軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第66話 お願い

ツインドラゴンを倒したオレ達がまずしたことは、ドラゴンの死体を氷漬けにすることだった。

シア曰く――『これほど状態がいいツインドラゴンの死体はなかなかないから、持ち帰れば良い値段で売れるよ』と力説するので鱗を一枚はぎ、魔力が残っている彼女に冒険者タグ番号を書いた木札ごと氷漬けにしてもらった。

これで他の魔物に貪られることも、他冒険者が手を出すこともなくなった。

後は一度鉱山都市に戻り、ギルドに依頼してツインドラゴンを運んで貰うだけだ。運ぶ分の代金は発生するが、売った際の金額に比べれば微々たる物らしい。

そして、オレ達はようやくゴムゴ達の元へ結果を告げに戻る。

彼らはオレ達の無事な姿を前にすると、洞窟いっぱいに響く歓声をあげた。

死が目前に迫っている状況から生還できたのだ。

騒ぐのはしかたないが、鼓膜が破けると心配になるほどうるさい。

良いことばかりではない。

手放した荷物を取りに、野営地予定だった広場へ戻ると、角馬はツインドラゴンのエサとして喰われ、運んでいた荷物、私物等は全てぐちゃぐちゃに壊されていた。

あのツインドラゴンが怒りにまかせて暴れた結果だ。

一度、鉱山都市ベスタに引き返すしかないが、命があっただけよかったと思ってもらうしかない。

昨夜からずっと戦い通しだったため、今日はここで野営をすることに。

先に魔力をかなり使ったスノー、シアを休ませる。

「リュートくん、クリスちゃん、ごめんね。先に休ませてもらうね」

「気にするなって、それだけスノーは頑張ったんだから」

『そうですよ。それに私はまだまだ元気だから大丈夫です!』

「ありがとうクリスちゃん! あッ! でも汗だくでムレムレのリュートくんと狭い布団で一緒に寝て匂いを『ふがふが』するのもありなんじゃ……」

「いいから早く寝て魔力を回復させろ!」

「あぅ、痛いよリュートくん」

真剣な表情でアホなことを考え込むスノーの額にチョップを入れる。

スノーは本当にブレないな。

「奥様、寝床の準備が出来ました」

シアが砕かれた馬車の木々を寄せ集め、簡単なねぐらを作った。

2人は体力&魔力回復のため寝床に入る。

残ったオレとクリスは睡魔&疲労と戦いながら、周辺警戒をこなす。

その間にゴムゴ達は、散らばった荷物を集めたり、片付けたりした。

彼らはオレ達の荷物も一緒に集め、使えそうな物の仕分けをしてくれる。

お礼を告げると――

「お礼を言うのは私達の方です。ツインドラゴンから命を救って頂いたのですから」

恐縮され、逆に何度も頭を下げお礼を告げられる。

オレは彼らの好意に甘え、荷物集めを任せる。

お陰でドラゴンによって散らばった『 38スペシャル(9mm) 』『7.62mm×ロシアンショート』『7.62mm×51 NATO弾』の予備弾薬を一箇所に纏めることが出来た。

