軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

118 王太子攻略計画 3

この世界の元になった乙女ゲーム『魔術王国のシンデレラ』では、それぞれの場面において複数の選択肢が提示され、選んだ選択肢によってその後のストーリーが分岐していく仕組みになっていた。

そのため、聖獣を使役できないと苦しむ王太子の場面においても、複数の選択肢が用意されていた。

私はゲームの選択場面を、一生懸命思い出そうとする。

☆.。.:*・゜・*:.。. ☆.。.:*・゜・*:.。. ☆.。.:*・゜・*:.。. ☆.。.:*・゜・*:.。. ☆

エルネスト『私は紛いものだ。聖獣を使役することもできないのに、国民からの尊敬を集め、王太子の座に座り続けることは、恥ずべき行為だ』

▽どの選択肢にしますか?

『その通りですね。では、王太子の座をラカーシュ様に譲りましょう』

『エルネスト様は聖獣を使役できますよ。だって、真名は……XXXXですもの』

『屈辱に歪む顔が最高です』

☆.。.:*・゜・*:.。. ☆.。.:*・゜・*:.。. ☆.。.:*・゜・*:.。. ☆.。.:*・゜・*:.。. ☆

ゲームをプレイするのならば簡単だ。真ん中の選択肢を選べばいいのだから。

けれど、セリフとして言えと言われたら、……聖獣の名前は何だったかしら?

メレメレとか、ケラチョとか、ピッポとか……。

ああ、覚えていそうで、全く覚えていないわ!

私は絶望的な気持ちで頭を抱える。

どうしよう。あれほど兄の左腕を取り戻してみせると意気込んでいたにもかかわらず、初っ端から躓いている。

けれど、王太子の聖獣が、兄の腕を治癒できる唯一の方法であることは間違いないため、私は何としても真名を思い出さなければいけないのだ。

私は聖獣の名前について悩みながら朝食を食べると、教室に向かった。

「ロミロミ、ミューカルト、トルーネ……ダメだわ、いつの間にかしりとりになっている」

考え事に集中し過ぎたようで、学園の中庭で一人の生徒にぶつかってしまう。

ふらりとよろけかけたところ、しっかりとした腕で腰を支えられた。

「ルチアーナ嬢、大丈夫か? 君に話があって待っていたのだが、気付かずにぶつかられるとは想定していなかった。痛い思いをさせてすまない」

顔を上げると、滅多にないほどの美形が心配そうに見下ろしていた。

「まあ、ラカーシュ様! ……カーシュ? いいえ、シュシュ?」

考え事から抜け出せず、ラカーシュの名前をもじっていると、ラカーシュは片手で口元を押さえた。

「……さすがにそれは、成人男性として恥ずかしい愛称だな」

「え?」

あっ、もしかして私がラカーシュをシュシュと呼んだと思われたのかしら?

そんな畏れ多いことをするものですか!

「し、失礼しました。ぼんやりとしていて、おかしなことを口走ったようです」

通路にラカーシュと2人で立っていると、多くの視線を集めることに気付いた私は、人通りが少ない木立の中にラカーシュを誘導する。

そして、2人きりになると、深く頭を下げた。

「ラカーシュ様、東星の城ではお世話になりました。ラカーシュ様がいなければ、全員であの城を脱出することは叶いませんでした。後から振り返ると、あの騒動の原因はダイアンサス侯爵家とウィステリア公爵家にあって、ラカーシュ様は巻き込まれただけだというのに、大変な目に合わせてしまって本当に申し訳ありません」

すると、頭上から困ったようなラカーシュの声が響いた。

「頭を上げて、ルチアーナ嬢。君が我がフリティラリア城で行った行為が、正にそういうものだったのだから。君は全く関係がない私たち兄妹のために、その身を挺して戦ってくれたのだよ」

「え?」

言われた言葉の意味が分からずに顔を上げると、ラカーシュは困ったような表情を浮かべていた。

「……私は幼い頃から、公爵家嫡子として、自分の身を損なわないようにとの教えを受けてきた。私は公爵家という集団の頭だから、騎士を盾にしてでも、家令を壁にしてでも、命の危険を侵すことがないようにと言い聞かされてきたのだ。だが、か弱きご令嬢である君が、私を救おうと勇気を出してくれたから、……そんな君に救われた私が、自分の身を守って縮こまっているなど、できるはずもないだろう?」

「え……と」

ラカーシュが言葉を続けるにつれ、どんどんと晴れ晴れとした表情になっていくのを、私は不思議な気持ちで見つめていた。

「これまで私が自分の身を差し出すのは、我が公爵家当主の父か、『先見』の能力保持者の妹、あるいはエルネストのいずれかのためだった。それなのに、東星の城で、私は私の友人を守るために、一歩踏み出すことができたのだ。それは……君が見せてくれた勇気のおかげだ。ありがとう、ルチアーナ嬢。友人のために体を張ることが、こんなにも気持ちがいいものだと私は知らなかった」

心底嬉しそうに微笑むラカーシュの頬に紅が差し、一瞬にして至高の芸術品が人間になったかのような錯覚を覚える。

間近で見るラカーシュの瞳は恐ろしいほど輝いていて、最高級の宝石のようだった。

……イケメンだ。

『歩く彫像』と呼ばれるだけあって、元より見た目は完璧なるイケメンだったけれど、中身までイケメンになってきた。

何と言うことかしら。

ゲームの中のラカーシュは自分の城で魔物に襲われ、足を引きずるようになって以来、性格がねじ曲がってしまったのだけれど、この世界の彼は性格がねじれることもなく、むしろどんどんイケメンになってきている。

まずいわ。私は元々イケメン耐性が低いのだから、こんなラカーシュを相手にするなんて勝算が低いもいいところだ。

よし、このままでは負けることが確実だから、取り急ぎこの場を離脱しよう。

けれど、その前に1つだけ確認しないと。

「あの……、東星の城での戦闘後にこのようなことを尋ねるのも何ですが、ラカーシュ様のご病気は大丈夫でしょうか?」

「私の病気?」

不思議そうに尋ねてくるラカーシュに、言葉を補足する。

「ええ、ラカーシュ様は医師でも治せない405番目の病にかかっていると、兄から聞きました。戦闘のせいで体に負担がかかり、悪化していないかどうかが心配で……」

そう、兄とジョシュア師団長の話では、ラカーシュは医師でも治せない病気にかかっているとの話だった。

にもかかわらず、ラカーシュは私たちのために戦ってくれたのだ。

もしもそのせいでラカーシュの病気が悪化したのだとしたら、彼のことも治癒してもらうよう聖獣に頼まなければいけない、と心の中で決意する。

……顔色はよさそうに見えるけど、と考えながらラカーシュの表情を確認していると、彼はその綺麗な形の目を見開いた。

「405番目の病。ああ……!」

何かに思い至ったような表情で私を見つめてきたラカーシュを目の当たりにした瞬間、なぜだか私は、開いてはいけない扉を開いたような気持ちになった。