軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

99 虹樹海 1

転移は、ある場所から別の異なる場所へ移動させるものだ。

そのため、転移の陣をくぐった瞬間、周りの景色が一変する。

東星の城の中にいたはずなのに、次の瞬間、私は森の中に立っていた。

四方の全てが生い茂る草木に覆われた広い広い森の中に。

「藍色の森……?」

けれど、植物は緑であるという常識を覆すかのように、目に入る木々の葉、花々の茎や葉はわずかに緑がかった青色をしていた。

「ここは……」

肌に吹き付ける風の温度が、明らかに今までいた場所と異なる。

正確に表現すると、今まで1度も体感したことがないような心地のいい気温だった。

暖かいような涼しいような、私にぴったり合う気持ちのいい温度。

ここは一体どこなのだろう、そして、他の人たちはどこにいったのだろう、と周りを確認するため首を巡らすと、体がぐらりと傾いた。

そうだった、兄に魔力を渡したためにフラフラだったのだわ、と近くの木に両手で寄り掛かり体を支える。

改めて周りを見回していると、10メートルほど離れた場所に東星が現れた。

東星は私を見つけると、驚いたように目を見開く。

「そんな馬鹿な! 転移先への移動時間は、その場所に慣れ親しんでいるほど短くなるものだけれど、四星の中の一星であるわたくしよりも先に到着したですって? わたくしよりもこの場所につながっているというの!?」

けれど、次の瞬間、東星は険しかった表情を一転させて微笑んだ。

「ああ、そういうこと! つまり、あなたは間違いなく魔法使いなのだわ☆☆」

東星は私に向かって足を踏み出そうとしたけれど、それより早く、私の目の前に兄が現れた。

兄は瞬時にして東星と私の立ち位置を見て取ると、庇うように私を背中に隠す。

「お……兄様!」

間近に見た兄は、服が何か所も破れて出血していた。

思わず呼び掛けてしまったけれど、ちらりと私を見た兄の表情は明るく、悲壮感は一切漂っていない。

兄は私を背中に庇ったまま、素早く辺りを見回した。

「なるほどここがカドレアの棲み処か。弱った時は誰だって、自分のねぐらに戻りたがるものだが……」

兄はそう呟くと、悪戯じみた表情でにやりと笑った。

「だが、私はまだお前の腕の中に倒れ込もうとは思わない。ほら、私はまだ元気なようだ。だから、心配はいらない」

「…………」

兄の言いたいことがよく分からない。

私が兄のねぐらだと仄めかしたいようだが、兄妹愛みたいなことを表現したいのだろうか?

それにしては例えが下手過ぎる、と思っていると、ジョシュア師団長の地を這うような低い声が聞こえてきた。

「……サフィア、お前は順応性がありすぎるぞ。草木は緑であるべきだろう。この藍色の植物を見ていると、長年の常識が狂うように思われて気分が悪くなってくるというのに、なぜお前は平気なのだ?」

いつの間にか現れていたジョシュア師団長が、真っ青な顔で大きな木にもたれかかっていた。

「うむ、師団長殿の意見を真っ向から否定することは憚られるが、気分が悪いのは景色が理由ではないだろう。恐らく、この場全体に強い魔力が漂っているせいだ。漂っている魔力には、自然に存在しないような四星の力が加わっているため、力の強い魔術師であるほど体調を崩すはずだ。……さすがだな、師団長殿。身をもって優秀さを示すとは」

「サフィア……」

「だが、へばっている場合ではない。ここはカドレアの陣地だろう。私たちをまとめてご招待いただくとは社交的だなとは思うが、……本音は自分の能力が底上げされる場所で、私たちをまとめて処分しようということだろう」

「サフィア! お前はどうしてそう、初めての場所でも即座に環境を見抜き、相手のことを推測できるのだ! 私は自分に自信がなくなってきたぞ」

「それは体調不良からくる気分の落ち込みなだけだ。師団長殿は誰よりも優秀だからこそ、師団長になったのだからな」

兄がシンプルに回答すると、師団長は何事かを反論したいような表情をしたけれど、そんな場合ではないと思い出したようで、顔を上げると周りを見回した。

「全員揃っている様だな」

その声と同時に、コンラートが私にぎゅっと抱き着いてくる。

ぷるぷると震える弟を見下ろし、私は安心させようと声を掛けた。

「コンちゃん、お姉様がいるから怖くないからね」

まあ、実際は私の方が脱力感でぷるぷるだけれど。

「この森……。どうして葉っぱが藍色なの?」

「え? む、難しい質問ね。そうね、普通は緑だから、森の妖精さんたちが藍色のペンキを零してしまったのかしら?」

絵本的なメルヘン回答をしたけれど、求められていたものとは異なったようで、コンラートは心配そうな表情で見つめてきた。

「そうじゃなくて。葉っぱは紫じゃないの?」

「へ?」

紫? コンちゃんは何を言っているのかしら?

弟の言葉を理解しようとしていると、兄が言葉を継いだ。

「恐らく今から向かう場所が『紫の葉っぱ』がある場所だろう」

「え?」

「カドレアの言葉を借りると、この森が『虹樹海』で、この場所が『第6層「藍」』だ。つまり、虹の7色で構成されている樹海だと推測すると、『第1層「赤」』から始まり、2層、3層と続くごとに橙・黄……と変化し、最後は『第7層「紫」』になると考えられる」

「なるほど」

非常に納得のいく説明に首を縦に振っていると、周りで話を聞いていた全員が同様に頷いていた。

「ルチアーナ嬢、サフィアの優秀さを私が嫌になる気持ちが分かっただろう」

そして、同意を求めるかのようにジョシュア師団長が声を掛けてくる。

師団長は先ほどとは異なり顔色が戻っており、気分の悪さが回復してきたようだった。

「とてもよく分かります! あまりに優秀過ぎると劣等感を刺激されるので、ほどほどがいいですよね」

師団長の体調回復を嬉しく思い、全面的に同意していると、視界の端で東星が動いたのが分かった。

「……やっと移動する気になったか。それとも、案外、師団長の体調回復を待っていたのか? 私たちが付いてくるように……誘導されているのか」

兄がぽつりと呟いた。