軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

67 対決!キリングベアー【Sideレオンハルト】

湯けむりの向こう側でリゼットがオオガエルを追ってダンジョンの奥へと走っていく。

「あのイノシシ――」

「すぐに追いかけよう」

レオンハルトは風呂から立ち上がりリゼットを追おうとした。

リゼットはそこまで足は速くない。体力もない。すぐに追いつけるはずだ。

この階層のモンスターはそこまで強敵ではないが、リゼットを一人にさせるのは不安だった。彼女の実力ならば余計なお世話かもしれないが。

湯の中を急いで歩くと突然足元がぬるっと滑り、そのまま風呂の中でひっくり返る。

あのサウザンドブロブの切れ端がゆらゆらと湯の中で泳いでいた。湯に浸かると粘液を出す性質があるのかもしれない。

「くっ……」

起き上がり顔をぬぐう。

その時、すぐ近くの森の方から異様なざわめきが聞こえてきた。

のそり、のそりと木陰が揺れる。

レオンハルトは息をひそめてじっとその場所を見つめる。

森の影から、四つ足で歩く大きな獣が姿を現した。

大きな丸い顔に頑強な頭蓋骨、丸い二つの眼、すっと通った白い鼻筋、赤色の分厚い毛皮。

馬も一撃で仕留められそうな太い手足に鋭い爪。

(キリングベアー……)

凶悪強靭な地上のモンスター、キリングベアー。

人も家畜もモンスターすら襲う獣。

キリングベアーはこちらを見ながら、ゆっくりと近づいてくる。

おそらくゴブリンを食べたキリングベアーだろう。

装備が整っていれば恐れる相手ではない。鋭い爪も牙も怪力も、盾でさばいて剣で心臓もしくは内臓を突けば終わる。

だがいまは何もない。

幸い剣は近くに置いてあるが、少しだけ遠い。

状況は最悪だ。

それにしてもどうやって結界内に入ってきたのか。あのオオガエルもそうだ。もしかするとリゼットの結界が完全には機能していないのかもしれない。このダンジョン領域全体に張られている結界のせいで。

「クッソこんな丸腰の状態で……」

「ディー、目を逸らすな」

キリングベアーを睨んだまま警告する。

「背中を見せれば追ってくる。走る速さじゃ敵わない」

湯の中を移動して武器を取りに行くよりも、キリングベアーに背中をやられる方が早いだろう。

できればキリングベアーにはこのまま森の奥に戻ってもらいたい。

レオンハルトは下手な刺激はせずにやり過ごしたかった。それが最も早くて安全だと。

緊迫した睨み合いの状態が続く。

キリングベアーが咆哮を上げる。耳が痺れるほどの叫び声を上げて突進してくる。

「くっ――」

武器はない。防具も。

そして圧倒的な体格の差。単純な力の差。

ならばそれをすべて逆手に取るまで。

キリングベアーが風呂の中にまで入ってくる。白い爪を立てて後ろ足で立ち、上半身を起こしながら。

レオンハルトはキリングベアーの懐に潜り込んだ。

鋭い爪で抱擁されるよりも先に胴の毛皮をしっかりとつかんで、キリングベアーが覆いかぶさってくる勢いのまま、腰を引いて風呂の中に身を沈める。

沈みながら片足でキリングベアーの腰骨を蹴り上げる。

キリングベアーの身体が宙を舞い、湯船の外へ転がり出る。そしてそのまま海に落ちた。

放り投げられたことに驚いたのか、キリングベアーは再びレオンハルトに向かってくることはなく、慌てたように泳いで逃げていく。

だが泳ぎはあまり得意ではないようだった。

半分溺れながらもつたない泳ぎをしていたキリングベアーだったが、動きがいきなり遅くなる。

水の中から現れたサウザンドブロブがキリングベアーに絡みつき、水中に引きずりこもうとする。

その周囲には魚――障害の怪魚レモラが飛び回っていた。おそらくキリングベアーにも取り付いているだろう。レモラに取り付かれたものは動きが緩慢になる。

キリングベアーが溺れながらゆっくりと沈んでいく。

――ダンジョンは食うか食われるか。

リゼットが何回も口にしていたが、まさにその通りの光景が目の前で繰り広げられる。ダンジョンの無常さがそこにあった。

「すっげえ……本当に丸裸でやりやがった……」

「早くリゼットを追いかけよう」

レオンハルトは急いで風呂から出て、武器を手に取る。

荷物を背負う。自分の分に、リゼットが置いていった分、ついでにディーの荷物もすべて。

ディーも風呂から上がってくる。

「ディー、松明を持ってくれ」

荷物の中からこんな時のために備えていた松明を取り出し、いまだ燃えている火から点火する。

「お、おい。なんか着てけよ――」

「そんな暇はない!」

「うわあぁあ……知らねーぞオレは……」