軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第63話 鉱山都市ベスタ、観光

「……ふがぁ」

間抜けな声をあげ、オレは目を覚ました。

閉じた鎧戸から微かに漏れる光から、太陽が昇ったことを知る。

その微かな光に浮かび、スノーとクリスがオレの腕を枕代わりに眠る姿を視認することが出来た。

右腕にスノー。

ポニーテールを解いているせいか、いつもの雰囲気とは印象が違う。活動的な感じから、落ち着いた女性のものに変わる。どちらのスノーもオレは魅力的だと思う。

左腕にクリス。

彼女は腕枕というより、ほぼ胸に頭を乗せて眠っている。オレが抱き枕になっている状態だ。寝顔はいつもより幼く、安心しきっている表情が可愛らしい。

2人を起こさないようにそっと腕を抜こうとしたが――

「りゅーとくん?」

「おにぃ、ちゃん」

「……おはよう、2人とも」

さすがに無理でした。

元々、2人とも眠っていたというより微睡んでいたに近かったらしい。だから、振動に気付き目を覚ましたようだ。

折角なのでオレ達は体を起こし、ベッドから抜け出す。

窓と鎧戸を開くと、太陽は天辺まで昇り、街は活気づいていた。

「こりゃ確実に昼過ぎてるな」

「しかたないよ。久しぶりに夜番とか気にせずちゃんと寝られたんだから」

『スノーお姉ちゃんの言う通りです』

だが出発は明後日。

それまでに王都までの5日間、必要な食料、消耗品を買い馬車に積まなければならない。さすがにこのままダラダラと部屋で過ごす訳にはいかない。

「とりあえずシアと合流して、遅めの朝食兼昼飯でも食べて明日の準備のため買い物でもするか」

この提案に嫁の2人は賛成の声をあげた。

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隣に部屋を取っているシアと合流する。

彼女に明後日まで、必要な物資を買い出しに行こうと言うと――

「それぐらいボクがやりますから。若様、奥様方はどうぞのんびりしててください」

「でも、さすがに全部シアに任せるのは……」

「何言ってるんですか。ボクは若様の奴隷、そんな事言われたらボクの立場が無いですよ」

社長が社員の仕事を一緒にやるようなもんか?

もしそうだとしたら確かに社員の立場はないな。

オレはシアの申し出を受け入れ、彼女に金貨を預ける。念のため多めに持たせておいた。

ついでに適当に自分の好きな物を買ってもいいと告げておく。

シアは遠慮気味に首を振ったが、懐は双子魔術師の賞金のお陰で温かい。

だから気にするな、と言い含めた。

こうして暇になったオレ達は、宿の1階酒場兼食堂で食事を摂りながら今日の方針を決める。

部屋に篭もるのも勿体ないため、今日はこの鉱山都市を観光することに決まった。

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スノー、クリスと腕を組み鉱山都市を見て回る。

鉱山都市のためか若く、筋骨隆々な男達が多い。

可愛い女の子2人に腕を組まれているオレを目にすると、あからさまな殺意をぶつけてくる。

気持ちは分かる。

もしオレがそちら側だったら同じように『リア充爆発しろ!』と念じていただろう。

「ねぇねぇクリスちゃん、このペンダント可愛くない?」

『はい、とっても可愛らしいです。こっちの指輪も』

鉱山都市には通常の店もあるが、路上で布を敷いて販売する露天系の店も多い。

都市色か貴金属のアクセサリー、刀剣類、金属製の置物などが多数置かれている。どうやら若手職人が技術向上の修行&小遣い稼ぎで出展しているらしい。

前世でいう所のフリーマーケットに近い。

オレ達が足を止めた貴金属露天は、前世のシルバーアクセサリーのように店番も務める若者が自作した商品が並べていた。

製作者の竜人種族の若者が営業スマイルで進めてくる。

「遠慮なくどうぞお手にとってください。無理矢理買わせるようなマネは絶対しないので」

進められてスノー&クリスは、オレの腕を手離し本格的に見入る。

オレはその間、かかしのように立ち彼女達が飽きるまで待ち続ける。これも夫としての甲斐性の1つだ。

ぼんやり待っていると、すぐ側を商人らしき人物2人組が通り過ぎる。

会話が聞こえてしまう。

「おい、最近街周辺の様子がおかしいと思わないか?」

「思う思う。とくに最近は小さな魔物どころか、 大鬼(オーガ) の姿すらなくなってるな。うちじゃ『何か異変の前触れか?』なんて話しているところだよ」

「何もなきゃいいんだが……」

商人達は心配そうな顔と声で、雑踏へと消えた。

(そんなに心配しなくても 大鬼(オーガ) を従えていた双子魔術師はもういないんだけどね)

