軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

226 王太子逆攻略計画 3

王太子が突然、私の髪形を褒めた理由は分からなかったけれど、これだけは言っておかなければいけないと思い口を開く。

「殿下は先ほども、皆の前で短い髪の私を評価する言葉を贈ってくれましたね。おかげで皆様の私を見る目が和らぎました」

高位貴族の令嬢の中に、理由なく短髪にする者は一人もいない。

そのため、貴族たちが私の短い髪を目にしたならば、まるで罪人を見るかのように蔑んだり、馬鹿にしたりするものだと覚悟をしていたのだけれど、今のところ友好的な態度ばかりだ。

もちろん、お兄様がこっそり根回しをしてくれたことと、ラカーシュやジョシュア師団長、ルイス、アレクシス師団長が一緒に踊ってくれたことのお陰でもあるのだけれど、この舞踏会では王太子が率先して動き、私の髪を評価してくれたのだ。

世継ぎの君である彼の影響力は大きいため、私は本当に助けてもらったのだわと感謝する。

「ここだけの話ですが、母はものすごく体面を気にするので、髪がある程度の長さに伸びるまで家の中に閉じ込められるか、修道院に送致されるかもしれないと心配していたんです。ですが、殿下のお陰でその恐れは回避できそうです」

茶目っ気を覗かせて、面白く聞こえるようにと大袈裟な表情で告げたところ、王太子はぎょっとした様子で目を見開いた。

「修道院に送致されるだって!? 君は私のせいで短髪になったというのに、なぜ原因である私は恩恵を受け、被害者の君だけが酷い目に遭うのだ」

あっ、しまった。王太子は真面目だから、この手の冗談は通用しないみたいだわ。

「じょ、冗談です! それに、殿下のおかげで結局は回避できましたし」

慌てる私を見て、王太子はこれ以上この話題に固執するべきではないと思ったようで、何か言いたそうな表情をしながらも唇を噛み締めた。

王太子の大人な態度に感謝しながら、話題を変えようと口を開く。

「で、殿下、そう言えばこの間、殿下が……」

けれど、話し始めはしたものの、適当な話題が浮かばなかったため途中で言葉に詰まっていると、王太子が不服そうな表情を浮かべた。

「エルネスト」

「はっ、はい」

「エルネストと、以前の君は呼んでいたはずだ。殿下というのは王族に対する敬称で、私個人を指すものではない」

「はい?」

確かに前世の記憶を思い出す前のルチアーナは、王太子のことを「エルネスト様~」と呼んで、べたべたしていたけれど、それは互いにとって黒歴史じゃないのだろうか。

「そ、そんな過去もありましたね。ですが、私も大人になったと言いますか、殿下の声に出さない本音を読み取れるようになったといいますか……」

しどろもどろになって言い訳をしていると、王太子は不満気な表情のまま苦情を言ってきた。

「確かにルチアーナ嬢は言葉にしない私の本音を読み取れるが、恋愛感情は例外だ。これっぽっちも読み取れていない」

「えっ!」

何と、私にそんな弱点があったとは。

驚く私に対し、王太子が取りなす言葉をかける。

「責めているわけではない。私にとっては読み取られたくない情報だし、その方面に関する君の感情が発達していないということは、経験がないということだから、無用な悋気を抱かずに済む」

王太子の言葉は一部意味が分からなかったけれど、私に恥をかかせないように言葉をぼかしていて、その中で私に恋愛経験がないと言っていることは分かった。

そのため、私は視線を落とすとぼそりと呟く。

「……人気がないもので」

今でこそ王太子とはお友達になれたけれど、ルチアーナが彼を追いかけ回していた時期は、心の底から嫌われていたことは分かっている。

今だって、私が王太子をそういう目で見なくなったから、彼は私をお友達として受け入れてくれたのであって、以前のように恋愛感情を表に出したら、脱兎のごとく逃げていくだろう。

もちろん、今の私に王太子に対する恋心はこれっぽっちも残っていないのだけれど、異性として完璧に避けられるのは、妙齢の女性としてショックだ。

そう心の中で傷心していると、王太子は唇を歪めた。

「人気はあるだろう。ここで名前を出す気はないが、……最上の貴族が君の魅力に気付いているはずだからな」

「えっ、あの……」

思ってもみない話の流れに、私は動揺して王太子を見上げた。

これはもしかしてラカーシュのことを言っているのかしら。

王太子がその能力と人柄を認めている相手はラカーシュのみだ。

だからこそ、王太子は両親を除くとラカーシュにだけ、彼を名前で呼ぶことを許しているのだから。

そんな王太子が「最上の貴族」と表現する相手は、ラカーシュ以外にいないはずだけれど、……ラカーシュが王太子に恋愛相談でもしたのかしら?

「王太子殿下は友情に厚いから、色々と相談されますよね。お友達になったばかりの私に対してさえ、これほど親切なんですから」

先ほど、王太子が自分の主義を曲げてまでファーストダンスを踊ってくれたことを思い出しながら呟くと、彼は首を横に振った。

「ルチアーナ嬢、そうではない。先ほど君は、私の友情に感謝すると言ってくれたが、……私が君に感じているのは友情ではない」

「えっ!?」

私はびっくりして王太子を見つめた。

まあ、何てことかしら。

王太子とは友人になったから、私とファーストダンスを踊ってくれたのは友情のためだと思っていたけど、私の勘違いだったのね。

でも、王太子は自分の主義を曲げて踊ってくれたのだから、すごく重い想いが込められていたのは間違いないはずだ。

友情じゃないとすると、一体どんな気持ちが込められていたのかしら?

興味を持って王太子の言葉を待っていると、彼は動揺した様子で髪をかき上げた。

「私は王太子だ。誰に対しても公平で平等な気持ちで接すべきだから、このような感情を抱くことはないし、このようなことを言う日が来るとは想像もしていなかった」

王太子の表情も態度もこれまで見たことがないもので、そのため、なぜだか突然、その場の雰囲気がぴりりと引き締まったように感じる。

その影響なのか、私は喉が干上がったように感じ、相槌を打つことなく王太子を見上げた。

「私の立場の者がこのようなことを口にすることは許されないのかもしれない。しかし……許す、許さないではなく、もはや胸の中に留めることはできないのだ」

そう言うと王太子は立ち上がり、テーブルの上に一輪だけ挿されていた美しい白百合を手に取る。

それから、片手を胸に当てると、もう一方の手で白百合を差し出してきた。

「ルチアーナ・ダイアンサス侯爵令嬢、私、エルネスト・リリウム・ハイランダーは君が好きだ」

「は……」

私の口から出たのは、声と吐息の中間のようなものだった。

何か重要なことを言われるに違いないとは思っていたものの、あまりに予想外だったため頭の機能がストップしてしまったようで、何一つ反応することができない。

目を見開いて王太子を見つめていると、彼は胸に当てていた手で、自らの服をぐっと強く掴んだ。

「君が私の親友の想い人であることは分かっている。次代の王である私の言葉には強制力があるから、このようなことを口にしてはいけないことも。……だが、私は他の何を犠牲にしてでも、君がほしいのだ!」

そう口にした王太子の表情は真剣で、緊張していて、頬が赤らんでいた。

そのため、私は呆然としながらも、王太子は本気だわ、とそれだけは確信することができたのだった。