軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

165 絶対に答えてはいけないラカーシュの恋愛尋問

ラカーシュからどんな質問をされるのかしら、と身構えていたところ、どういうわけか彼は頭を下げた。

「ルチアーナ嬢、これから私がルールを破ることについて、君に謝罪をする」

突然、高潔なラカーシュらしからぬことを言い出した姿を見て、私は驚いて問い返す。

「えっ、ル、ルールを破る?」

すると、ラカーシュは真顔のまま頷いた。

「そうだ。少し前の話になるが、先日行った収穫祭のゲームの回答票を、生徒会で回収した。当然だが、その内容はゲームの順位を付けるためだけに使用されるべきだ。そのため、完全にルール違反であることは承知しているが……」

そこで言葉を切ると、ラカーシュは両手を組み合わせた。

「私はゲームを盛り上げるために、シークレットゲストを用意した。しかし、ゲストは人目につかない場所にいたようで、誰も彼の名前を回答票に書いてこなかった……君以外は」

「えっ」

ラカーシュの言葉が思ってもみないものだったため、私は思わず声を上げた。

―――そう。どこまでも有能な生徒会副会長様であるラカーシュは、『甘い言葉収集ゲーム』のために、皆に内緒でシークレットゲストを呼んでいた。

けれど、パンフレットのどこにも、ゲストの名前は記されていなかった。

つまり、パンフレットにはゲストが身に付けている装飾品が示してあるだけで、名前は伏せてあったので、実際に遭遇しない限り、ゲストが誰であるかは分からないような仕組みになっていたのだ。

私はたまたまゲストに遭遇したけれど、彼はひっそりと魔塔の最上階にいたので、普通であれば見つけるのは難しいだろうなとは思っていたのだ。

けれど、まさか、私しか彼に会わなかったとは……と驚いていると、ラカーシュが顔を上げ、苦し気な表情を浮かべた。

「ルチアーナ嬢、彼は……ジョシュア殿は、君に告白したのか?」

「へえっ?」

突然、何の脈絡もなく、驚くべき質問をされたため、おかしな声が漏れる。

「な、な、何、何を、えっ、ラ、ラカーシュ様?」

確かにジョシュア師団長から告白されたけれど、それは他の人に話すべきでないことだ。

だから、誰にも話さずに隠し通していたというのに、なぜかぴたりと言い当てられてしまった。

どうしよう。

誰にもバレないようにと秘密にしてきたのに、一体どうやってラカーシュは探り当てたのかしら。

現状を上手く把握できず、動揺してしどろもどろになっていると、私の態度からラカーシュはいくばくかの答えを読み取ったようで、憂鬱な様子で言葉を続けた。

「収穫祭では普段にない格好をしていたからか、誰もが開放的な気持ちになっていた。イベントの陽気な雰囲気も手伝って、理性で閉じ込めている言葉が溢れやすくなっていたのだろうが……いずれにしても、ジョシュア殿が君に告げたセリフは、恋心がなければ口にできないものだ」

「ええええと」

つまり、ジョシュア師団長が私にささやいた『甘い言葉』から、ラカーシュは告白の件を推測したということだろうか。

「君に対応した全ての男性同様、ジョシュア殿も事前に提出していた『定型文』とは異なるセリフを、君に対して告げていた。君の回答票からそのことが読み取れたのだが……あのような言葉を口にするとは、彼はよっぽど君にご執心と見える」

大きなため息とともにそう告げられ、私はびくりと体を跳ねさせた。

「そそそそそ…………」

そうですか。そうですよね。

私にご執心かどうかは本人しか分かりませんが、少なくともそう見えますよね。

忘れようにも忘れられない、収穫祭でジョシュア師団長から言われたセリフが頭に浮かんできたため、確かにラカーシュの言う通り、あのセリフは酷かったと同意する。

実際に、収穫祭でジョシュア師団長のセリフを聞いた後、私は腰が砕けたようになって、ろくに歩けもしなかったのだから。

とはいうものの、告白されたことは人に言いふらすことではないことだから、ここは隠し通さなければ……と考えたところで、1つの事実を思い出す。

今でも信じられないことだけれど、私は目の前にいる完璧なるイケメン、ラカーシュからも告白されたのだ。

けれど、実際にラカーシュから告白された時―――あまりにも完璧で完全なラカーシュに好意を抱かれたことが信じられず、思わず『魅了の仕業ではないのか?』とジョシュア師団長に質問してしまった。

その結果、ラカーシュからの告白をジョシュア師団長にバラした形になってしまったのだ。

うっ、ということは、こっちの告白をあっちにバラしたのだから、あっちの告白についてもラカーシュに白状することが平等なのだろうか?

でも、やっぱり私が言うべきではないような気がする。

正しい対応が分からずに、「うふふ」と愛想笑いで誤魔化そうとしたけれど、ラカーシュは言外の言葉を読み取ったようで、完全に理解した様子で顔を歪めた。

「……そうか」

そして、片手で目元を押さえたまま、長い時間沈黙していたので、心配になって声を掛ける。

「あの、ラカーシュ様?」

すると、ラカーシュは顔から片手をどけたけれど、その下から現れた表情は非常に苦し気だった。

「……改めて、理解した。君に選んでもらうために、私は1番にならなければならないのだな。たとえ相手が年齢も経験も遥かに上回る相手だとしても、あるいは……私よりもずっと長い時間を君と過ごしている相手だとしても」

「えっ、あの」

「私は全ての相手を打ち倒して、君の1番にならなければ、君は私の手を取らない。そうだね?」

「そう……」

なのだろうか。そうかもしれない。

何をもって1番とするかは分からないけれど、確かにラカーシュの言う通り、『1番好きで、この人だけだ』と思わない限り、私は相手の手を取らない気がする。

以前、お兄様からも『人生で1度だけ恋愛をするのが似合うタイプだ』と言われたことだし。

多分、気軽に手を取ってみて、合わなかったら相手を変える、というやり方は、私に合わないのだ。

そのため、私が相手の手を取る時は、『生涯この人だけ』という気持ちで取るのだろう。

「うっ、私は案外重いタイプなのかもしれないわね」

「何だって?」

「いえ、ラカーシュ様の言う通りです。多分、私は1番だと思った人の手を取るのだと思います」

はっきりとそう答えると、ラカーシュは理解した様子で頷いた。

「そうか。自分を高めることはやぶさかでないのだが、……これまでの私は、比べるべき相手は過去の自分だと思っていて、それを超えることを自分に課してきた。だが、今後は、他人と比較をして、その相手を超えていかなければならないのか」

「えっ!」

いつの間にか、ラカーシュの中で、私がものすごいことを要求している話になっていたので、驚いて声を上げる。

「わ、私はそのような要求は一切していませんよ! そもそもラカーシュ様とジョシュア師団長は全然タイプが異なるので比べようもないし、どちらが上だとか判断できませんから」

必死になって言い返すと、ラカーシュは同意するかのように頷いた。

「その通りだ。全くタイプが異なるが、それでも優劣をつけなければならないはずだ。君が取る手は1つしかないのだから。……テストで満点を取る方が、何倍も容易いな」

けれど、ラカーシュが私の言葉に同意したと思ったのは私の勘違いで、彼の言葉を聞く限り、全く私の言葉に同意してくれていなかった。

そして、さらにとんでもないことを言い出した。

テストで満点を取るなんて、絶対に不可能だ。

それなのに、そんな不可能なことよりも、さらに難易度が高い行為を私が強いていると思われるなんて、……ラカーシュにとって、私はやっぱり悪役令嬢なのかしら?

そう考えて、私は頭を抱えたのだった。