軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黎明の契約

俺はすぐさま足跡を消し、何事もなかったかのように牧場へ戻った。

部屋に入ると、店主たちが不安と期待の入り混じった顔で俺を待ち構えていた。

「エドウィン殿、オーガたちは……どうでしたかな?」

「交渉は保留だ。だが、話は通じた。奴らも一族で相談する必要があると言っていた。今夜、すぐに襲ってくることはないだろう」

俺の言葉に、店主たちはひとまず安堵のため息を漏らす。

しかし、俺はすぐに次の爆弾を投下した。

「ですが、安心するのは早い。帰り際に、別の連中の痕跡を見つけました。おそらく、俺たちやオーガの動向を探るための斥候……人間のものです」

「なっ……! では、やはり金獅子の連中が?」

「十中八九そうでしょう。俺たちがオーガと接触したことで、奴らも次の手を考えてくるはずだ」

せっかく取り戻した安堵感は一瞬にして吹き飛び、部屋は再び重苦しい空気に包まれた。

オーガという目の前の脅威だけでなく、街からの敵が、現実味を帯びて彼らに迫ってきたのだ。

店主の一人が、街に残してきた仲間たちへの報告と応援要請のため、馬でヴァイデへ戻ることになった。

出発の直前、俺はその男を呼び止め、一枚の羊皮紙を渡す。

「ヴァイデに着いたら、宿にいるクリスという男にこれを渡してくれ。こちらに来るように、と伝言を頼む」

その夜は、誰もがろくに眠れなかった。

見張り台には交代で人が立ち、牧場主の男たちは武器を手に納屋の周りを巡回する。

俺もロウェナが眠っている寝室の入り口に座り、夜通し警戒を続けた。

翌朝、太陽が昇りきらないうちに、森の方角から再びオーガのリーダーが姿を現した。

昨日とは違い、その背後には数人の年配のオーガたちも控えている。

牧場主と店主たちを代表し、俺が前に進み出た。

「それで、答えは出たか」

オーガのリーダーは、一晩でやつれたような顔をしていたが、その目には確かな決意が宿っていた。

オーガは静かに息を吸い込むと意を決したように話し始めた。

「一族で話し合った。……我らは、貴様の提案を受け入れよう」

オーガは続ける。

「我らは戦いを望んでいない。ただ、生きる場所と食い扶持が欲しかっただけだ。あの時は、金獅子に従うのは屈辱だったが、選択肢がなかった」

「賢明な判断だ」

「だが、条件がある」

後ろに控えていた年配のオーガの一人が口を開いた。

「我らが労働力を提供する代わりに、我らの一族全員の安全と食料を保証してもらう。そして、金獅子……特にあの仮面の剣士から、我らを守護することを誓ってもらう」

俺は頷いた。

「それが護衛依頼の契約だ。約束しよう。その代わり、お前たちにも誠意を見せてもらう」

交渉は成立した。

数時間後、オーガたちが隠れ家から連れ戻してきた家畜の一部が、牧場主の前に差し出された。

痩せ細ってはいるものの、牧場を再建するための貴重な元手だ。

店主たちは、その光景を信じられないといった表情で見つめていたが、やがて歓声を上げた。

牧場主も目に涙を浮かべ、すぐにオーガたちのために食料庫から備蓄食料を出すよう指示した。

オーガ一族は、総勢四十名ほどで、中には女子供も含まれていた。

話し合いの結果、彼らは牧場の敷地の一部に簡易的な居住区を設営し始めた。

互いにまだ距離があり、牧場の人間たちは遠巻きにオーガたちの作業を眺めている。

その日の午後、牧場主の家で、改めてオーガの代表と牧場主たちとの会談の席が設けられた。

「俺はモルグル。この一族を率いる者だ」

オーガのリーダー、モルグルはそう名乗ると、俺が持ち出した昨夜の斥候の話に、厳しい顔で頷いた。

「やはり気づいていたか。おそらく金獅子の見張りだろう。奴らは我々が裏切らないよう、常に監視している」

「つまり、俺たちが手を組んだことは、すぐに奴らの耳に入るということだ」牧場主が青い顔で呟く。

「そこで提案なんだが」

俺はモルグルと牧場主に視線を送る。

「これからは、牧場側の人員とオーガたちで組んで、共同で見張りを行うというのはどうだ。互いの監視にもなるし、何より防衛力が上がる」

モルグルは「異存はない」と答え、牧場主も了承した。

もちろん、万が一の衝突や、金獅子からの本格的な攻撃があれば、俺が表に立つことが暗黙の了解となっていた。

大人たちが難しい顔で詳細を詰めている間、ロウェナは母屋の窓から、外で遊ぶ牧場主の子供たちと、遠巻きにそれを見ているオーガの子供たちを眺めていた。

ロウェナは不意に窓辺を離れると、自分の背囊から干し果物の袋を取り出し、外へ駆けだした。

そして、オーガの子供たちに向かって、はにかみながら一粒差し出す。

オーガの子は一瞬怯えたが、ロウェナの笑顔に警戒を解き、おずおずとそれを受け取った。

子供たちはあっという間に打ち解け、追いかけっこを始めていた。

俺は、その光景を見届けながら、ヴァイデの空を仰いだ。

(さて、これで金獅子と敵対することは確定したな……)

面倒事が、また一つ大きくなった。

俺は煙草に火をつけ、紫煙を吐き出しながら、仮面の剣士との避けられない対決を予感していた。