あの双子魔術師が 大鬼(オーガ) を集め組織化したせいで、他の魔物達が逃げ出し森から姿を消した。

彼らはオレ達が捕縛してしまったから、そのうち元通りの森へと戻るだろう。

そんなことを考えていると、スノーが銀の鎖で作られたシンプルなペンダントを手に取る。

彼女は首に重ね見せてくる。

「どうかなリュートくん?」

「とっても似合うよ。スノーの髪の色ともあって」

「えへへ、ありがとう」

裾をひっぱられ振り返る。

クリスは耳に金色のイヤリングを重ねていた。

イヤリングは宝石、魔石などはあしらっていないが、細工が細かい綺麗なタイプだ。

『私はどうですか?』

「クリスもとっても似合ってるよ」

『ありがとうございます』

クリスも褒められてテレテレと恥ずかしがる。

スノーは銀色シンプル、クリスは金色綺麗系が好みらしい。

心の中でメモに書き込む。

「本当にお2人ともお似合いですよ。お2人につけて頂けるならきっとアクセサリー達も幸せだろうなぁ」

若者はちらちらとオレを見てくる。

「いや、本当にお2人に付けて頂いたら制作者としてこれ以上の幸せはないなぁ」

チラチラとさらに見てくる。

分かった、分かってるよ。

ここは甲斐性の見せ所だ。

「これもらうよ、2つでいくら?」

「毎度! 1つ本当なら銀貨1枚、大銅貨2枚のところですが、お2つで銀貨2枚で結構ですよ」

約2万というところか。

彼女達の好みを把握出来た手間賃と思えば安い買い物だ。

オレは若者に銀貨2枚を出す。

2人の首と耳に、それぞれオレが付けてあげると、彼女達は幸せそうに微笑む。

「ありがとうリュートくん、大切にするね」

『ありがとうございます、お兄ちゃん。私もずっと大切にします』

彼女達の笑顔は、プライスレスだ。

そしてオレ達は再び、街を歩き回った。

食料市場的な場所に立ち寄ったので、休憩がてらオヤツを食べる。

この街では屈強な男達が多いわりに、意外と甘味系が揃っている。

その中で代表的な甘味、 蒸(ふ) かし饅を食べた。

砂糖で甘く煮た豆を混ぜた生地を蒸したおやつだ。前世で言うところの蒸しパン、蒸しケーキ的な物に近い。

「初めて食べたよ、こんなの。甘いお豆って美味しいね」

「スノーは甘い豆とか大丈夫なのか?」

「別に平気だよ」

言葉通り平気らしく、ぱくぱくと美味しそうに蒸かし饅を食べる。

前世の世界、海外では『甘い豆』という概念が無く、苦手な人がいると聞いたことがある。だから、日本のあんこが受け付けないらしい。

「クリスはどう、美味し――クリス?」

オレは途中で台詞を区切り、思わずクリスを見つめてしまう。

彼女はまるで危険物を扱う研究者のように真剣な表情で蒸かし饅を食べていた。

『確かに豆の甘さが、生地の味気なさを補っています。ですが、ただ豆に砂糖を入れて甘くするだけではなく、塩などを入れて甘さを引き立たせるなどしたほうがより美味しくなると思います。10点満点で、5.24点というところです』

「お、おう」

数値細か!

