軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 ミミックのホワイトソースニョッキ

「私、すごいことに気づいたんです。このミミックの宝箱に似た部分は、なんと外骨格なんです!」

床に広げたミミックの腹側を見せて力説するリゼットを、レオンハルトと教会騎士が無の表情で見ている。

ミミックの腹側は黒い。大きな口の周りには鋭い牙が並んでいて、赤く長い舌がだらりと伸びていた。

「つまりカニやエビと同じような構造で、中には肉が詰まっているんです。ですが私では力が足りないので、おふたりはミミックの足を落として、殻に切り込みを入れていっていただけますか」

教会騎士が戸惑った表情で手を上げる。

「何故そのようなことを?」

「調理するからですが?」

当然のことを聞かれ、リゼットは首を傾げる。

「モンスターを食べる気ですかッ? 死にますよッ?」

「だいじょうぶです。毒は無効化できますし、しっかり火を通しますので」

「……そこまで追い詰められているのですか? モンスターを食べるほかないほどに」

「最初は確かにそういう面もありましたが、いまはただ楽しくて」

「楽しい……?」

リゼットは頷く。

「はい。モンスターをおいしく食べることも、ダンジョンの恵みをいただきながら生きることも、楽しくてやっているんです」

バキッ、バキッと殻と関節を割る音が響く。

リゼットは湯を沸かし、分解できたミミックから塩茹でにしていく。ミミックは茹でるとすぐに真っ赤になったので、火のとおり具合がわかりやすかった。

リゼットはミミックを茹でる合間合間にウゴキヤマイモの根の皮をむいていく。それも茹でて潰して小麦粉と卵と混ぜて、一口大に丸めて更に茹でる。

続いてホワイトソースをつくる。バターを溶かしてみじん切りにした玉ねぎ、ほぐした乾燥マイタケニドを炒め、小麦粉を振り入れる。しっかり火が通ったら水を入れて煮詰める。殻付きミミックの切り身を浄化してから入れてさっと火を通し、それらを茹ったニョッキの上にかけていく。

「完成! ミミックのホワイトソースニョッキです!」

三人分に取り分け、リゼットは早速食べた。まずは一口。もう一口。

バターの香りと玉ねぎ、キノコの旨味。そしてミミックの風味。ミミックは殻付きのままだが身離れがよく、かんたんに取れて食べやすい。その白い繊維質の肉を噛みしめる。

「エビだな」

「エビですね。おいしい」

同じタイミングで食べ始めたレオンハルトと意見が一致する。

ミミックはエビの味。またひとつ新たな知見を得る。

「このニョッキもなめらかでモチモチで……なんておいしいのでしょう」

「ほ、本当にモンスターを……ミミックを食べている……ああ、女神よ……」

教会騎士は信じられないものを見るように、リゼットたちの食事風景を眺めていた。唇を紫にして、薄っすらと涙を流しながら。

そして手にした皿に盛られた料理を見つめ、匂いを嗅ぐと、腹の虫がぐうと鳴く。

教会騎士は意を決したように一口食べる。

緊張しきっていた顔は、咀嚼が進むたびに少しずつほぐれていった。

「うまい……」

呆然とした表情で呟く。

「こんな……こんなうまいものを食べたのはいつぶりだろう……」

「苦労されたのですね。さあ、どんどん食べてください」

リゼットは食べながら残りのミミックをシンプルに塩茹でにしていく。

いくら食べても飽きることなく、幸福感に満たされていく。

「ミミックっておもしろいですね。宝箱の顔をして人を騙して、モンスターの顔で人を襲って、でもこんなにおいしい一面もあるなんて」

「……本当に楽しんでいらっしゃるのですね」

教会騎士がぽつりと零す。

「――リゼットさん。あなたは聖女様を、いまはどう思っているのですか」

リゼットは驚いた。いまさらまたメルディアナのことについて問われるとは。

教会騎士の顔は真剣そのものだった。

「私は日々を生きるのに精いっぱいで、彼女のことを思い出すことはほとんどないんです」

本当のことを素直に口にする。

初期のころはメルディアナのことを考えることもあったが、ダンジョン生活を満喫し始めてからは余計なことを思い出す暇がない。

「恨んではいないと?」

「……よくわかりません。ただ、平和に過ごしていてくれればいいと思います」

それが偽らざる本音だ。

もうメルディアナのことで振り回されたくはない。安定した環境で聖女の仕事に集中してくれていればそれで。そしてリゼットのことを忘れてくれれば、それ以上を望むことはない。

「……一面を見ただけではその人のすべては見えない……確かにそのとおりです」

(ミミック――いえ、モンスター全般のことでしょうか)

リゼットは黙々と殻から身を外しながら頷く。

それにしてもこのミミックのなんて美味なことか。このおいしさが広まればダンジョン内からミミックは駆逐されてしまうだろう。

リゼットはふと思い出した。ミミックを調べている最中に見つけたものを。

「騎士様。これは教会騎士様のものでしょう?」

リゼットはミミックの中で見つけた勲章を教会騎士に渡す。おそらくミミックに食べられたときに取れてしまったものを。

それは教会騎士に任命されるときに授与されるものであり、教会騎士の証となるものだ。

「はい……私のものです」

震える指で勲章を受け取り、ぐっと握りしめてうつむく。

教会騎士とは女神に命も心も私財も捧げた存在だ。

その信仰心の深さと高潔さは広く知られており、リゼットもよく知っている。

勲章が持ち主の元に戻ってよかったと、心から思った。

「そうだった……私が命を捧げるのは――」

しばらくしてから教会騎士が顔を上げる。そこにあったのは。迷いを立ち切れたかのような力強い目だった。

「ご迷惑をおかけしました。私は地上に戻ります」

「私に用があったのでは?」

「そちらはもう良いのです」

教会騎士は苦笑し、吹っ切れた表情でそう言った。

教会騎士が帰還ゲートを使うと、光球が出現する。神秘的な柔らかな光の前で、教会騎士はリゼットたちを振り返る。

「ダンジョンに来てからずっと、何が正しいのか迷っていました。ですが、貴女のおかげで迷いが晴れました。私のすべては聖女にではなく、女神に捧げたもの」

「? お役に立てたのなら良かったです」

「貴女が取り戻してくれました。これはせめてものお礼です」

「まあ、ありがとうございます!」

教会騎士から渡されたのは食料だった。ミミックにも食べられずにいた貴重な食料だ。

リゼットはそれを抱きしめながら、帰還ゲートの光の中に消えていく教会騎士を見送る。

神秘的な光が静まると、教会騎士の姿も消え、ダンジョンの静寂が戻ってくる。

「良い方でしたね。でも、本当に何をしにいらっしゃったのでしょうか」

「さあ。もういいって言っているんだからいいんじゃないか。気にしても仕方ない」

「そうですね」

リゼットはレオンハルトを見る。

教会騎士に罪人と呼ばれていたのを聞いていたのに、レオンハルトのリゼットに対する態度に変化はない。詳しく聞いてくることもない。

リゼットはそのことを嬉しく思った。