軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97 カドレア城 16

―――それはとても神秘的な光景だった。

我が家の家紋であり、生まれ落ちた時から利き手の甲に紋として現れるほど、一族の血と肉に染みついている撫子が、螺旋を描くかのように茎を伸ばしながら魔術陣に絡みつき、兄の髪色と同じ青紫の花を咲かせて、その一部となったのだから。

「……えっ!?」

見たことも聞いたこともない光景を目にした私は、驚いて言葉を漏らした。

けれど、魔術陣を展開させた兄は驚いた様子もなく、僅かに目を眇める。

「やあ、花の色味がイマイチだな。私の髪色はもう少し濃いはずだが……」

そうして、不服そうに「ほら、魔術が馴染んでいない弊害だ」と呟いた。

え? 何を言っているのだ、兄は。

不満気に口にしているのは、見た目の問題ですよね!?

こんな見たこともないような新しい魔術陣を展開しておいて、何だその感想は!

見当違いなことを呟く兄に呆れる私の元に、撫子の花の香りが強く香ってきた。

「えっ、香りまで?」

……ということは、兄の魔術陣に絡みついている花は、幻影ではなく本物なのだろうか。

あれほどの勢いで実際に撫子が育ち、組み込まれ、魔術陣の一部となった?

……何が起こっているのか、分からない。

私は兄が出現させた魔術陣の本質を理解できないため、何が起こっているかを全く把握できていないのだ。

けれど、それはラカーシュも同様だったようで、戦闘中にもかかわらず棒立ちになると、驚いたように目を見開いて兄の魔術陣を見つめていた。

一方、ジョシュア師団長も同様に目を見開いていたが、こちらは少々状況が異なるようだった。

「サフィア、お前は60秒と言ったじゃないか! なのになぜ、半分の時間で魔術陣が完成するんだ!?」

「やあ、それくらいの気概で向かえば、師団長殿なら半分程の時間を稼げると思ったのだ」

「お前は初めから倍の時間、サバを読んでいたのか!! 60秒もの時間を保たせなければならないと考えた私の悲壮感を想像してみろ! 半分の時間でよかっただと!?」

ジョシュア師団長が兄の魔術陣に何もコメントしないことから、ああ、師団長はこの魔術陣を見たことがあるのだと思い至る。

恐らく師団長は、自分が担っていた時間稼ぎの目的はこの魔術陣を完成させることだと理解しており、だからこそ、苦情を言う師団長の声に安堵の色が混じっているのだろう。

そのため、この場で心底怒り狂っているのは東星1人だった。

「サフィア、その魔術陣は何なの!? お前は、何てものを作り上げたのよ★★」

「やあ、花を組み込んだデザインは女性受けすると思ったのだが、カドレアはお嫌いか?」

「そんな話はしていないわ! お前は1分だと言っていたじゃない! 騙したわね★★★」

東星は怒り心頭の様子で文句を言ったけれど、兄は呆れた表情でちらりと流し目を送った。

「カドレア、少し考えれば分かるはずだ。君には言葉を理解する知性があるのだから、それを利用しない理由はない。加えて、君には相手をぎりぎりまでいたぶろうとする悪い癖があるのだから、それも利用するだろう。そもそも私たちは敵対しているというのに、なぜ私の言葉を信じようと思ったのだ?」

悔し気な表情を隠そうともせず、ぎりりと唇を噛み締める東星に向かって、兄は可愛らしいものを見る目付きで微笑んだ。

「なんとまあ、カドレアは素直なものだな?」

その瞬間の東星の怒りは凄まじいものだった。

どん、どん、どん、との大きな破裂音とともに、床が何か所もはじけ飛ぶ。

「サフィア―――★★★★★」

「いやーあ、一見恐ろしい表情だが、頬が赤らんでいるから照れているのか?」

東星は完全に兄に手玉に取られていた。

そしてまた、兄に時間稼ぎをされている。

兄がすぐに攻撃をしないことから推測するに、恐らく兄が60秒と発言した通り、実際に60秒程の時間が必要なのだろう。

けれど、ジョシュア師団長とラカーシュの被害が大きかったため―――実際にこの2人は善戦していたのだけれど、攻撃を受けて何か所も負傷していたため、―――兄は早めに魔術陣を展開したのだろう。

だからこそ、いつでも技を発動できる状態にしておいて、ぎりぎりまでタイミングを待っているのだ。

それほど、これから使用する魔術の発動には、魔力を練る時間が多く必要なのに違いない。

ああ、兄が少しでも時間を稼げますように、……との祈りもむなしく、東星は荒々しい仕草で髪を振り払った。

「いいわ! 少々物珍しい魔術陣を展開したからと言って、実力差は埋めようもないことを見せてあげる。わたくし、本気を出すわ☆☆」

そう言うと、東星は両手を大きく広げた。

手と手の間に、渦を巻きながら風が集まってくる。

「うふふふふ、わたくしの城も壊れちゃうから、この魔術は使いたくなかったのだけど、もういいわ。お前を粉々にしないと、わたくしの気が収まらないもの。サフィア、さようなら★ ―――暴風・滅槍・暴風!!」

けれど、東星が術を発動させたその瞬間、兄もまた魔術発動の声を上げた。

「水魔術 <天の1> 蒼竜水牙(そうりゅうすいが) !」