さすが魔人種族。

『小麦はパンではなく、ケーキを作るためにある』と豪語するほどの甘味好きの種族だけある。

しかも彼女はマルコームさんという専属料理人を抱えて、甘味を食べてきた。

そのせいで甘い物、お菓子に対して真剣なのだろう。

『甘味は遊びじゃありません』と目が語っている。

オレはよくこの主にお菓子で取り入ることが出来たな……。

蒸かし饅を食べ終えると、帰路につく。

そろそろ日が暮れてきたからだ。

夕食は昼間と同じ、宿の1階で摂る予定。

昼ご飯が美味しかったからまず問題ないだろう。

「あっ、悪い。明日必要な物を1つシアに頼み忘れてた。明日でもいいんだけど、ちょっと行って買って来るから2人は先に戻ってくれないか?」

『だったら、一緒に買いに行きましょう』

「いや、本当に大した物じゃないから。1人で大丈夫。だから2人は先に戻ってて」

「リュートくんが、そこまで言うなら」

2人は首を捻りながらも、オレの強引な後押しに宿へと戻る。

もう少し上手く誤魔化せればよかったが、オレに話術力などないからな。

2人の背を見送り、オレは昼間の観光中に当たりをつけていた貴金属店へと向かう。

目的は2人に贈る結婚 腕輪(ブレスレット) だ。

現在、2人が付けている結婚 腕輪(ブレスレット) は、オレが魔術液体金属で作った簡素な物だ。しかしさすがにそれを結婚 腕輪(ブレスレット) とするのは、オレ自身が納得出来ない。

もちろん2人は満足しているが……。

だからこれは完全にオレの我が儘だ。

いつか買おうとこっそり1人で 冒険者斡旋組合(ギルド) でクエストを受け、貯めてきた。

合計金貨6枚――日本円で約60万だ。

つまりウォッシュトイレが2台作れる計算だ。

1つ金貨3枚の品なら見栄えも問題はないだろう。

見た目はコンビニ程度の広さしかない店だが、他の店舗より小綺麗にしているのが印象的だった。

扉を潜ると真っ白な白髪な竜人種族の男性、老店員が応対してくれる。

「いらっしゃいませ。本日はどんなご用件でしょうかな?」

「2人の妻に結婚 腕輪(ブレスレット) を送りたくて。いくつか見せて貰えませんか?」

「妻、2人ですかな? それはまた豪毅な」

老店員は『2人の妻』と聞いて楽しげに笑う。

人が良さそうでよかった。

オレは老店員に資金と2人の好みを告げ、いくつか見せてもらう。

スノーの好みは銀色で、シンプルなデザイン。

クリスの好みは金色で、綺麗系なデザイン。

いくつか見せてもらった中で気に入ったのがあった。

スノーのは銀の腕輪で、青白い魔石と宝石が散りばめられたシンプルな物だ。

クリスは金色の細い鎖で編み上げ、赤い魔石と宝石を散りばめた綺麗なデザイン。

それぞれ魔石にはすでに1回分の魔術が込められているらしい。

危険な世界のため、魔石付きの結婚 腕輪(ブレスレット) は実用性込みで喜ばれると老店員から勧められた。

確かに実用的だし、デザインも彼女達が好みそうだ。

しかも結婚 腕輪(ブレスレット) 用ということで、同デザインの男性用 腕輪(ブレスレット) が一緒について値段は1つ金貨3枚と予算内。

男性用はあくまで付属品程度の扱いのため、魔石&宝石は無し。飾り気の無い結婚 腕輪(ブレスレット) になっている。

だが、これなら2人も気に入ってくれるだろう。

「これをください」

「ありがとうございます。箱代はオマケにしておきますかな」

老店員の好意に甘えて、箱代をオマケしてもらう。

オレは貯めた金貨6枚を店員に渡す。

約数分ほどで、桐箱のような物に入った結婚 腕輪(ブレスレット) を渡される。

オレは2人に見付からないようポケットへと厳重にしまった。

「今度は奥様方をお連れして来てくださいな」

「はい、是非、今度は2人を連れて来ます」

オレは改めてお礼を告げ、店を後にする。

時間にして約1時間ぐらいかかってしまった。これ以上は心配されてしまう。

オレは足早に夕闇迫った路地を急ぎ、宿へと戻った。

歩きながら結婚 腕輪(ブレスレット) が入ったポケットを軽く叩く。

「2人に渡すのはこのクエストが終わった後かな。いや、折角だし自宅に帰ってサプライズパーティー的なことをして渡した方がいいかも?」

スノーとクリスの驚き喜ぶ顔を思い浮かべ、オレ自身口元がにやけるのが抑えられなかった。

順調で平和な一日。

だがこの時オレは、自分達がこの後窮地に陥るとは夢にも思わなかった。