軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの戦いと、観客席の昼食

翌朝、日の光が差し込む宿の一室で、クリスはベッドから起き上がろうとして、全身を襲う鈍い痛みに思わず呻き声を上げた。

「……ぐっ……」

連日の野営と沼地での戦闘、そして昨日のトーナメント初戦。

蓄積された疲労と、慣れない緊張が、時間差で彼の若い肉体を蝕んでいるらしかった。

「くりす、いたい?」

心配そうに顔を覗き込んできたロウェナに、クリスは慌てて虚勢を張る。

「な、何でもないさ! これは、その……強くなるための、心地よい痛みというやつだ!」

「ふうん」

ロウェナは分かったような、分かっていないような顔でこくりと頷いた。

俺はそんな二人のやり取りを横目で見ながら、やれやれと肩をすくめる。

(ただの筋肉痛だろうに……若いな)

支度を終え、俺たちは闘技場へと向かった。その道すがらも、クリスは時折、不自然な動きで体の痛みを誤魔化している。

闘技場の前で、既に来ていたギデオンが俺たちに気づき、豪快に笑いながら手を振ってきた。

「よう! 昨日は見事だったな、クリス! 今日もその調子で頼むぜ!」

「ギデオンこそ! お互い、頑張ろう!」

笑いながら互いの肩を叩き合う二人。

その姿は、昨日までの即席の相棒ではなく、既に戦友のそれに近かった。

二人はそのまま、参加者用の控室へと向かっていく。

俺とロウェナは昨日と同じように観客席に座り、二回戦の開始を待った。

クリスの試合は、二回戦の第三試合。

相手は、剣の柄を異常なほど長くした、独特の武器を使う男だった。

持ち手の位置を自在に変えることで、まるで槍のように長く突き出したかと思えば、次の瞬間には短く切り結んでくる。

その変幻自在の間合いに、クリスは序盤から翻弄されていた。

(面倒な相手だな……)

独特の間合いに攻めあぐね、クリスは相手の攻撃を慎重に捌くことに専念する。

だが、その防御は決して受け身なだけではなかった。

一歩、また一歩と、相手の動きを冷静に見極め、徐々に、しかし確実に、自分の得意な距離へと誘い込んでいく。

沼地での経験が、彼に戦況を読む冷静さを与えているようだった。

じりじりとした攻防が続く中、相手もこのままでは埒が明かないと判断したのだろう。

これまで以上の速さで踏み込み、連続で突きを繰り出してきた。

クリスはそれを待っていたかのように、相手の攻撃に合わせて反撃に転じる。

金属音が鋭く、そして激しく闘技場に響き渡った。

そして、勝負を決めようとしたのだろう。

クリスは大きく息を吸い込むと、俺との手合わせで見せた、あの技を繰り出した。

「はあっ!」

鋭い気合と共に放たれた、右からの袈裟斬り。

しかし、連戦の疲れからか、その動きには以前のような洗練されたキレがない。

相手は、その渾身の一撃をどうにか防ぐので精一杯のようだった。

だが、その衝撃で体勢が大きく崩れる。

がら空きになった胴体。

クリスは好機とばかりに、溜め込んだ体のバネを解放し、逆の軌道を描く鋭い切り上げを放った。

それは相手の胸元に、重い音を立てて叩き込まれる。

相手はくずおれるようにその場に倒れ込み、勝負は決した。

観客席が驚きと歓声に包まれる中、俺は勝利に安堵しつつも、思わず目頭を押さえていた。

(あいつ、あんな大技を、こんな序盤で安々と使いやがって……)

手の内を晒す危険性も考えず、ただがむしゃらに勝利をもぎ取りにいったクリスの未熟さに、これから注意すべきことがまた一つ増えたと、俺は静かにため息をついた。

クリスの試合が終わり、昼休憩の時間になった。

「えど、おなかすいた」

「そうだな。何か買ってこよう。」

「すいませんが、この席、取っておいてくくれませんか?」

俺が隣の席に座っていた、人の良さそうな観客の男に声をかけると、男はにかりと笑った。

「おう、いいぜ! それならついでに、俺の分も頼む!」

そう言って、男は小銭の入った革袋をこちらへ放り投げてくる。

俺はそれを片手で受け取ると、ロウェナを連れて席を立った。

闘技場の外に立ち並ぶ屋台は、どこも人でごった返している。

俺は一番人気のありそうな屋台で、肉汁の滴る串焼きとパン、それから果実水を人数分買い込んだ。

席に戻ると、男は「おう、助かったぜ!」と言いながら、熱々の串焼きをうまそうに頬張り始めた。

「兄ちゃんたちも、どこかから来た旅人かい? いやあ、この街も活気が出てきて嬉しいもんだ」

男と他愛のない話をしながら昼食を食べていると、昼休憩の終わりを告げるファンファーレが鳴り響いた。

午後の第一試合。闘技場に姿を現したのは、ギデオンだった。

対するは、身軽なロングソード使いの男。

相手は巧みな足捌きで距離を取り、ギデオンの戦斧の間合いに入ろうとしない。

ギデオンの豪快な一撃は、ことごとく空を切っていた。

しばらくもどかしい時間が続いたが、やがてギデオンは戦斧を振るうのをやめた。

そして、斧の刃の部分ではなく、平らな側面を盾のように構え、相手の攻撃を待ち構える。

相手が隙ありと見て踏み込んできた瞬間、ギデオンは戦斧を振るった。

斬るのではない。

ただ、その圧倒的な質量で、相手の剣ごと体全体を「殴りつける」ように。

ゴッ、と骨まで響くような鈍い音がして、ロングソード使いは派手に吹き飛ばされた。

勝負ありだ。

ギデオンの圧勝に、観客席が大きくどよめく。

そして、審判が次の試合の開始を告げた。

「続きまして、本日の第五試合! クリス選手の入場です!」