軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33 キマイラ退治

リゼットはユニコーンの角杖を握り、玄関前の土間で身体中に魔力と気力を巡らせていた。何が相手だろうといまは負ける気がしない。

小窓から外を見ると、キマイラはいまだ呑気に畑の野菜を食べている。こうして見ているとただのネコ科モンスターに見えるから不思議だ。

「はぁぁ」

ディーが大きなため息をつきながら、弓を肩に通し矢筒を背負ってやってくる。

「ディーは弓を使うんですか?」

「ん、借りた。扱えなくはないからな。ナイフは一本失っちまったし、あれを相手にするなら距離が取れる方がいい。オレは臆病なんでね」

そう言いながらも逃げたり戦闘を拒否する素振りは見えない。苦手なことからも逃げないディーは強いと思った。

そうしていると戦闘準備をしたレオンハルトが鍛冶場の方から戻ってくる。

「簡単な打ち合わせをしておこう」

レオンハルトは土間の土に棒で絵を描き始める。

「キマイラは見たとおり頭が三つある。つまり脳も三つあるわけだが身体は一つだ」

がりがりとキマイラの絵を描いていく。どこか愛嬌のある、うまい絵だった。描き慣れている。

「頭は獅子の頭、山羊の頭、そして尾に竜の頭。炎を吐くのは山羊の頭だ」

「なんだよその罠。竜の頭はなんのためにあるんだよ」

「……後ろの警戒かな。竜の頭は近づかなければ問題ない。翼もほとんど飾りで空も飛べない」

キマイラの絵に翼を描き足す。身体に対してとても小さい翼だ。ただの飾りのようだが、竜の頭のサイズと比較すると適切なサイズにも思える。

混ざって洗練されるのではなく、いびつになったモンスター。

「一番危険なのは炎を吐く山羊の頭だ。ここは俺が対処する。ディーは後ろの竜の頭の気を引いていて欲しい」

キマイラの後方に弓を持った棒人間が描き加えられる。

「キマイラは前後に気を取られることになるから、自由には動けなくなる」

「前にも後ろにも進みたくなって、どっちにも動けなくなるのな。了解」

「俺が合図をしたら、リゼットには爆発ウサギを凍らせたときの魔法を使って欲しい」

――フリーズストーム。

爆発ウサギを凍らせた氷雪の嵐。

「わかりました。任せてください」

作戦のおさらいが終わり、ディーは勝手口へ向かう。レオンハルトとふたりきりになる。

小窓からはまだキマイラが見える。のんびりとした姿はいまにも昼寝を始めそうだ。

「それじゃあ行こうか」

「レオン、何を持っているんですか?」

レオンハルトは剣と盾だけではなく、腰に重そうな袋を吊るしていた。

リゼットの問いに、レオンハルトは不敵に笑う。

「ただの鉄だ」

家の玄関からゆっくりと外に出て、畑の方に回り込む。キマイラに気づかれないように慎重に。

ディーも台所の勝手口から出て、気配を殺して忍び寄る。木の陰に身を隠し、弓矢を構える。

――放つ。

ディーの放った弓矢が竜の頭に命中する。竜鱗と頭蓋骨に跳ね返されたが、気を引くことに成功した。

獅子の頭を上げ、矢が飛んできた方向――ディーの方に行こうとするキマイラの獅子の頭に狙いを定め――

「フレイムバースト!」

頭の近くで爆発を起こす。キマイラの身体が軽く吹き飛ぶが、倒すまでには至らない。狙いが甘かった。

獅子の目と山羊の目がリゼットを睨む。

後方に向かいたい竜の頭と、前に行きたい獅子の頭。

縄で前後に引っ張られているかのように、どちらにも進めず固まっている。

頭が三つで身体は一つ――それぞれの頭からの命令が齟齬を起こして身体が混乱し、行動に結び付かずにいる。

レオンハルトが駆け出す。

山羊の口が開く。

【聖盾】

辺り一面を焼き尽くしそうなほど激しい炎を、魔力防壁が防ぐ。

炎の息はしばらく吐かれ続けたが、永遠には続かない。

レオンハルトは更に距離を詰め、炎を吐き終えた山羊の口の中に腕を突っ込んだ。

押し込み、手を抜く。

獅子の頭がレオンハルトを噛もうと大きく口を開く。レオンハルトはそれを剣で払い、獅子の口の中に剣を突き立てた。喉の奥まで。

再び山羊の口が開く。炎の気配を纏って。

しかし。炎は吐き出されなかった。

口の端からわずかに赤い火が吹き出すがそれだけだ。

そのまま苦しむように、もがき、下を向く。

「リゼット!」

フリーズストームの合図だ。だがこのままではレオンハルトを巻き込んでしまう。

危惧したリゼットはすぐさま新たなスキルを取得した。

【魔力操作】【水魔法(上級)】【敵味方識別】

「フリーズストーム!」

氷の嵐が局地的に吹き荒れる。

スキル効果だろう。氷の嵐の中でもレオンハルトは冷気に巻き込まれない。

その間にも凍てつく風はキマイラを、そして喉に流れ込んだ鉄を急速に冷やす。気道に鉄が詰まってキマイラは窒息する。

頭は複数でも内臓器官はひとつ。

息ができなくなったキマイラの身体は活動を停止して倒れる。

唯一動いていた尻尾の竜も、全身に死が蔓延したことで息を引き取る。

「レオン、だいじょうぶですか」

レオンハルトの元に駆け寄る。隠れていたディーも危険は去ったと見てこちらにやってくる。

「ああ。軽く怪我をしたけれど、治した」

「よかったですが、あまり無理をしないでください。それでいったい何をしたんですか」

「口の中に鉄の塊を押し込んだ」

――鉄。

腰に吊るしていた重そうな袋は、中身が空になっている。

「炎で鉄が溶けて、冷やされて固まって窒息したんだ」

「よくやるぜ」

ディーが呆れたように言う。

その時、畑に倒れていたキマイラの身体がどろどろに溶け出す。あっという間に三つの身体に分かれて、山羊の頭と竜の頭と翼、そして獅子の頭と身体になる。

その中央に琥珀色の魔石と溶けて固まった黒い鉄、そしてひしゃげた剣が残る。

そして、地下への階段と帰還ゲートがカナトコの家の庭に出現した。