軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第86話 ナイフ戦

数年前、オレは海運都市グレイで冒険者登録を済ませた。

初めて受けた『ガルガルを1匹以上退治する』というクエストの途中で、奴らと出会った。

男でイケメンの獣人種族、猫耳族、アルセド。

女で魔人種族、悪魔族、ミーシャ。

そして無口な男でチームリーダー、人種族、エイケント。

その後、声をかけられオークを狩るため、一時的に彼らとチームを組んだが……奴らは偽冒険者で、オレは一服盛られて気付けば縄で拘束されてしまった。

そして、リボルバーとAK47を奪い取られ、オレ自身奴隷として売り飛ばされた。

さらに奴らは、当時スノーとお揃いで作った婚約 腕輪(ブレスレット) をあろう事か奪い、壊したのだ。

今、思い出しても腸が煮えくりかえる。

そんな恨み辛みを抱く仇の1人が、今目の前に立っている。

しかし――

(こいつがあのアルセド? いや、ありえない! 確かに似てはいるが、奴はさっき肉体強化術で身体を補助しながら、抵抗陣を……しかもAK47を防ぐレベルを空中に作り出していた。魔術師でもない奴がそんな無茶をしたら一瞬で魔力が枯渇し気絶するぞ!)

無茶をして魔力を使った場合、気絶するのは体験済みだ。

第一こいつらは新人冒険者を食い物にする偽冒険者で、魔術師ではない。それも過去、実際に確認している。

だが、奴はあれだけのことをして気絶していないことから、最低でも魔術師Bマイナス級以上の魔力を持っていることになる。

生まれながら魔術師としての才能がない者が、魔術師Bマイナス級以上になったことは歴史上一度もない。

それは尊敬するエル先生が教えてくれた。

だから後天的に魔術師になるなど絶対にありえないのだ。

なのに目の前のアルセドっぽい輩は、昔の記憶通りの態度や声で話しかけてくる。

「へぇー、その様子だと奴隷から解放されているみたいだな。まさか魔人大陸から五体満足で生きて戻ってくるなんて」

……やっぱりアルセド本人に間違いないらしい。

オレが奴隷として魔人大陸に売られたことも知っている。

「運良く、いいご主人様に巡り会えたお陰だよ。その点はオマエ達に感謝してもいいかもな。許すつもりはないけど」

「俺に復讐するため、仕事の邪魔……彼女を攫おうとしてるのかい?」

「まさか! オマエが居るなんて知らなかったよ」

「だろうね。俺もつい最近、突然仕事だって遣わされたばっかりだから。ヤッハハハ! だとしたら天神様も数奇な出会いを演出なさるもんだね!」

アルセドは心底可笑しそうに声をあげ笑う。

「今度は二度と出会うことのないように、リュート、お前の喉笛を切り裂いてあげるよ!」

鋭い踏み込み。

彼は慣れた様子で手に残っていたナイフを閃かせる。

オレは咄嗟に肉体強化術で身体を補助。ナイフを取り出し、弾く。

何とか一撃は防げたが、相手はさらに肉体強化術に魔力を注ぎ込む。だんだん速度に付いていけなくなってくる。

「リュートくん!」

「……ッ!」

スノー&クリスが心配そうな顔でこちらを見ている。

援護しようにも、アルセドは蛇のように絡みつき距離を取らせようとはしない。

ナイフの刃が噛み合う。

「リュートを始末したら、あの2人の女の子は連れて行かせてもらうよ! そして昔のオマエみたいに奴隷として売って、今回の損を補填させてもらおうかな!」

アルセドは挑発の言葉を投げつけてくる。

魔力をさらに注ぎ込み、こちらを押し込もうとしてくる。

オレの方はそろそろ魔力が切れそうだっていうのに――ッ!

奴もそれを理解しているのか、勝利を確信した笑みを浮かべる。

「特に獣人種族のあの子! 良いおっぱいしてるよね。奴隷として売り飛ばす前に、味見させてもらうよ! ヤッハハハ! 今夜にでも楽しませてもらうかな!」

「誰が大切な嫁達をオマエみたいなクズ野郎に渡すかよ……ッ。いい加減、その臭い口を閉じろ。ゴミみたいな匂いさせやがって!」

オレは噛み合っているナイフのスイッチを押す。

「ぎゃあぁあぁっぁぁぁぁあぁぁあッ!!!」

アルセドがナイフを手放し、片目を押さえる。

抵抗陣で顔に深く刺さるのは免れたようだが、奴の目にはナイフの先端がざっくりと突き刺さっている。

オレが使っていたナイフはシアに渡す予定だったロシアの特殊部隊も使っているスペツナズナイフだ。

バネの力で刃を飛ばす特殊ナイフだ。

意外にも貫通力は高く前世、ネット動画で観たデモンストレーションでは電話帳に軽々と突き刺さっていた。

オレは刃が無くなったナイフの柄を捨て、相手を蹴り飛ばし地面に転がす。

すかさず手放した自身のAK47を掴み、発砲。

「ぎゃあぁあぁっぁああッ!!!」

アルセドの喉から再び絶叫が響き渡る。

念のため相手と距離を取り、油断無く銃口を向ける。

スノー&クリスには無事を知らせるため一瞥だけ送っておく。

「ぎ、ぎざま。ひぎょうなまねをしやがって!」

「オマエ達に卑怯呼ばわりされるいわれはないよ」

オレは涙、鼻水、涎でぐちゃぐちゃになったアルセドが吐き出す憎悪を軽く肩をすくませ流す。

「さて、僕は別に人道的観点から手心を加えて足を狙った訳じゃない。他の2人――ミーシャとエイケントはどこに居る? 奴らにもきっちり落とし前をつけてやらないとな」

「し、知らねぇよ……ッ、奴らとは数年前に別れたからな」

それに――と、アルセドが痛みを堪え、狂気の笑みを浮かべる。

「リュート! オマエは他の奴らまで辿り着けない! なぜなら俺が殺すからだ!」

奴は1本の注射器を取り出す。

中身は緑色の液体で満たされていた。

――って! 注射器!? ちょっと待て! なんでこの異世界に注射器なんてあるんだ! 初めて見たぞ!?

オレは注射器に目を奪われ、アルセドの行動を阻止するのに遅れてしまう。

彼は首に針を刺すと一気に液体を体内に流し込む。

「この俺に逆らったこと! 俺達の組織に牙を剥いたこと! 我らが主――黒い御人に叛逆するクソ共が!」

アルセドの傷は離れてても分かるほど膨れ上がった魔力により、ほぼ一瞬で回復。

彼はまるで本物の獣の如く、手を地面に付き牙を剥き咆吼する。

「全員まとめてブッ殺してやる!」