軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

別れの選択

ノーレストの街での数日間は、驚くほど穏やかで、そして楽しかった。

美味しいものを食べ、温かい湯に浸かり、賑やかな街並みを二人で歩いた。

ロウェナはすっかり街の生活に馴染んだようで、宿の従業員にも懐き、小さな冒険者用の背囊を背負って宿の中をちょこちょこ駆け回るようになった。

夜、ランプの明かりの下で、俺の名前を呼ぼうとしてくれた時のロウェナの顔は、忘れられない。

あの、一生懸命な声。

その声を聞いた時の胸の奥に込み上げてきたものは…悪くない気分だった。

新しい防具の完成は、まだもう少し時間がかかるらしい。

ドレイクの尻尾を売った金もある。

しばらくこの街に滞在することも可能だ。

だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。

ロウェナを助けたのは、あの状況で見捨てるという後悔を避けるためだった。

それは、間違っていなかったはずだ。

しかし、この子をいつまでも連れ回すわけにはいかない。

旅は危険も伴うし、この子には、もっと安定した、安全な場所で暮らす権利があるはずだ。

それに、俺自身、この子に深入りしすぎるのは…良くない。

彼女の将来を考えれば、ここが潮時だ。

ノーレストには、衛兵から紹介された孤児院がある。

安全な場所で、最低限の教育は受けられる場所だ。

あそこへ預けるのが、この子にとって一番いい選択だろう。

宿はまだ引き払わない。

防具の受け取りもあるし、街を出る準備もある。

ロウェナを孤児院に預けた後、今後の旅のルートを考えよう。

そう決意し、俺はロウェナを連れて、衛兵から教えてもらった孤児院へと向かった。

何かを察しているのだろうか、ロウェナは、いつも通り俺の隣を歩いているが、今日はいつもより少し静かだ。

孤児院の門をくぐると、領都の孤児院とはまた違う、しかしどこか懐かしい雰囲気が漂っていた。

庭で子供たちが遊んでいる声が聞こえる。

近くにいたシスターに、衛兵からの紹介状を渡した。

対応してくれたのは、優しそうな初老のシスターだった。

「ああ、これは衛兵隊のルイス隊長からですわね。どうぞ、こちらへ」

シスターは俺とロウェナを客間のような部屋に通してくれた。

「この子が…」

シスターはロウェナを見て、慈愛に満ちた眼差しを向けた。

ロウェナは、俺の後ろに隠れるようにして、シスターをじっと見つめている。

シスターは、俺からロウェナの状況を聞き取った。

森で保護したこと

名前がなかったこと、

言葉がうまく話せないこと

「可哀想に…。でも、もう大丈夫ですよ。ここには、たくさんの子供たちがいます。みんな、あなたと同じです。寂しくないわ」

シスターはロウェナに優しく語りかけた。

やがて、部屋の外から、何人かの子供たちが顔を覗かせ始めた。

俺たちの姿に興味を持ったのだろう。

シスターは子供たちを手招きした。

「みんな、新しいお友達ですよ。挨拶してあげて」

子供たちは、恐る恐る部屋に入ってきた。

ロウェナと同じくらいの年の子もいる。

「こんにちは」

子供たちがロウェナに話しかける。

ロウェナは、ただ黙って、彼らを見つめている。

シスターは、ロウェナを子供たちの輪に入れようとした。

「さあ、ロウェナ。あの子たちと遊んでごらんなさい。みんな、きっと優しい子たちですよ」

シスターが、ロウェナの肩に触れ、俺から離そうとした、その時だった。

ロウェナは、突然、激しく俺の腕にしがみついてきた。

小さな手に、驚くほどの力が籠められている。

そして、声にならない、嗚咽のような泣き声が漏れた。

「ひっ…うう…!」

必死に俺から離されないように、声を押し殺して泣いている。

その姿は、まるで森の中でドレイクから逃げてきた時のようだ。

シスターも子供たちも、ロウェナの突然の反応に戸惑っている。

「ロウェナ…大丈夫だ。ここは安全な場所だ」

俺はロウェナを落ち着かせようと、優しく声をかけた。

だが、ロウェナはさらに強く俺にしがみつき、首を横に激しく振る。

行きたくない、離れたくない、と全身で訴えている。

その必死な姿を見て、俺の胸の奥が締め付けられるような痛みに襲われた。

孤児院にいた頃の自分を思い出していた。

新しい環境への不安。

捨てられることへの恐怖。

ロウェナは、今、それを感じているのだ。

「大丈夫よ、ロウェナ。ここはあなたの家になります。私たちは家族です」

シスターが優しく諭すが、ロウェナには届かない。

彼女の目は、ただ俺だけを見つめている。

葛藤が、俺の心の中で激しく渦巻く。

このまま、この子を連れて旅を続けるか?

生活も不安定なのに?

それは、危険すぎる。

だが、この子をこんなに怯えさせて、無理やり置いていくのか?

俺の心の底で、強く引き留めようとしている。

この子が必要としているのは、家族だ。

俺が、その代わりになってやれるのか?

いや、俺には無理だ。

俺は天涯孤独。

いつ、どこで死ぬかも分からない。

この子を巻き込むわけにはいかない。

理性的な判断が、心を鬼にしろと囁く。

この子のためだ。

これが、一番いい方法のはずだなんだと。

ロウェナの小さな体が、俺の腕の中で震えている。

その震えが、俺の心臓を直接掴んでいるかのような痛みを伴った。

ごめん、ロウェナ。

これが、俺にも、そしてお前にとっての、最善なんだ。

俺は、痛む胸を押し殺し、ロウェナの体から、ゆっくりと、しかし確実に、自分の腕を引き剥がそうとした。

ロウェナの泣き声が、少し大きくなった。

シスターが、ロウェナを受け止めようと、手を伸ばす。

さあ、行け。ここで、新しい人生を始めるんだ。

俺は、ロウェナの小さな体を、シスターへと押しやった。