない」

嫌だ。公爵家なんかになりたくない。

心からそう思ったけれど、至尊なる王に面と向かって反対するのは難しい。

そのため、助けを求めて王太子とラカーシュを見つめたけど、2人は王が素晴らしい提案をしたとばかりに、うっとりした表情を浮かべた。

「ルチアーナ嬢が公爵令嬢か。とてもよく似合っているな」

「ああ、彼女の気品と気位の高さは、公爵令嬢にこそふさわしい」

ダメだ。この2人は目が曇っているから、公爵令嬢という立場が私にぴったりだと考えているわよ。

どうやら今回ばかりは、これっぽっちも助けにならないようだ。

他に方法がなかったため、私は問題を父に丸投げする。

「大変ありがたいお話ですけど、私が判断することは難しいですわ。父に相談してもよろしいでしょうか?」

私の言葉を聞いた王は、顔を曇らせた。

「うむ、やはりそうなるか。しかしなあ……実のところ、私はこれまでにも何度か、ダイアンサス侯爵に陞爵の話をしたことがあるのだ」

「えっ?」

「そうなんですか!?」

王太子とラカーシュが驚いたように王を仰ぎ見る。

それから、ラカーシュははっとした様子で立ち上がると、諫めるような声で続けた。

「王、陞爵するというのは非常に政治的な問題ですので、私がいないところで話をされるのがよろしいでしょう」

しかし、王は扉に向かおうとしたラカーシュを慌てて止める。

「ラカーシュ、お前は準王族だ! 妹の子であるお前は、私の甥でもあるのだからな。それに、お前は将来的に国の高官になるだろうし、筆頭公爵家も継ぐだろうから、聞いておくべき話だ」

王は真面目な顔で言ったけれど、ラカーシュは無言で空になった2本のワインの瓶に視線を向けた。

王が酔っぱらって、普段と異なる判断をしているのじゃないかと考えたらしい。

しかし、王に面と向かってそう言うわけにもいかないようで、ラカーシュは無言のまま再び椅子に腰を下ろす。

すると、王は説明を続けた。

「それで、ダイアンサス侯爵なのだが、彼はすごい傑物でな。我がハイランダー王国が国家レベルで救われたことが何度もあるし、彼自身がとんでもない魔術を使う。だから、彼は侯爵に留まっているべき人物では絶対にないのだ」

「……そうなんですね」

王が同意を求めるように言い募ってきたので、否定することもできずに頷く。

王が語った話は初めて聞くものだったし、驚くべき内容だったけれど、父であれば不思議じゃないわねと思う。

父も兄と同じで、それが何であれ、『できない』と困っているところを見たことがないのだ。

というよりも、兄の才能が父から引き継がれたものだと考えると、父もものすごいハイスペックなのだろう。

ただ、能力の高さと野心の大きさは必ずしも一致しない。

だから、王が父に何度も陞爵を打診したにもかかわらず、今もってダイアンサス家が侯爵位に留まっているということが、父の答えではないだろうか。

「ダイアンサス侯爵は公爵の地位に就き、誰からも敬われるべきだと、私は侯爵に説いたのだ。そして、公爵になった暁には、その地位にふさわしい行いをしてくれるよう何度も依頼した。しかし、毎回、清々しいほどきっぱりと断られているのだ」

ああ、父の気持ちが分かるような気がするわ。

父は王が言うところの『公爵の地位にふさわしい行い』をしたくないんじゃないかしら。

ほしくもないもの(公爵位)をもらったうえ、さらにやりたくないこと(公爵の地位にふさわしい行い)を強要されるんじゃ、割に合わないと思っているんでしょうね。

それにしても……と、私はちらりと王を見る。

残念ながら、王は我が家のことがちっとも分かっていないようね。

ここだけの話、どうしてもダイアンサス家を公爵にしたいのだったら、王はお母様に話を持っていくべきなのだ。

そうしたら、母が大喜びで陞爵の話を受けることは間違いないのに。

そして、母が大喜びすることを父は絶対に反対しないし、父の意見を覆すことは大変なので、よっぽどのことでない限り兄も動かない。

ううーん、ダイアンサス侯爵家のカーストを理解していない王の失敗ね。

まあ、私もダイアンサス家が公爵位に就くのは反対なので、教えてあげないけど。

そう考えていると、王が言いにくそうな表情で私を見た。

「……それから、ルチアーナ嬢、その、聖山のことについて、エルネストから報告を受けている」

「はい」

王太子と聖獣の契約について、王から根掘り葉掘り尋ねられたため、私が魔法使いであること以外は全て王に話したと王太子が言っていた。

そのことなら知っていますと頷くと、王はますます言いにくそうに言葉を続けた。

「それで、その、例のことについても報告を受けた」

「例のことですか?」

一体何のことかしら。

言われたことが分からずに聞き返すと、王は何かを押し付けるような仕草とともに王太子を見た。

王太子は口を開きたくなさそうだったけれど、王がしきりと目配せをするので、渋々といった様子で言葉を発する。

「ルチアーナ嬢、君が……『 世界樹(ユグドラシル) の羅針石』を解読したことについては王に報告済みだ」

「あっ、そうなんですね」

『 世界樹(ユグドラシル) の羅針石』とは、聖山の頂上に刺さっている巨石のことだ。

王太子の話では、その表面に世界の真理に到達するための『予言の言葉』が書かれているとのことだった。

だから、聖獣を救う場面に遭遇した時、「『 世界樹(ユグドラシル) の羅針石』に書いてあるから」と言って、王太子の火魔術で聖獣を包むよう提案したのだ。

その時のことを思い出しながら、何気なく返事をしたけれど、どうやら軽い話ではないようで、王太子は真剣な表情で目を細めた。

あら、何だかよくない表情に見えるわよ。

と思っていると、王太子は本当によくない話を始めた。

「以前も説明したことだが、『 世界樹(ユグドラシル) の羅針石』に記されているのは、世界の真理に到達するための『予言の言葉』だ。これまで誰ひとり解読することはできず、全ては謎に包まれていた。それなのに、ルチアーナ嬢は完璧に解読して聖獣を救ったのだ。その偉業を称える意味でも、やはりダイアンサス侯爵家は公爵位に陞爵すべきだ」