軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

200 サフィア・ダイアンサスの宣戦布告 1

突然、どこからともなく現れた兄は少し離れた場所に立ち、目にしたものが信じられないとばかりに大きく目を見開いていた。

兄の目にどんなものが映っているかは分かっている―――炎に包まれながら小さな不死鳥を抱き締めている、全身が燃え続けている私の姿だ。

情けない表情で見返すと、兄は一瞬にして何が起こっているかを把握したようで、ずかずかと大股で近付いてきて、片手を白炎の防御壁に触れた。

それから、聖獣をまっすぐ見つめると穏やかな声を出す。

「やあ、ルチアーナの魔力は心地いいか? だとしたら、私のものも同じように心地いいはずだ。なぜなら全く同じものだからな。どうだ、感じてみないか?」

聖獣はじっと兄を見つめた後、何かを感じ取ろうとするかのようにふっと力を抜いた。

その瞬間、白炎が弱まったような感覚を覚える。

すると、兄は正にそのタイミングを逃さずに右腕を伸ばしてきて―――どういうわけか、その腕はずぼりと白炎の防御壁をすり抜けた。

多分、兄は片腕にものすごく魔力をまとわせながら、白炎の壁が弱まるタイミングを計っていたのだろう。

そして、ここぞという瞬間に、力技で押し入ったのだと思う。

私の予想が当たっているかどうかは不明だけれど、兄はそのまま右手一本で、私の腕の中から聖獣を取り上げた。

「えっ?」

聖獣が腕の中からいなくなると同時に、私を包んでいた炎が消え去り、代わりに兄が炎に包まれる。

「おおお、お兄様!!」

白炎の熱さは、身をもって知っている。

そのため、驚いて叫んだけれど、兄は平然とした様子で私から離れると、まるでぬいぐるみであるかのように聖獣の首根っこを掴んで自分の顔の前にぶら下げた。

それから、聖獣に向かって苦情を述べ始める。

「いつまで私の妹に甘えているつもりだ! 君は既に雛の姿に戻っている。再生は終了したのだから、その炎を仕舞いたまえ」

灼熱の炎に包まれているにもかかわらず、普段通りの表情と口調を保つ兄の胆力に感心したけれど、そうではないと慌てて兄に手を伸ばす。

「いやいやいやいや、おおおお兄様、燃えていますから!! 不死鳥を放してください!!」

ぱちぱちと耳障りな音が響き、白炎に包まれた兄の髪や服が燃えている。

焦る私の言葉が聞こえたようで、兄はちらりと私を見た。

「そうしたら、この鳥はまたお前のもとに向かうぞ。本人を納得させなければ振り出しに戻るだけだ」

いや、お兄様、それは鳥ではなく聖獣です。

お兄様の腕を治してくれるかもしれない、尊貴なる聖獣様ですよ。

そう言葉にしたかったけれど、そうすると兄が聖獣を鳥だと表現したことを強調することになるため、はくはくと声を出せないまま口を動かす。

そんな私は遊んでいると思われたようで、兄はどうしようもないなとばかりに肩をすくめると、再び聖獣に向き直った。

「私の妹を燃やすつもりか? 君の炎はルチアーナを傷付ける」

兄の声は冷静で、言動も普段通りの様子だったけれど、私は焦る気持ちから、兄を包む炎の周りをうろうろと歩き回る。

いくら兄が何も感じていないように振る舞っていても、叫びだしそうなほどの熱さを感じていることは分かっていたからだ。

先ほどまで私も同じ熱さを体験しており、言葉を発することもできないほど苦しくて熱かったのだから。

そして、実際に兄の髪や服が燃えているのだから、兄を包む炎は私を包んでいたそれと同じくらいの強さであるはずだ。

けれど、兄は炎に包まれる自分のことは一顧だにしなかったため、兄がダメならば聖獣に頼むしかないと、私は強い口調で言い付けた。

「リ、リリウム! 炎を仕舞いなさい!!」

すると、小さな不死鳥は驚いたように目を見開き、両翼を広げた。

その動作が何かのスイッチでもあるかのように、兄と不死鳥を包んでいた炎は一瞬にして消えてなくなると、代わりにキラキラとした輝きに包まれる。

それは先日、ラカーシュとともに目にした『癒しの欠片』に似ているようで、全くの別物だった。

眩しすぎて目を開けていられないほどの輝きを放っていたのだから。

けれど、そんな中でも、兄の左腕部分が一層激しく輝いていることが見て取れる。

私ははっと息を呑むと大きく目を見開き、瞬きもせずに兄の腕を見つめた。

すると―――ぺしゃりと潰れていた兄の左腕部分の服が、少しずつ少しずつ膨らみ始め……袖から兄の左手が現れた。

「お……お兄様の腕が…………」

私は思わず兄に駆け寄ると、兄の左腕を掴む。

すると、そんな私の上にもキラキラとした輝きが降り注ぎ、体中にあった火傷の痕を消していった。

「わあ、すごい」

じくじくとしていた痛みまでもが、一瞬にしてすっと消えてなくなる。

嬉しくなって顔をほころばせると、私はもう一度、兄の左腕を掴んだ手に力を入れた。

すると、そこには間違いなく失っていたはずの兄の腕があり、ほんのりと温かかった。

「お兄様、腕が戻りました!!」

笑顔を浮かべて見上げると、兄は掴んでいた聖獣を地面の上にぽいと降ろした。

どうやら私を燃やしたことを快く思っていないようで、その手つきは乱暴ではなかったけれど丁寧でもなかった。

聖獣に対して少々不敬じゃないかしら、と呆れた気持ちになったものの、それ以上に兄の腕が戻ったことに対する喜びの気持ちが大きかったため、満面の笑みを浮かべる。

すると、兄は私の笑顔を見て嬉しそうな表情になった。

まるで私が喜んでいることが、喜ばしいとでもいうかのように。

「ああ、ルチアーナ、お前のおかげだ」

そう言うと、兄は着用していた上着を脱いで私に着せ、きっちり全部のボタンを留めた。

白炎で服の一部が燃えてしまったため、そこここと露出していた肌を隠そうとしてくれたようだ。

兄の服も燃えて破れた部分があったけれど、うまい具合に私の肌を隠してくれる。

兄の左腕が戻ったことで、私に上着を着せる動作もスムーズになったようで、そのことが嬉しい。

喜びの気持ちのままお礼を言うと、兄は悪戯っぽい表情を浮かべた。

嫌な予感を覚えて一歩後ずさろうとしたけれど、それよりも早く兄が両手で私の腰を掴み、小さな子どもでもあるかのように軽々と抱き上げる。

「お、お兄様?」

驚いて呼びかけたけれど、兄は素知らぬ振りをすると、私を抱えたままぐるりと体を回転させた。

「おおお兄様!?」

「ははは、腕が戻ったぞ! これでまた、私はお前を抱きかかえられる」

えっ、喜ぶところはそこなのかしら? と驚いたけれど、兄は丁寧な手つきで私を地面に降ろすと、からかうような表情で目を細める。

それから、感心したような声を出した。

「ルチアーナ、お前はすごいな。王家の名で聖獣を縛るなど……誰も考え付かない悪魔の所業だ。これで聖獣は絶対に、リリウム王家から逃げ出せなくなったぞ」