軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193 奇妙なパーティー【Sideディー】

(くっそダリい……)

ディーは痛みに奥歯を噛みしめる。

死んだあとは決まって全身が倦怠感に包まれる。

体力低下と頭痛や内臓の痛みが同時にやってくる。

(それでも、いままでよりはまだマシか……モンスター料理のおかげかねぇ……)

顔を顰めながら目を開く。薄暗い洞窟の光景。

隣に寝ているのは時間が経過して崩れそうな骸骨。地表は青白く煌めいていて、その光が骸骨たちを照らしている。

見覚えのある場所だった。このダンジョンの最初の場所。

――大聖堂地下。石に覆われた、打ち捨てられた墓地。

天井はあまりにも高く、上に光は見えない。ディーたちを落とした穴は、いまだ塞がれたままのようだ。

「あら、ダグラス様。生きている方がいましたわ」

おっとりした女の声が響く。

ぎょっとして声のした方を見ると、若い男と、もっと若い女がいた。

その二人には見覚えがあった。最悪なことに。

「お前ら……」

「ディーさん、お久しぶりです。ご無事で何よりです」

「無事じゃねーよ。お前もなんでここにいんだよ、ダグラス。しかも――」

――男はダグラス。

ノルンダンジョンで一時的にパーティを組んだ教会騎士だ。

その後ろには、明るい緑の髪に青い瞳の、顔立ちだけは抜群にいい少女がいた。

どこかリゼットに似ている。特に目の色と、顔つきが。

「ニセ聖女といっしょにどーしてこんなとこにいるんだよ……」

「ディーさん、彼女は――」

「いまはメルと呼んでください。いまはただの修道女です」

――メルディアナ。

リゼットの妹で、リゼットから聖女の証である聖痕を奪って好き放題していたという女。

しかし、メルディアナは老婆の姿になっていたはずだ。なのに少女の姿に戻っている。

(ダンジョンだもんな。なんでもありか)

特に驚くところではない。

「メルディアナという名前は、貴族らしく聞こえるように付けられたもの。もう意味がないですので、メルと」

「んで、ついに捕まって教皇様の裁きを受けたわけか? 罪人に相応しい末路じゃねーか」

「うふふ。ちょっと反抗的な態度を見せただけですわ」

悪びれる様子がまったくない。

ダグラスが疲労の滲んだ表情を浮かべる。

「わかっていて挑発したのでしょう……」

「ごめんなさい。まさかダグラス様まであっさりと捨ててしまうなんて、思ってもいなかったので」

「メルが責任を感じることではありません……ああ、それにしても……まさか本山がこんなことをしていたなんて……」

ダグラスは周囲の人骨の山を見て、頭を抱える。教会のしていることに相当ショックを受けているようだ。

対してメルディアナの方は落ち着いたものだ。

教会に対する思い入れの差か。

「なんかよくわかんねーけど、仕方ねえ。情報交換だ」

同じ穴に落とされた者同士、情報を交換しておくに越したことはない。

情報は宝だ。

そしてディーはダグラスの人となりをよく知っている。真面目すぎるぐらい真面目で、信仰に厚く、リゼットに対して崇拝に近い念を抱いている。

ダグラスの方から話を聞こうとしたのに、メルディアナが前に出てくる。

「わたしは審問官にノルンからここまで連れてこられて、教皇と対面させていただき、ここにポイっと捨てられましたわ。ケヴィンさんとダグラス様の風魔法がなければ、そのまま死んでいたでしょうね」

「ケヴィンのやつも絡んでんのかよ……」

教会審問官であるケヴィンはディーたちも知った仲だ。

とあるダンジョンで一時的にパーティを組んだことがある。

「あいつらも忙しいこったな。にしても世界が狭えな……オレらは、聖遺物の手がかり探してここまで来て、サイフをスられたマヌケなガキにここに落とされたんだよ」

「それで、お姉様はどちらに?」

「……オレだけ途中で死んで戻ったんだよ。クソ……」

言いたくないことだが、言う。

ダグラスは驚いたような、安堵したような表情を浮かべた。

「――戻ったのがディーさんだけなら、リゼット様はご無事なのでしょうね」

ダグラスの言葉に、ディーは苦い気持ちを抱く。

「ま、あいつらは無事だろ」

戻ってきていないところをみると無事に違いない。

――今頃どうしているだろうか。

戦闘は問題ないだろうが、探索については不安が山盛りだ。見え見えの罠に引っかかっていないだろうか。変なスイッチを押していないだろうか。

死んだことは情けなく思うが、あのときリゼットを庇ったことに後悔はない。

ただ、急所に当たったのがいけなかった。急所でさえなければ、レオンハルトの回復魔法で事なきを得たはずだ。

「んじゃな。お前らはお前らでなんとかしろ」

「お待ちください。やはり、合流を目指すのですか?」

奥の怪談に向かっていた足を止め、ダグラスの方を振り返る。

「そりゃ、まあ……オレは何の役にも立たねーけど、頭数にはなるかもだろ」

言うと、ダグラスの後ろにいたメルディアナが微笑む。

「あら? 随分と卑屈なんですね」

「ああ?」

「わたし、ダンジョン探索は初めてですけれど、足手まといをいつまでも連れておけるほど、ダンジョンってかんたんなのでしょうか?」

「……何だお前? なんにも知らねーくせに」

メルディアナは笑みを深める。

「話したいことがあるのでしたら、道中ゆっくりと聞きますわ。ダグラス様も行きましょう」

「……ハァ? ちょっと待て。もしかして、いっしょに来る気かよ?」

「シーフひとりでダンジョンなんて無理でしょう?」

ディーは呆気に取られる。

自分のペースを崩されそうになり、ディーは慌てて頭を振って調子を取り戻そうとする。

「ヤダね。ダグラスだけなら頼りになるけど、お前は足手まといになる」

「まあ。ここはダンジョン領域ですよ? わたしもスキルを得ています」

――ぞっと、冷たいものが全身を駆け抜けていく。

見た目はただの少女だ。

だがその内側には、その辺りのモンスターよりも恐ろしいものを感じる。

(似たもの姉妹だよな……)

一瞬呑まれそうになったが、リゼットのことを思い出して我を取り戻す。

「……何のつもりだよ……リゼットに復讐するつもりってなら、見過ごさねーぜ」

「わたしがお姉様に何かしようとしたら、ダグラス様が真っ先に止めるでしょう。この方はわたしではなく、女神の――そしてお姉様の騎士ですもの」

ダグラスは静かに頷く。

堅物そのものの教会騎士が。

「ホント、どういう関係だよ……」