夕方からはスノー&シアが起きて周辺警戒を交替した。

魔力はだいたい半分程度回復したらしい。

オレとクリスは彼女達と入れ替わりでねぐらに入り込む。

立て木を棒でささえ下には板を敷き、焦げたり破けた幌布を敷き詰めその上に清潔そうなシーツを敷く。広さは殆ど無い。まるでハムスターの寝床だ。

だが、オレとクリスは寝床に潜り込むと、あっという間に眠りに落ちる。

隣で眠る可愛い可愛い奥さんに手を出す気力も無くだ。

スノー&シアと夜番の交替時間になり起こされるまで、オレ達は泥のように眠り続けた。

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翌朝、野営場所の広場を出発。

出発前に氷漬けのツインドラゴンの死体にスノー&シアが、さらに魔術をかけて氷を厚くする。

これで当分は溶ける心配はないそうだ。

行きは2日ほどだったが、戻りは徒歩だったせいで3日ほどかかった。

鉱山都市ベスタに着くと皆、宿屋に雪崩れ込んだ。

オレ達は野営で魔物達に襲われる心配も無く、こんこんと眠り続けた。

翌朝、 冒険者斡旋組合(ギルド) へゴムゴと一緒に向かう。

彼を連れてきたのは、オレ達だけではない証言が欲しかったからだ。

冒険者斡旋組合(ギルド) に報告。

剥ぎ取っていた鱗を見せ、オレ達だけではなく、ゴムゴの証言を聞かせる。

冒険者斡旋組合(ギルド) は疑うことなく、オレ達の証言を信じてくれた。

オレは 冒険者斡旋組合(ギルド) に氷漬けにしたドラゴンの輸送を依頼。

ここまでツインドラゴンの遺体を運んでくれるのに準備期間と往復を含めて約10日前後かかるらしい。

数人の冒険者が先行し、氷り漬けのツインドラゴンを確認&確保。

遅れて大型の輸送用馬車で運ぶらしい。

この大型輸送馬車には魔石が搭載され、荷物の加重を通常より軽くする機能があるとか。

もちろん輸送だけで相応の金額はかかる。

冒険者斡旋組合(ギルド) によれば、話に聞いた状態であれば、ツインドラゴンの死体だけで少なくとも金貨1000枚は下らないらしい。

もの凄い大金だ。

そのため輸送費は後払いで問題無いらしい。

代わりにここの 冒険者斡旋組合(ギルド) では金貨1000枚などある筈ないため、一括での請求をしないで欲しいと頼まれた。

もちろんオレ達は了承する。

こちらも即金で金貨1000枚など渡されても持ち運ぶだけで大変だ。

冒険者斡旋組合(ギルド) はこのまま自分達に報酬金を預けることを勧めてくる。 冒険者斡旋組合(ギルド) に預ければ、他大陸のギルドで資金を下ろすことが出来るなどのメリットがある。

タグと暗証番号を同時に盗まれることさえなければ、他者に下ろされる心配もほぼ無い。高額な引き出しの場合は本人確認もある。

シアにも勧められ、オレ達はギルドに報酬金を預ける手続きもした。

だが、荷物が届いたらすぐに必要金額だけ下ろさせて欲しいと頼む。

必要金額とは――雇い主であるゴムゴの荷物を守りきれなかったため、今回彼の荷物・破損した馬車や角馬の保証金を出したかったからだ。

当事者であるゴムゴが驚きの顔をする。

「普通はドラゴン、しかもツインドラゴンなんて怪物に狙われて生き残っただけでも僥倖なのに! 荷物の保証金まで出してくれるなんて!」

加入している商会組合からいくらかの保険代金が保証されているが、出るまでの期間が長いらしい。だから、オレ達の申し出は本当にありがたいと頭を下げられた。

もちろん組合から保証金が出るため、全額では無く穴埋め分さえ貰えれば問題ないらしい。

冒険者斡旋組合(ギルド) がツインドラゴンの査定金額が出次第、ゴムゴに穴埋め金額代を出す手続きを済ませる。

この金額を下ろす際は、オレ達が立ち会わずともゴムゴ1人で下ろせる手続きになる。

後はオレ達がレンタルしていた馬車&角馬の違約金を払えば、金銭的な問題はほぼ一通り解決だ。

ゴムゴは何度も頭を下げ離席する。

そして次の問題はオレ達の冒険者レベルについてだ。

今回はレベルⅢ昇格のためのクエストだった。結果だけならクエストは失敗。

しかしレベルⅣクラスの双子魔術師捕縛。

レベルⅤクラスのツインドラゴン(幼生体)の討伐――というレベルⅡ、Ⅲの冒険者では考えられない高レベルクエストに短期間で遭遇・巻き込まれ、しかも達成したことになる。

レベルⅣかⅤの冒険者が同行していたら話は早いのだが、それをオレ達のみで倒したせいで、ランクを上げるのか、上げるならⅣorⅤか、それともレベルⅢに留まるのかの判断がすぐにはつかないらしい。

とりあえず保留ということになった。

オレ達はツインドラゴンが鉱山街に届くのを見届ける前に、メイヤが居る街へと戻る決心をしていた。

ツインドラゴンが届くまで準備期間を含めて約10日。査定が終わるまで、どれぐらい時間がかかるか分からない。

それだけの時間を鉱山街で待つより、自宅へ帰って休んだ方が得策だと判断したのだ。

ツインドラゴンの査定額やかかった費用などの支払いは、実家側の 冒険者斡旋組合(ギルド) で行えばいい。

そしてオレ達は3日後、馬車を借りて鉱山街を後にして、約8日ほどかけて自宅のある街へと戻った。

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「リュート様! お帰りなさいませ!」

自宅に戻ると、メイヤが聞きつけすぐに駆けつけてきた。

オレ達は本当に家に帰ったばかりで、荷物を床に置いたばかりだ。

いくらなんでも駆けつけるの早すぎだろ……。

思わず、自分の服に発信器でも着いているのかと探してしまう。

彼女はそんな態度に気付くはずもなく、久しぶりに聞くハイテンションな勢いで話しかけてきた。

「リュート様の一番弟子にして、右腕であるこのメイヤ・ドラグーン! リュート様方のご帰還をずっとお待ちしておりましたわ!」

なんか知らんうちに『一番弟子』の他に『右腕』なんて形容詞も付きだした。ほっておいたらもっと増えるのだろうか?

