軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141 彫像、人になる 3

ラカーシュの照れる姿を見て、ちょっと可愛いと思った私は普通だと思う。

『歩く彫像』と呼ばれ、一切感情を露にしないと思われていた無表情のはずのイケメンが、両手で顔を覆って恥ずかしがっている。

無表情な分、いつだって同じように整った美形を拝めるので、彫像はいいなあと思っていたけれど、どうしてどうして、照れるイケメンは最高だった。

女子生徒たちは私の色仕掛け(?)にやられたと思っているようだけれど、レストランで告白してきた時のラカーシュを見せてやりたい。

嫌らしさも強引さも全くなかったものの、私の手を自ら彼の胸元や額に押し付けていたのだ。

ちょっと触れたくらいで、動揺するタイプではないはずだ。

そして、私にはラカーシュが照れている理由の見当が付いていた。

恐らく、『あの夜のことを人前で話すことはお止めくださいね』という私の発言を聞いたことで、今さらながら自分がぺらぺらとしゃべり過ぎたことに気が付いて、恥ずかしくなったのだろう。

その気持ちは理解できる。自分が他人へ恋慕の情を抱いていることを知らしめるような発言をしてしまったら、私なら恥ずかしくて3日くらい自分の部屋に籠城する。

だけど、大丈夫。

私の完璧なるフォローのおかげで、ラカーシュの告白が暴露されることは、すんでのところで阻止されたのだ!

ラカーシュを救ったのだと得意になった私は、高揚した気持ちのまま、ラカーシュに退出の機会を提供する。

「ラカーシュ様、そろそろ授業が始まりますよ」

すると、ラカーシュは意を決したように両手を顔から外した。

想像通り、その顔は真っ赤になっている。

彼は困ったように眉を下げると、弱々しい様子で私を見た。

「ルチアーナ嬢、私はその手のことに慣れていない。意を決して自ら行うならばともかく、君から仕掛けられると……心構えができていないためか、それとも相手が君だからか、恐ろしく影響を受けるようだ。もう少し……手加減してもらえると助かる」

「手加減?」

ラカーシュの言いたいことが分からずに首を傾げると、彼は片手でもう一度目元を覆い、頭を振った。

「いや、何でもない。君が他の者には先ほどのように振る舞い、私にだけ手心を加えるのも面白くない話だから、そのままでいい。……ところで、セリアが君に話があると言っていたので、都合が付くようならば、放課後に生徒会室まで来てもらえないだろうか?」

「え?」

そう言えば、ゲームの中でラカーシュは生徒会副会長だった。

セリアはゲームに登場しなかったから分からないけれど、この世界では生徒会の役員なのだろうか。

あっ、というか、エルネスト王太子が生徒会長だったはずだ。

蛇蝎のごとく嫌われている私が、どうやって王太子に近付こうかと頭を捻らせていたので、王太子の学園の本拠地である生徒会室に入れることは、千載一遇のチャンスに思われる。

何か王太子に近付くヒントが、見つかるかもしれないからだ。

「分かりました! 必ず寄りますわ」

私の言葉を聞いたラカーシュは、赤い顔のまま頷いた。

それから、彼は踵を返すと、扉に向かった。

その姿を見て、ほっと心の中でため息をつく。

……よかったわ。

ラカーシュが私への告白を仄めかすようなことを言い出した時は、どうしたものかと気が気じゃなかったけれど、丸く収まったわ。

そう満足していたところ、ラカーシュは突然足を止めた。

それから、惚けたように彼を見上げていた女子生徒に顔を向ける。

「リコリス伯爵令嬢、1つ訂正をしてもいいかな?」

それは、先ほど聞こえよがしな嫌味を言ってきた女子生徒だった。

ラカーシュは彼女に用があるのかしらと思って見ていると、リコリス伯爵令嬢は驚いたように体を硬直させ、詰まったような声で返事をした。

「はひっ!」

そんなご令嬢に対して、ラカーシュは彫像のように感情をそぎ落とした表情のまま淡々とした声を出した。

「君はルチアーナ嬢が恥をかいたと語っていたが、実際に恥をかいたのはルチアーナ嬢でなく私の方だ。価値あるものをそうと気付かずに、断ってしまったのだからね。そして、気付いた後、みっともなくも何度も誘いをかけているのだから。そしるのならば私にしてくれ」

「え、それは、無理……」

突然、憧れの人から話しかけられたことでリコリス伯爵令嬢は混乱したようで、心の声をそのまま言葉に出していた。

ラカーシュが言葉を続ける。

「そうであるならば、慎み深いご令嬢として、一切を口に出すことは止めてくれ。ルチアーナ嬢の誘いを断ったことを、私は繰り返し後悔している。そのため、君がそのことを持ち出すことは、私の傷口に塩を塗る行為に等しい」

「ごっ、ごめんなさい! 二度としません!!」

リコリス伯爵令嬢が勢い込んで返事をしたのを見て、ラカーシュは無表情のまま小さく頷いた。

「感謝する」

それから、ラカーシュは何事もなかったかのように扉から出て行った。

その姿を見たリコリス伯爵令嬢は、ふらふらと体を揺らめかせたかと思うと、ぺたりと床に座り込んだ。

「カ、……カッコいい」

伯爵令嬢の呟きに、女子生徒の全員がうんうんと頷いた。

カッコイイ、イケメン。これはラカーシュのためにある言葉だわ、と全てのご令嬢の心が一つになった瞬間だった。

そして、その日、「彫像が人になった」との噂が学園中に広まったのだった。