軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61 不死蛇ヒュドラ

一度長い休憩を取ることにして、交代で睡眠をとる。

リゼットは起きてから先日村でつくったシチューの残りを解凍して温めた。

小麦粉で小さい団子を作って丸めて塩ゆでしたものも追加してボリュームを増やした。

「くわぁぁ……しみる……普通に生き返る……普通に生きてるって感じがするぜ……」

ディーがやけに感動していた。

「ミミックがいればいい食材になるのですが、宝箱もミミックもいませんね」

ミミックはエビの味がして美味だ。可食部も多いので食材として優秀だが、まだ見かけてはいない。

冒険者の白骨は時折見つかれど、所持品は残っていない。おそらくゴブリンが持ち去っているのだろう。

「このダンジョンは本当に新しい感じがするな。まだ第一層ということもあるかもしれないが……ダンジョンが成長するほど多種多様なモンスターが現れてくるものだ」

「なるほど。ではもう少ししたらミミックも現れるかもしれませんね」

リゼットは片付けを終えて立ち上がる。

「それでは今日も元気に探索しましょう」

魔法の灯火を作り直し、ダンジョンの洞窟を進む。

出会うのは車輪蛇や、ゴブリンにゴブリンリーダー等のゴブリン族。グリーンスライム、レッドスライム、ブルースライムのスライム三種。

ほとんどは【先制行動】の全体攻撃魔法で終わる。

その中で食べられそうなモンスターは車輪蛇くらいだった。

「未知のダンジョンってのは思っていたより厄介だな。情報が何にもねえ」

ディーが地図を描きながら唸る。

「構造も単純ぽいから第一層はすぐにクリアできるだろーけど」

進んでいくと、やがて広い空間に出る。

洞窟内に自然にできた部屋のようで、壁や天井は他の場所と同じくごつごつとした岩に覆われていた。

部屋の一番奥には大きい穴があった。

灯火の魔法でさえその奥の暗闇を照らすことはできていない。

「いかにもって感じだな……」

ディーが警戒しながら呻く。

穴の奥からは生き物の気配がした。異様な雰囲気は他者の接近を拒んでいるかのようだった。

「リゼット、火矢で追い出してくれ」

「フレイムアロー!」

火矢が穴の中に吸い込まれる。ざわっと空気が揺れ、そのわずか後に穴の中から大蛇の群れが頭を出す。

――違う。

大蛇の群れではない。

それは八の頭を持つ、一匹の蛇だった。

「ヒュドラか……! 毒に気を付けてくれ!」

【鑑定】ヒュドラ。八の頭を持つ蛇。頭の内のひとつは不死。その毒は猛毒であらゆる生命を死に至らせる。

【水魔法(上級)】【敵味方識別】

「フリーズストーム」

リゼットはヒュドラの動きを鈍らせるため室内に氷雪の風を吹かせた。

蛇なら寒さには弱いはず。

その想定通り、ヒュドラの動きがやや緩慢になる。

レオンハルトが剣で頭の一つを斬り飛ばす。盾で返り血を防ぎながら。

しかし、その斬り落とされた部分がたちまち再生し始めた。ぼこぼこと肉が盛り上がり、あっという間に元の頭の形に戻る。

「うへえ気持ち悪ぃ」

「リゼット、魔法で斬った場所を焼いてくれ」

言いながら、レオンハルトの剣がまた頭を一つ斬り落とした。

【火魔法(神級)】【魔法座標補正】【敵味方識別】

「フレイムアロー!」

斬ったばかりの断面を魔法の火矢で焼く。

断面は黒く焦げ、再生はしなかった。

「よし」

レオンハルトが続けてヒュドラに迫り、首を飛ばす。

それをリゼットがすかさず焼くことを繰り返し、最後に中央の頭が一つだけ残る。

それだけは、断面を火で焼いてもそれ以上の速度で再生した。

「レオン、もう一度あの頭を落としてください」

氷雪の中を風よりも速く、光よりも疾く、剣閃がほとばしり首を落とす。

軽々と行なってしまうが強靭な筋力とたぐいまれな技術が合わさっての神業だ。

リゼットは頭が落ちた場所に土魔法で丸い穴を開け、そこにヒュドラを落とす。

【魔力操作】【土魔法(初級)】

「ストーンピラー!」

リゼットは天井の周囲の岩石を集めてひとつの巨大な柱をつくり、ヒュドラの頭を上から押さえつける。

太い柱――ダンジョン全体で押さえつけられたヒュドラはなんとか抜け出そうと身じろぎするが、抜け出すことは到底できそうになかった。

「ヒュドラの毒ってかなり強力なんだろ? オレも聞きかじったことあるぜ」

「ああ。胆汁を矢に塗ってつくった毒矢は不死さえ殺すと言われている」

「へーぇ」

ディーは上機嫌に口笛を吹く。

「ヒュドラ毒を使ったものは、最後は自分もその毒で死ぬという逸話もある」

レオンハルトの剣についた血を浄化しながら、リゼットはその話を聞く。

「俺の知っているのは、不死の英雄が誤ってヒュドラ毒を受けてしまい、あまりの苦しみに耐えきれずに自分の身体を燃やして、ようやく苦しみから解放されたという話だ」

「不死でも耐えきれなかったのですね……」

死に救いを求めるほどの強力な毒。

まるで呪いのような毒だ。

「怖っ……でも傷口に入りさえしなきゃ大丈夫だろ」

「ディー、危ないですよ」

「気を付けるって。肝はこの辺だったかなっと」

ディーは手持ちの矢にヒュドラの胆汁を塗って、くるくると防水紙を矢に巻き付けて矢筒に戻す。

「さて、こんなところとは早くおさらばしようぜ」

ディーはきょろきょろと辺りを見回す。

ヒュドラの隠れていた穴の奥には下の階層へ続く階段があった。しかしもうひとつのあるべきものが見つからない。

「なんでだよ……なんで帰還ゲートが出ないんだよ……!」

切羽詰まった声で叫ぶ。

あちこち探し回るがあるのは階段だけで、帰還ゲートが出現していない。

すぐに消えてしまうことはいままでもあったが、階層ボスを倒しても帰還ゲートが出てこないことはいままでなかった。

「うーん……なかなかハードモードですね」

脱出不可のダンジョンは、リゼットが想像していた以上に難攻不落だった。

「ですがそれならダンジョンを踏破すればいいだけです! それよりもヒュドラを食べてみましょう!」

レオンハルトの顔が青くなる。

「ヒュドラを、食べるのか……」

「毒処理はしっかりしておきますね」