軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65 ノームの学者フォンキン

「なんだねこの有様は。見苦しい」

しわがれた呆れ声が響く。

リゼットはなんとか目を開けて声のした方向を見る。

ヒューマンの子どもほどの背丈に、亜麻色の短い髪。褐色の肌。そして青緑の深い輝きを持つ瞳と、特徴的な大きな耳を持った、眼鏡をかけた男性――ノームがいた。

ノームは精霊と同一視されていた時代もある小柄な人族だ。

そのルーツはドワーフと同じだが、ドワーフは力と体力自慢の生粋の戦士であり、同時に鍛冶師として高い技術を持ち、ノームは生来魔力が高く種族全体が魔術士として優秀だという。

「もしやレモラを食べたのか? モンスターを食べるキワモノがヒューマンの中にいるとは驚きだな」

「……初めまして。リゼットと申します」

リゼットが立ち上がって挨拶をすると、ノームは顎ひげを触りリゼットたちや料理をきょろきょろと興味深そうに見渡す。

「……俺はレオンハルトだ。よろしく頼む」

「……ディー、シーフだ」

「ふむ。小生はフォンキンだ」

興味なさそうに相槌を打って名乗る。

フォンキンの関心は料理の方に注がれているようだった。

「よろしければフォンキンさんもいかがですか? たくさん獲れますので」

「ふむ、遠慮しておこう。食料ならあるからな」

あっさりと断られる。興味がありそうだったのだが。

少し残念に思いつつも、いまはそれよりもフォンキンの存在そのものの方が重要だった。

ケヴィンとユドミラに続いてのダンジョン内での生存者との邂逅。何か重要なヒントが得られるかもしれないし、協力できるかもしれない。

フォンキンもこちら側に興味を抱いているようだった。

リゼットは興奮を抑えつつ問いかける。

「フォンキンさんはソロでこちらのダンジョンに?」

「冒険者などと一緒にするでないわ。小生はこのダンジョンの調査をしておる学者じゃ」

「学者の方だったのですね……おひとりでダンジョンの調査をされているのですか?」

「うむ。この原初のダンジョンの美しいこと、非常に調査のしがいがある」

フォンキンはうっとりとダンジョンを見渡す。

「ここにはかつての世界が完璧に再現されておる。しかも生まれたての頃の世界が。このように美しいものは、この世に二つとないじゃろう」

――かつての世界とは古き時代のことだろう。

ダンジョン内は女神が訪れる前の、巨人の時代が再現されているという。学者と名乗るフォンキンは何らかの方法で巨人時代のことを知っているのだろう。記録が再現されていることにとても興奮しているようだった。

「ええ、そのとおりだと思います。このダンジョンはとても美しいです」

原初的だからこその美しさがある。フォンキンの興奮はリゼットにもなんとなくわかった。

フォンキンは感心したように目を大きくしてリゼットを見上げる。

「おお、ヒューマンにダンジョンの美しさが理解できるとは……」

「恐縮です」

「うむ、久しぶりに愉快だ……ちょっと失礼」

上機嫌で言いながら、上着のポケットをごそごそと探り始める。

(フォンキンさんは食料はどうされているのでしょう……ノームの方は大気中のエーテルを食べて生きると言われていますが……)

そうやって精霊と同一視されてきた。

フォンキンはポケットから固形の携帯食料――麦と木の実とドライフルーツを固めたものを取り出すと、ボリボリと目の前で食べ始めた。

(神秘とはヴェールに包まれていてこそ神秘ですのね……)

ヴェールが外されればそこにはありのままの姿がある。

リゼットは少しだけ悲しい気持ちになり、勝手な思い込みを反省した。

「フォンキンさん、よろしければ私たちとご一緒しませんか? 脱出不可のダンジョンでおひとりで調査は危険でしょう」

「脱出不可ダンジョン? 何を言っておるのだ」

フォンキンは心底不思議そうに聞き返してきた。

後ろでじっとしていたディーが慌てたように身を乗り出す。

「もしかして出る方法があるのか? 頼む教えてくれ! ください!」

「なんだお前たち。馬鹿正直に表から入ったか」

必死に頭を下げるディーを見て、フォンキンはふっと鼻を鳴らす。

「原初ダンジョンはまだほとんど閉じられた状態だ。備えなしに入れば戻れなくなるというのに」

喉の奥で愉快そうに笑う。リゼットたちの窮地を面白がっているようだった。

「そうだったのですね……それではフォンキンさんはどのような手段でこちらのダンジョンに?」

リゼットが問うと、フォンキンは顎ひげを触りながら胸を張った。

「小生は転移魔法でここに入った。もちろん出るときも転移魔法だ」

――転移魔法。

ごくわずかな者しか使えない高等魔法。場と場と繋ぎ、人や物質を一瞬で移動させる魔法だ。

国家間や都市間の荷物や手紙の移動に重用されている。非常に便利な魔法だが、生物の移動はかなりのリスクがあるといわれている。転移場所に人や物が存在すれば、それと混ざってしまうことがあると。

そのため拠点づくりと維持には細心の注意が払われるという。

「オレたちもその方法で出してくれ! 頼む!」

「無理だ」

「ゴールドならある!!」

ディーは必死に懇願する。

フォンキンはやれやれと肩を竦める。

「この転移魔法は登録してあるものと同じものしか呼び戻せない。いくら黄金を積まれても無理なのだよ、ヒューマン」

ディーががっくりと肩を落とす。いまにも地面に潜り込みそうなほどの勢いで。

「それではな。せいぜい死ぬではないぞ」

携帯食料を食べ終わると、どこか嬉しそうに青緑の瞳を輝かせて、フォンキンはダンジョンの奥へと消えていった。