軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 薄味のスープ

リゼットが冒険者ギルドに初めて入ったとき、男に絡まれたリゼットを助けてくれたのが、レオンハルトだった。

もっともダンジョン踏破に近いパーティのリーダーだとギルドの受付嬢から聞いたということもあり、印象深かった。

あの時にはメンバーといっしょだったのに、どうしてひとりきりでいるのだろうか。

周囲にある足跡は複数人のものだ。他のメンバーは脱出して、ひとりだけ取り残されて閉じ込められてしまったのかもしれない。

駆け寄り、傍に座り、口元に手を当てる。

――息はある。

首元に手を当てると脈がある。

生きている。

「よかった……」

ほっと、強張ってた身体から力が抜ける。

だが危険な状態であることには変わりない。

(助けないと――ああでも、私には回復魔法は使えない……スキル一覧にもなかった)

とりあえず手当てだ。できることはたくさんあるはず。

詳しく様子を見てみると、ひどく憔悴していてやつれているが、大きな外傷はなかった。出血もない。

【鑑定】瀕死。空腹状態。魔力欠乏。

(空腹に、魔力欠乏……どれだけ強くても、簡単に死に瀕してしまうのね。けれど)

――死なせない。

リゼットは決意して、レオンハルトの手当てを始めた。

【浄化魔法】

【水魔法(初級)】

まずは衛生状態の改善。

そして水。このエリアにある水は海水、つまりは塩水だ。いま欲しいのは真水。

コップを取り出して水魔法でつくった真水をその中に満たす。

(意識のない相手に無理やり飲ませようとしたら、気管に入るかも……)

思いとどまり、コップを床に置く。

【魔力操作】

レオンハルトの口の横に小さな水球をつくり、一滴ずつ口の中に入るようにする。回復薬と、第一層で採取した甘い花蜜。そしてエーテルポーションを少し水球に入れて。

一応味見をしてみるが、薄く花の香りがする水だった。

これで身体の渇きと魔力欠乏状態は少しずつ癒されていくだろう。少なくとも悪化はしない。

「さて、何か料理を作るとして……あたたかくて消化によいものがいいわよね……うん、スープをつくりましょう」

空腹状態は料理を食べれば回復するはず。胃にやさしい薄いスープがいいだろう。リゼットはさっそく調理に入った。

毒消し草とマイタケニドを小さく切ってフライパンに入れ、アイテム鞄で保管していたユニコーンの肉も小さく切ってほんの少しだけ一緒に入れる。軽く炒めた後に水を入れて、灰汁を取って弱火で煮る。

具材とスープが馴染んできたら塩で味を整え、味見をする。

「うん、おいしい」

「う……」

声が聞こえて様子を見に行くと、ちょうどレオンハルトが意識を取り戻す。

閉ざされていた瞼が開かれ、エメラルドのような瞳が見えた。

「大丈夫ですか?」

まだぼんやりとしているレオンハルトに声をかけ続ける。

「名前は言えますか? 私はリゼットです」

「っ……レ……レオン……」

声はかすれて身体は思うように動かせていない。だが、意識はしっかりしている。

「レオンさん、もう大丈夫です。スープを作ったんですが食べられそうですか?」

レオンハルトが身体を起こすのを手伝い、壁にもたれさせて座らせる。

出来上がったばかりのスープを深皿に入れて、スプーンですくって口元に持っていく。

「ゆっくり食べてくださいね」

一口ずつ、ゆっくりと食べさせる。

皿の中身が半分もなくなるころには少し頬に赤みが差し、顔色が良くなってきていた。

「……うまい」

「それはよかったです」

「……すごいな。ダンジョン内でこんな料理が食べられるなんて」

「ユニコーンと乾燥マイタケニドのスープです」

「んぐっ!」

いきなりむせかける。

「だ、だいじょうぶですか?」

レオンハルトは口元を手で押さえ、両眼を見開いてスープを見つめていた。穴が開きそうなほどに。

「……ユ、ユ、ユニコーン?」

「はい。ダンジョンにいた馬系モンスターの。入っている野菜はダンジョン内に生えていた毒消し草です」

「ユニコーン……」

レオンハルトはどこか虚ろな目でスープに浮かぶ肉の細切れを見ている。

もしかしたら馬肉を食べない主義の人なのかもしれない。騎士など、馬と密接に関わることのある人々は緊急時以外は馬肉を食べないらしい。

レオンハルトは小さく首を横に振る。自分を無理やり納得させるように。

「マイタケニドというのは……?」

「森で動き回っていた人型キノコモンスターです」

「…………」

顔が再び青ざめる。

「キノコは毒のあるものも多いですが、茶色いマイタケニドに生えたものは本当においしいんですよ。乾燥させてさらにおいしくなったものを入れました。念のため毒消し草も入っていますから安心です」

「…………」

「はい、どうぞ」

スープをスプーンですくって、レオンハルトの口元に持っていく。

レオンハルトはそれを微妙な顔で見つめた。戸惑うような、躊躇うような、嫌がるような。

先ほどまでおいしそうに食べていたのに。

「……もしかして、お口に合いませんでしたか?」

「あ、いや!……あ、ありがとう。もう、自分で食べられるから」

リゼットから深皿を受け取って、スプーンで自分で食べていく。

もう自力で食事ができるまで回復していることにリゼットも安心した。

リゼットもスープを食べる。肉とキノコの旨味が出ていて、ほっとする味だった。

「ご馳走さま」

「おかわりもありますよ」

「……ありがとう。いただくよ」

気に入ってもらえたようでよかった。