「ただいま、メイヤ。留守の間、家の面倒を見てくれてありがとう」

「そんな、弟子として当然のことをしているだけですわ! ところで皆様方は夕食を済まされましたか?」

「いや、まだだけど……」

「それなら、折角ですから今日は我が家にお泊まりしませんか? 夕飯の準備は整えてありますし、旅の疲れを落とすためお風呂もすでに沸かしていますのですぐに入れますわ」

『お風呂』という単語に女性陣3人が耳聡く反応する。

旅の間はお湯で濡らしたタオルで体を拭くか、宿で自宅のように手洗にお湯を溜めて体を洗うかしかしていない。

手足を伸ばし、タップリの湯に浸かる魅力には抗えないだろう。

それにメイヤ邸には、ウォッシュトイレが完備されている。

さらに夕飯を今から作るのも面倒だ。

ここはメイヤの好意に甘えておこう。

「それじゃお言葉に甘えて、今日はメイヤの家に泊まらせてもらおうかな」

「ありがとうございます、リュート様! では、外の馬車にお乗り下さい。必要な着替え等はすでに準備してありますので!」

メイヤは喜々として、オレ達を先導し外へ止めている馬車へと手招きする。

勝手知ったるメイヤ邸で、まずは風呂に入る。

頭と体を洗い、旅の垢を落とす。

熱い風呂に肩まで浸かると、自然と声が漏れた。

風呂から上がり、こちらも着慣れたドラゴン・カンフー衣装に袖を通す。

居間で女性陣が上がって来るまで、メイヤと2人 茶々(ちゃちゃ) を飲みながら待つ。

全員が揃ったところで食事を摂った。

「では数日で賞金首の魔術師とツインドラゴンを退治したのですか!?」

メイヤは食事中の話題に今回の顛末を聞き驚きの声をあげる。

「結局、レベルアップクエストは失敗しちゃったけどね」

「ですが、それほどの成果を出したならきっとレベルアップは確実ですわ」

「だといいんだけど」

オレはトロトロの角煮を飲み込み、首をすくめた。

「しかし聞けば聞くほど凄いお話ですわね。まさか魔石をわざと破壊し、体内で爆発させる弾丸を作り出すなんて! 常人には100年経っても辿り着けない発想! さすが魔術道具開発の神、リュート様ですわ!」

『確かにあれには驚きました』

「わたし的にはむしろあの弾丸を小さなドラゴンの瞳に撃ち込んだクリスちゃんに驚いたよ。わたしには絶対に無理だよ」

スノーとクリスでは求められている技能が違う。

比べる意味はない。

「ところでシアさん、リュート様がお作りになったという『wasp knife』をお見せ頂いても宜しいですか?」

「構わないけど、どうしてメイヤ様はそんな鼻息が荒いの?」

シアは困惑しながらも、腰に下げている『wasp knife』を抜き渡す。

炭酸ガス代わりの魔力はまだ補充していないため、スイッチを押してもガスは出ない。

「こ、これがリュート様が手ずからお作りになった新作ナイフ! まさか刺した後、内部を破壊するためのガスを送り込むなんて! 魔王的発想ですわね! つまりリュート様は神と魔王、2つの顔を持つ方なのですわね! ああぁ! 本当にリュート様の才能は止まる所を知らなすぎてわたくしどうにかなってしまいそうですわ!」

「既になってる、なってる。ナイフに頬摺りするの止めろ。血が出てるぞ!」

「わ、わたくしとしたことが!? リュート様の芸術的ナイフを血で汚すなんて!?」

「いや、後悔するところ違うから。女の子なんだからもっと自分を大切にしろ。スノー悪いが魔術で治癒してやってくれ」

「了解~」

メイヤと仲の悪いスノーもさすがに文句も言わず魔術で顔についた傷を治癒する。

オレはその間に彼女からナイフを取り上げた。

メイヤはナイフのギミックをもっと弄りたがりそうだったが無視する。ナイフに付いた血はシアが魔術で綺麗にする。

「まぁ何にせよ。今回はシアがいなかったら危なかった。言葉はあれだがシアを奴隷として買って本当によかったよ」

「だね! わたし達だけじゃ双子魔術師の罠とかに引っかかって人質さんを助け出すことも出来なかったよ」

『野営のやり方や見張り番の過ごし方なんかも色々勉強になりました』

「い、いえボクなんて……」

褒められるのが苦手なのか、シアは息苦しそうに言葉を濁す。

……いや、どちらかと言うと自分がやった訳ではないのに表彰を受けるような居たたまれない顔をしている気がする。

なぜかふと、ツインドラゴンに特攻する――と言った後、彼女が呟いた言葉を思い出す。

『それにボクのことは気にしないで下さい。最後に1つだけお願いを聞いてくれれば――』

そんなことを思い出していると、シアが声をあげる。

「――ッ、皆様! 大変申し訳ありません!」

「え、シア!?」

彼女は突然、椅子から立ち上がり床に片膝を付く。

マンガやアニメ、映画などによくある騎士が膝を付く恰好だ。

オレだけでなく、スノーやクリス、メイヤも突発的なシアの行動に目を丸くしていた。

彼女はオレ達の反応を気にせず、捲し立てる。

「ボクはずっと皆様に嘘をついておりました! ボクには『神託』なる能力はありません。ボクはある方の指示に従い皆様方の奴隷になったのです! その上で……ボクの命を賭けて、お願いします!」

さらにシアは深く頭を下げ、声を張り上げた。

「どうか! どうか! ハイエルフ王国をお助けください!」

彼女の切羽詰まった必死の声音が部屋中に響き渡った。