軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

既視感と仮面の剣士

ため息をつきながら歩み出てきた男は、地面に転がる仲間たちを一瞥し、「見て分からんのか、お前らが敵う相手じゃないだろうが」と静かに吐き捨てた。

そして、俺に向き直る。

その目には、仲間への呆れと、静かな闘志が宿っていた。

「あんたに恨みはねえし、どう見てもこっちが悪い。だがな、こいつらに助けを求められちまった。悪く思うなよ」

男はそう言うと、腰に差した長剣を、ゆっくりと、しかし流れるような所作で抜き放った。

俺も、工房で借り受けた予備の剣を静かに抜く。

「ロウェナ、下がってろ」

俺は背中にいるロウェナを軽く押し、物陰まで離れるように促した。

ジリ、ジリ……と、互いに足で間合いを測る。

先に動いたのは、男の方だった。

キンッ!

鋭い踏み込みと共に放たれた上段からの斬撃を、俺は剣で受け止める。

互いの力量を測るように、数合、乾いた金属音が響き合った。

男の剣筋は、先ほどの連中とは比べ物にならないほど鋭く、重い。

その最中、先ほど俺に蹴り飛ばされた男の一人が、こそこそと俺の背後へ回り込もうとするのが視界の端に映った。

俺は舌打ちし、空いている左手で、買ったばかりの投げナイフを一本抜き放つ。

ヒュッ、と風を切る音と共に、ナイフは男の足元、数センチ手前の地面に突き刺さった。

「――動くな」

冷たい声に、男は悲鳴を上げてその場にへたり込む。

俺と打ち合っていた手練れの男も、「つまらん真似をするな!」と仲間を一喝した。

再び、剣戟が始まる。

男は執拗に、上段からの攻撃を繰り返してきた。

そして、数合打ち合った後、これまでで最も鋭い、右からの袈裟斬りが放たれる。

それは、ただ振り下ろすだけの斬撃ではなかった。

刃が空を切り裂くと同時に、男の体は深く沈み込み、まるで強靭なバネを極限まで圧縮するかのように全身の筋肉を軋ませる。

そして――袈裟斬りが終点に達した、その刹那。

溜め込まれた力が爆発した。

沈み込んだ体勢から、今度は地面を蹴り、天を衝くかのような鋭い切り上げが、逆の軌道を描いて閃いた。

二連撃。

それこそがこの技の真髄だ。

並の相手なら、一撃目の重さに気を取られ、瞬時に反転する刃に対応できずに切り裂かれていただろう。

だが、俺はこの剣筋に見覚えがあった。

かつて仮面で顔を隠して出場した武道大会。

決勝で戦った貴族上がりの騎士が、これと酷似した奥義を使っていたのだ。

一撃目で相手の意識を下に集中させ、溜め込んだ体のバネを解放して二撃目を放つ。

初見殺しの連携だが、二度目はない。

俺は袈裟斬りを最小限の動きで受け流すと同時に、身を低く沈める。

頭上を、空を切る刃が通り過ぎていく。

体勢を崩し、がら空きになった男の背後へと、滑り込むように回り込んだ。

ひやり、とした剣の切っ先が、首筋に触れる。

「……参った。俺の負けだ」

男は潔くそう言うと、剣を鞘に納めた。

そして、何かを思い出すように、俺の立ち姿をじっと見つめている。

「……その動き、どこかで……」

男が何かを言いかける前に、俺は投げナイフを回収し、ロウェナの手を引いて足早にその場を後にした。

剣の手入れが終わるまでの数日間、俺たちは宿で静かに過ごした。

ロウェナは、薬屋でもらった飴や食堂で買ってきた焼き菓子を頬張りながら、俺に教えてもらった文字の練習に熱心に励んでいた。

ある日の散歩中、川辺で遊んでいたロウェナが、キラキラと光る丸い石を見つけて駆け寄ってきた。

そして、その石を俺に差し出しながら、はっきりと、こう言ったのだ。

「えど、きれい」

初しっかりと二つの単語が繋がった言葉だった。

俺は、徐々に発音が良くなっていく彼女の成長に、静かな感動を覚えていた。

数日後、剣を受け取りに武具職人の工房を訪ねると、主人は感嘆のため息をつきながら、磨き上げられた俺の剣を差し出した。

「やはり見事な剣だ。……なあ、あんた。この剣、もしかして、昔、領都の武道大会を荒らしに荒らした、あの仮面の剣士の物と関係があるんじゃないか?」

俺は表情を変えずに首を傾げる。

「ここ数年はとんと見なくなったが、あいつが出た大会は、そりゃあもう圧倒的でな。当時の猛者たちが、赤子のように捻られていたもんさ。いやはや、この剣の作りといい、手入れのされ方といい、使い手の技量が伝わってくる。久しぶりに、高いレベルで剣と腕が釣り合ったものを見せてもらったよ」

職人は上機嫌にそう言うと、「礼だ、持っていきな」と、煙玉などの忍び道具をいくつかおまけしてくれた。

そして、帰り際に、こう付け加えるのを忘れなかった。

「そういや、先日あんたと一悶着あったらしいならず者たちが、あんたのことを嗅ぎ回ってるって話だ。気をつけるんだな」

その言葉は、決定打だった。

この町に、これ以上長居はできない。

宿に戻った俺は、すぐに出発の支度を始めた。

部屋に干していた洗濯物は、すっかり乾いている。

「ロウェナ、足はもういいのか?」

俺が尋ねると、彼女はその場で大きくジャンプしてみせ、にっと笑って親指を立てた。

もう、心配ないらしい。

宿の主人に温かく見送られ、俺たちはアポン川の宿場町を後にした。

目指すは、南の街『ヴァイデ』。