軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

飛び級の卒業証書と、待ちわびた旅立ち

領都の学校の講堂に、厳かな拍手が響き渡っていた。

「次、ロウェナ」

名前を呼ばれ、壇上へと進み出た少女の姿に、講堂の後方で見守っていたクリスは優しく目を細めた。

あの日、「卒業するまで待つ」と約束を交わしてから、およそ5年の月日が流れていた。

初等部から入学したロウェナは、「早くエドたちと一緒に旅に出たい」という一心で、苦手だったはずの勉強に猛烈に打ち込んだ。

その結果、なんと飛び級まで果たし、今日この日、見事に『中等部』の卒業式を迎えていた。

かつては小柄だった背丈もすっかり伸び、顔つきもどこか大人びた少女へと成長している。

校長から卒業証書を受け取ったロウェナが、誇らしげにこちらを振り返る。

「飛び級までしてしまうなんて……本当によく頑張りましたね、ロウェナちゃん」

クリスが感極まったように呟くと、隣で腕を組んでいたエドが、落ち着いたトーンで短く鼻を鳴らした。

「ああ。赤点なんか取ったら置いていくって脅した甲斐があったな」

口では憎まれ口を叩きながらも、その横顔には保護者としての確かな誇らしさが滲んでいた。

卒業式を終えた三人が向かったのは、長年勤め上げた冒険者ギルドだった。

ギルドの重厚な扉を開けた瞬間、パァン! と派手な破裂音が鳴り響き、色とりどりの紙吹雪が舞った。

「ロウェナ、卒業おめでとう!!」

「やったな、お嬢ちゃん! よく頑張った!」

出迎えたのは、ギルドマスターをはじめ、かつてエドやクリスが教官としてしごき抜いた若手冒険者たちだった。

ロウェナはこの数年間、放課後によくギルドへ遊びに来ており、彼らから妹や娘のように溺愛されていたのだ。

すっかり一人前の顔つきになった冒険者たちが、次々とロウェナの頭を撫でていく。

「えへへ、ありがとう! 私、飛び級したんだよ!」

ロウェナが証書の入った筒を見せびらかすと、ギルド内はさらに大きな歓声に包まれた。

そしてこの宴は、ロウェナの卒業祝いであると同時に、長年新人育成に尽力したエドとクリスが『教官職』を辞する、盛大なお別れ会でもあった。

「先生たちが座学や実技で厳しく指導してくれたおかげで、俺たちはここまで生き残れました。本当に、ありがとうございました!」

代表の冒険者が深々と頭を下げると、クリスは柔らかい笑みを浮かべ、穏やかに頷いた。

「皆さんが努力した結果です。……どうかこれからも、決して無理はせず、生きて帰ることを最優先にしてくださいね」

ギルドでの賑やかな宴の後、三人は領都の端にある孤児院へと足を運んだ。

「シスター! みんな!」

孤児院の門をくぐるなりロウェナが声を上げると、中からワッと子供たちが飛び出してきた。

「ロウェナお姉ちゃん、おめでとう!」

「本当に飛び級しちゃったんだね! すごい!」

かつてロウェナがたどたどしく文字を教えていた幼い子供たちも、今ではすっかり背が伸びている。

彼らはロウェナの持っている卒業証書の筒に興味津々で群がった。

そこへ、ロウェナと同じ学校に通っていた同級生の友人たちも駆けつけてきた。

「ロウェナ……本当に、もうすぐ旅に出ちゃうの?」

仲の良かった友人の一人が、ポロポロと大粒の涙をこぼした。

飛び級をしたことで、本来ならもう少し一緒にいられるはずだった学舎を、ロウェナは一足先に去ることになってしまったのだ。

「うん。……でも、泣かないで。私、ずっとこの街のみんなとお友だちだもん!」

ロウェナは友人の手を両手でぎゅっと握りしめ、力強く頷いた。

「いろんな街に行って、面白かったこと、全部手紙に書いて送るね! あと、すっごく美味しい名物のお菓子も見つけて、絶対にお土産にして送るから!」

「ロウェナったら、最後も食べ物の話ばっかり……っ、ふふっ」

泣き笑いになった友人たちと、ロウェナはギュッと強く抱き合った。

その微笑ましい光景を、少し離れた場所からシスターと共に見守っていたクリスが、優しく目を細める。

「……この数年間、ロウェナちゃんは本当に、この街でたくさんの人に愛されて育ちましたね」

「ええ。あなた方のおかげですよ、クリス様、エドウィン。あの子の居場所を作ってくださって、本当にありがとうございます」

シスターが深く頭を下げるのに、クリスは「とんでもない。僕たちも、この街の温かさに救われたんです」と静かに首を振った。

エドもまた、ロウェナの足元で「行かないで」と泣きじゃくる幼い孤児の頭を、大きな手でポンポンと不器用に撫でてやる。

「おいおい、そんなに泣くな。こいつはどこに行っても、図太く腹いっぱい飯を食って生きていける。心配いらないよ」

少し意地悪な言い回しだったが、その落ち着いた声色はひどく穏やかで、温かいものだった。

そして夜。

三人は、この領都での数年間、ずっと生活の拠点にしていた借り上げの『貸家』へと帰宅した。

食卓のテーブルには、大きな大陸の地図が広げられている。

その端っこで、ロウェナは真新しいインク壺とペンを用意し、一生懸命に手紙を書き綴っていた。

『ミネルヴァ、お仕事お疲れ様! 私ね、今日、学校を飛び級で卒業したんだよ!』

宛先は、かつて王都で出会い、大変世話になった冒険者ギルドの職員・ミネルヴァだ。

ロウェナはこの数年間、学校で学んだ文字を活かして、王都で働く彼女と定期的に手紙のやり取りを続けていた。

美しい字でスラスラと近況を綴れるようになったこの便箋こそが、彼女が必死に勉学に励んだ何よりの証明だった。

『エドとクリスとの約束、ちゃんと守ったの。だからもうすぐ、また三人で一緒に旅に出るんだ。王都の近くを通る時は、絶対にギルドに遊びに行くからね!』

「やった……書き終わった!」

ペンを置き、満足げに手紙のインクを乾かすロウェナ。

そんな彼女の様子を微笑ましく見守りながら、エドが広げた地図を指差して口を開いた。

「さて……互いの約束は無事に果たしたわけだ。次はどこの美味いものを探しに行くか、きっちり計画を練るとするか」

その言葉に、クリスが少し思案するように顎に手を当てる。

「そうですね……この数年はずっと内陸にいましたから、海が見える街なんてどうでしょう? ここからだと、南東の港町あたりが良さそうです」

「海鮮! 新鮮なお魚がいっぱい食べたい!!」

ミネルヴァへの手紙を封筒に入れながら、ロウェナが目を輝かせて元気いっぱいに両手を挙げる。

その変わらない食いしん坊ぶりに、エドとクリスは顔を見合わせて楽しげに笑い合った。

数年の定住を経て、確かな絆と成長を手にした三人。

借り上げの小さな貸家には、待ちに待った新たな冒険の始まりを告げる、温かく賑やかな笑い声がいつまでも響いていた。