軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

師弟の誓いと、友との別れ

翌朝、陽の光が差し込む宿の部屋で、俺は慣れた手つきでクリスの左腕に巻かれた古い包帯を解いていた。

その様子を、ロウェナがすぐ隣で心配そうにじっと見守っている。

「痛みはどうだ」

「……もう、ほとんど。ありがとうございます」

新しい清潔な布で傷口を拭い、薬を塗り直す。

「大した傷じゃなくて幸いだったな。だが、あれは避けられたはずの傷だ。昨日の敗北は、お前の油断が招いた結果だということを忘れるな」

淡々と、しかし師としての厳しさを込めて諭す。

昨夜までのクリスなら、何か言い返したかもしれない。

だが、今の彼は違った。

「はい、師匠……肝に銘じます」

素直に反省の言葉を口にするその姿に、確かな師弟関係の始まりを感じた。

俺は包帯を巻き終えると、やれやれと息をつく。

「師匠と呼ぶのはやめろ。俺は、お前に剣を教えながら、一緒に旅をするだけだ。それ以上でも、それ以下でもない」

「……それでも、俺にとっては師匠です。それで、構いません」

クリスの真っ直ぐな瞳に、俺はそれ以上何も言わなかった。

ロウェナが、傷ついたクリスの腕を小さな手でそっと撫でた。

「くりす、まだ、いたい?」

その優しい問いかけに、クリスは照れくさそうに微笑んだ。

「ああ、もう大丈夫だ。ありがとう、ロウェナちゃん」

三人は顔を見合わせ、今日の決勝戦に臨む友を、全力で応援することを誓った。

街は、昨日を遥かに上回る熱狂に包まれていた。

通りは人で埋め尽くされ、祭り囃子のような陽気な音楽と、露店の威勢の良い呼び込みの声がそこかしこで響き渡っている。

闘技場の前では、決勝戦を盛り上げるための余興が始まっていた。

軽業師団が人間離れしたアクロバットを披露し、珍しい獣を使役する獣使いが巧みな芸で観客を沸かせている。

ロウェナは初めて見る光景の数々に目を輝かせ、無邪気な歓声を上げた。

クリスもその陽気な雰囲気に、強張っていた表情が少し和らいでいく。

俺は人混みにうんざりしつつも、そんな二人の様子をどこか穏やかな目で見守っていた。

余興が終わり、いよいよ三位決定戦の時が来た。

クリスは俺たちに深く一礼し、控室へと向かう。

その背中に、俺は簡潔な助言を送った。

「相手は準決勝でギデオンに敗れた男だ。力はあるが、動きは単調だ。気負わず、俺が言ったことを一つでも試してこい」

対戦相手は、大盾と片手斧を装備した重装歩兵だった。

クリスはエドの助言通り、大技に頼らず、ヒットアンドアウェイ戦法に徹した。

相手の重い一撃を華麗なステップで避け、懐に潜り込んでは鎧の隙間に的確な突きを打ち込む。

闘技場の地面の凹凸を利用して相手の体勢を崩したり、太陽を背にして視界を眩ませたりと、沼地での実戦経験を活かした戦術的な動きは、昨日までの彼とは見違えるようだった。

観客席からクリスの成長を称える声が上がる。

だが、追い詰められた相手は、防御を捨てて突進し、手にした片手斧を投擲するという奇策に出た。

クリスは咄嗟に剣で斧を弾く。

しかし、その一瞬の隙に距離を詰められ、大盾による強烈な殴打をまともに食らってしまった。

脳を揺さぶられ体勢を崩したところへ、無防備な胴に強烈な蹴りを叩き込まれ、クリスは砂塵の中へと沈んだ。

経験の差が出た、あと一歩の惜敗だった。

会場の興奮が最高潮に達する中、ギデオンとフォーノの決勝戦が始まった。

パワー対テクニック。

対照的なスタイルの激突は、序盤、フォーノの嵐のような猛攻をギデオンが堅実に防ぎ続ける展開となった。

だが、それはギデオンの策だった。

長期戦に持ち込み、相手の体力を削る。

やがてフォーノの動きが鈍った一瞬の隙を見逃さず、ギデオンは戦斧を地面に叩きつけ、凄まじい衝撃で砂塵を舞い上げて相手の視界を奪った。

目眩ましで体勢を崩したフォーノの背後に回り込み、巨大な戦斧の刃を首筋に突きつける。

力と、それを最大限に活かす戦術で、ギデオンがトーナメントの頂点に立った。

表彰式で、ギデオンは優勝の証である金貨の袋を受け取ったが、領主からの騎士への勧誘は

「俺には斧を振るってる方が性に合ってるんでね」と豪快に笑い、丁重に断った。

夕方、闘技場の裏手で、俺たちはギデオンと別れの挨拶を交わしていた。

「世話になったな。クリス、お前の戦い、見事だったぜ。次は負けねえからな」

「ギデオンこそ……ありがとう」

「エドさん、ロウェナ嬢ちゃんも達者でな」

そう言い残し、友は夕日の中に一人去っていく。

その背中を、俺たちは黙って見送った。

その後、南への長旅に備え、俺たちはまだ祭りの賑わいが残る市場で物資を買い込んだ。

保存食、薬、そしてクリスのために投げナイフを収納する矢筒のような革ケース。

俺は忘れずに、ロウェナのために甘い干し果物を多めに買い足した。

宿に戻り、購入した物資をそれぞれの背囊に詰めていく。

俺は師として、クリスとロウェナに効率的な荷物のまとめ方や旅の知恵を教えた。

翌朝、三人は祭りの余韻が残るレセヴォアの街で最後の買い物を済ませた。

そして、新たな仲間クリスを正式に加え、南門から次の目的地『ヴァイデ』を目指し、新たな旅へと出発する。