軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 王太子攻略計画 1

「えっ? 王太子殿下は1か月の外遊中ですって!?」

東星の城から戻って2週間後、私は教室で素っ頓狂な声を上げていた。

それから、この2週間、私は何をしていたのかしらと、心の中で自分の行為を反芻した。

―――東星の城から全員でダイアンサス侯爵家に戻った際、既に夜は明け切っていた。

そのため、ジョシュア師団長とルイス、ラカーシュはそのまま侯爵邸を後にした。

兄は呑気にも「ウィステリア公爵家ご自慢のシュガートーストを食べ損なったな」とコメントしてきたが、兄が片腕を失ったばかりだというのに食欲などあるはずがない。

無言で頭を横に振ると、手近な椅子に座り込み、そのままぼんやりとしていた。

そして、その日から2週間、学園を休むと侯爵邸で兄の側にくっついていた。

侯爵邸での生活は落ち着かないものだったと思う。

まず、家に戻るとすぐに医師が呼ばれ、兄の腕の診察が行われた。

私が予想した通り、兄の左腕は肘から先が欠損していた。

ただし、切り口は既に塞がっており、これ以上の治療は必要ないとの診察結果だった。

「ほら、できることはもう何もないのだから、これから先は新たなる自分を受け入れるだけだ」

兄は何でもないことのようにそう言うと、残った右手をひらひらと振った。

兄は既に吹っ切れたような様子を見せているけれど、兄自身が由緒ある侯爵家の嫡子なのだ。

魔術師にとって最も大事な利き腕を失って、そう簡単に済むはずもない。

そのことを証明するかのように、滅多に家にはいない父が早い時間に戻ってくると、兄とともに長時間部屋に籠って何事かを話し合っていた。

母はショックで寝込み、部屋から出てこなかった。

そして、その日から毎日、多くの手紙と、お見舞いの品と、兄の友人が侯爵邸を占拠した。

手紙と見舞いの品の多くは女性からのものだったけれど、意外なことに、訪問客のほとんどは男性だった。

そして、訪問客の多くは魔術師団の一員であり、失われた兄の腕の価値を理解しているのか、兄以上に痛まし気な表情を浮かべて慰めの言葉を口にしていた。

……ああ、兄には多くの友人がいて、慕われているのだなと嬉しく思う。

その一方で、私はなかなか兄から離れることができなかった。

私が側にいてもどうにもならないことは分かっていたけれど、兄に困ったことがあれば何でも手助けしたいとの気持ちとともに、目を離したら、兄が再びとんでもない目に遭うのではないかとの心配に取りつかれていたからだ。

人の気持ちに聡い兄は、私の心情を理解していたのだろう。

邪険にすることなく、私の好きにさせてくれた。

そして、気が済むまで兄の側にいさせてもらったおかげで、私は少しずつ理解していった。

……たとえ隻腕になったとしても、兄は1人で何でもできるのだと。

日常は変わらず続いており、私たちは毎日を生きていかなければならないのだと。

これから先一生、私が兄の側にくっついていられるはずもないのだから―――兄にとっても迷惑なのだから、私は自分の感情に折り合いを付け、兄の側に四六時中いるのは止めなければならないと。

それから、そもそも兄の側にいることで私自身は安心できるけれど、それでは何も改善されないのだから、東星の城で決意したように、守護聖獣の力を借りて兄の腕を治してもらうための一歩を踏み出さなければならないと。

そんな時、兄が再び学園に通うと言い出したので、私も同じタイミングで学園に登校することを決める。

そして、登校すると直ぐに教室へ向かい、王太子を探した。

現時点で王太子は、守護聖獣を使役できていない。

そのため、まずは聖獣を使役するところから始めなければならず、それなりの時間を必要とすることが予想された。

そのことが分かっていたからこそ、しばらく兄にくっついても大した差はないだろうと、自分の裡にあった後悔と焦燥と謝罪の気持ちを優先させ、まるで兄を守ろうとでもするかのように兄の側にいたのだけれど……。

「えっ? 王太子殿下は1か月の外遊中ですって!?」

教室でクラスメイトから王太子の予定を確認した私は、驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。

確かに王太子は世継ぎの王子で、色々と外交を担う立場ではあるけれど、1か月もの長期間、学園を休むとは思ってもみなかった。

そのため、兄とともに侯爵邸に引きこもっていたことを瞬時に後悔する。

仮に外遊に出発する前の2週間、王太子との接触を試みたとしても、相手から嫌われている私が王太子と関わることができる時間は限られていたはずだ。

そんなわずかな関わりで聖獣を使役できるようになるはずもないのだから、結局は王太子の戻りを待つことになっただろう。

つまり、東星の城から戻ってすぐに登校していたとしても、現状は今と変わらないはずだ。

そう理解していたものの、私は王太子の不在に焦った気持ちを覚えるのを止められなかった。