軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

199 合流

「……メルディアナ?」

「なぁに、その顔。わたしもスキルに目覚めたのだから、ダンジョンにいても何もおかしくないでしょう?」

メルディアナはおかしそうに笑う。

誰もが、ダンジョン領域に入ればスキルに目覚める。ダンジョンの法則に囚われるように。

戦闘向きのスキルもあれば、生産向きもスキルもある。何の役にも立たなさそうなスキルもある。

ダンジョン領域に足を踏み入れたメルディアナにも、何らかのスキルが目覚めているのだろう。ダンジョン攻略に適したスキルが。そうだとしても。

「メルディアナ、どうしてあなたが……ノルンにいたはずじゃ……」

「教皇様に呼び出されたのよ。きっと、お姉様に言うことを聞かせる奥の手にしようとしたんでしょうね。でも、そんな話は後よ、後」

青い瞳を輝かせ、若草色の髪をなびかせながら、メルディアナはリゼットの方へやってくる。

レオンハルトが警戒するようにわずかに前に出たが、メルディアナは気にせずに少し手前で止まってリゼットの失った右腕を興味深そうに眺めた。

「思い切りよくいったのね。綺麗な傷口。腕が残っていたら、簡単にくっついたでしょうに」

そしてレオンハルトを見上げ、にっこりと微笑んだ。

「わたしがお姉様に何かしようとすれば、まずダグラス様が許しませんわ。見ていてくださいます?」

レオンハルトの視線が一瞬ダグラスに向けられる。

「――メルの回復魔法は、超一流です。おそらく歴代でも五本の指に入るでしょう」

「うふふ、ダグラス様ったら」

親しげな空気が二人の間に流れる。

どうやらかなりの信頼関係で結ばれているようだ。

「マジだよ、マジ。こいつらがいなきゃ、オレもここまで来れなかったし」

ディーの言葉もあり、レオンハルトはわずかに警戒を緩めた。

メルディアナがもう一歩、リゼットに歩み寄る。

「わたしはダンジョンで回復スキルを。そしてその前から別の才能を持っていたみたい。お姉様もよくご存じよね。わたしの【強欲】は」

可愛らしく笑うその姿は、生命力に満ち溢れている。

「どうやら【強欲】スキルは、あらゆる力を吸い取って利用できるみたい。あらゆる魔力に、生命力。ダンジョンに満ちる力……」

メルディアナの両手が、リゼットの右腕部分に伸びる。

その指先は、きらきらと光り輝いていた。

「わたし、お姉様に借りを作ったままにしたくないの」

瞼を閉じ、言葉を紡ぐ。

「――リジェネシス」

――回復魔法。

メルディアナの手から光が生まれる。

眩い光が辺りを照らし、失われた右腕部分が熱くなる。もうなくなってしまった部分なのに、燃えるように熱い。

血が沸いているかのように。

「あ……う……っ……」

「リゼット――」

金色の光が骨、筋肉、皮膚を形成していく。魔法によって、新しい腕が構築されていく。

――そして、リゼットの腕が完全に再生される。

リゼットは信じられない気持ちで右腕を見た。

見た目は完全に元通りだ。

試しに動かしてみるが、ちゃんと指先まで思いのままに動く。料理中に作った傷痕まで残っている。

「私の手です……」

声が震える。

「よかった……本当に……」

レオンハルトの声にも涙が滲んでいる。

「メルディアナ、ありがとう……感謝の言葉しかありません……メルディアナ?」

リゼットは目を見開いた。

そこにいたのは老婆の姿となったメルディアナだった。

「……ふう。成功したみたいね」

「メルディアナ、その姿は――」

「貯め込んでいた魔力を使い切ると、元の姿に戻ってしまうのよ」

何事もなかったかのように言い、額の汗を拭う。

「お礼はいらないわ。借りを返しただけだもの。お姉様がわたしとお父様を修道士にしていなければ、あのあときっと処刑されていたもの。あと、これはサービス」

次の瞬間、千切れていた袖も再生される。

リゼットは驚きで目を見開いた。メルディアナの魔法は単なる治療や再生ではなく、時間を巻き戻しているのかもしれないと思えるほど、完全に元通りとなっていた。

「ああ、もう本当に魔力が空っぽ。何もないわ」

メルディアナは疲れた声で言う。口元には満足そうな笑みが浮かんでいた。

その小さな背中をダグラスが支え、二人の間に柔らかな空気が流れる。

メルディアナはダグラスにもたれかかりながら、リゼットを見つめて美しく微笑む。

「……わたしはね、ずっとお姉様が羨ましかった」

「――私が、ですか?」

「ああ、またそれ? そういうのが妬ましかったのよ。なんでも持っているのに、なんにも持っていないような顔をして……いらないならわたしがすべて欲しかった」

「…………」

――リゼットも、羨ましかった。

誰からも愛される妹が。

父の愛情を一身に受ける妹が。

リゼットも、ほんの少しでいいから父から愛されたかった。

「――わたしは、お姉様みたいになりたかった」

リゼットのものを何でも欲しがったメルディアナの心の内を、いま初めて聞く。

「いまはもうわかっているわ。お姉様も悩み苦しみながら生きていることを。何を悩んでいるかはわたしには理解できないけれど……でも、お姉様もわたしを理解できないでしょう?」

「それは……そのとおりです」

メルディアナの話を聞いたいまでも、彼女のすべてを理解することはできない。

「……でも、わたしのしたことは、許されることじゃないわ」

メルディアナは自分自身の足でしっかりと立ち、リゼットの顔を見つめる。

「わがままをたくさん言って、ごめんなさい。ひどいことをたくさんしてごめんなさい」

「メルディアナ……」

「ふう、すっきりした。ようやく胸のつっかえが取れた気分よ」

「メルディアナ、抱きしめていいですか?」

「は?」

メルディアナは目を丸くする。

「ちょ、ちょっと――近いわ」

「いいじゃないですか。たった二人の姉妹なんですから」

リゼットは両手でメルディアナを抱きしめる。

初めて抱きしめた妹の身体は暖かかった。

メルディアナはしばらく強張っていたが、やがて諦めたように力を抜き、リゼットの肩に手を回す。

「お姉様……」

小さく響いた声は、わずかに揺れていた。

「……わたし……きっと、ずっと……こうしたかった……」

「長い間、ごめんなさい。来てくれてありがとう、メルディアナ」

お互いの気持ちが落ち着くまで、抱きしめ合う。

離れた後も、胸のあたたかさは残った。

「さあ、みんなでドラゴンステーキを食べましょう」