軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第53話 ウォッシュトイレ

オレとスノーとクリスで一軒家を借り、住むことになった。

鍵を受け取るまで点検や補修、手続きがあり約1週間ほどかかる。

その間、色々と忙しいオレ達はクエストをしないことに決めた。

時間が限られた中無理にクエストをやると、新しい生活に浮き足立ちミスをしそうだから引っ越して落ち着くまで危険なことはしないと決めたのだ。

それに引っ越しの準備もある。

スノー&クリスは引っ越し先に置くための家具や小物選び、引っ越した時の新生活パーティーの準備などで忙しそうだった。

クリスは実家から持ってきた本類を持って行くつもりのようだ。特に大切にしている初めて買ってもらった本、勇者と魔人種族の絵本を大事に梱包している。

招待客はメイヤ1人だけだ。

この竜人大陸にはまだ知り合いが少ない。

一応、 冒険者斡旋組合(ギルド) の受付嬢のお姉さんを誘ったのだが、

「幸せのおすそわけって奴ですね。ぁあぁぁああぁッ! あたしも結婚したいなぁぁぁぁッ!」

雄叫びをあげられた。

謝罪を口にしてオレ達はそそくさと 冒険者斡旋組合(ギルド) を後にする。

そしてオレもメイヤとの研究・開発を中止して、新生活のためある生活用品作りに没頭していた。

この世界で初めて、自分の住居を構える。

そのためどうしても作りたい物があったのだ。

その作りたい物とは……温水洗浄便座―― ウォッシュ(温水シャワー) トイレだ。

汚い話だが、この世界は汲み取り式がメイン。トイレットペーパーも大きな葉っぱが束で売られている。

肌触りなどマジファックな品物だ。

メイヤ邸でも、ブラッド家でも、孤児院でも汲み取り式……それがどうしても我慢出来なかった。

トイレで大を終え、葉っぱでお尻を拭く度、SAN値がごりごり減っていくのを感じる。

前世でオレの自宅トイレはウォッシュトイレだった。

実家がそうだっため、引っ越した当日に取り付け業者に頼んで設置してもらったほどだ。

あの使い心地、清潔感! 知ってしまったらもう二度と戻れない禁断の果実!

だから作る!

温水洗浄便座完備のトイレを!

トイレ本体はすでに発注している。

陶器製の白い奴をだ。

前世でもトイレは陶器製がメイン。

他の素材ではアレが上手く流れないと、何かの本で読んだ気がする。

次はウォッシュトイレの仕組みだ。

前世のタイではホースで直接お尻を洗うらしい。

だがオレはやはり日本式ウォッシュトイレに拘りたい。

ノズルは手回し式で位置を自分の好きな場所に移動できるようにする。

仕組み自体はそう難しくない。

材料は魔術液体金属を使用する。

問題はどうやって水を温めて、ノズルから噴射するかだ。

前世のウォッシュトイレの場合は――水を温める方式は2種類存在する。

温度を常に一定温保っておく『貯湯式』。

使う分の水を瞬間的に加熱する『瞬間加熱式』。

また水を噴出する方法は単純で、モーターでピストンを動かし筒から水を押し出している。

電気やモーターなどなく魔法の無い世界だったら、ウォッシュトイレ製作など夢の又夢だっただろう。しかしここには魔術があり、魔石がある!

この2つの問題は魔石で攻略しよう。

水を操る魔石と炎の魔石があれば問題解決はそう難しくないはずだ。

オレは早速、街にある魔石店へと足を向ける。

店内に入ると、魔石が宝石店のようにショーケースに飾られていた。

店を切り盛りする中年男性がめざとくオレを見付けると話しかけてくる。

「当店へようこそリュート様」

「どうもこんにちは――って、どうして僕の名前を知ってるんですか!?」

「魔石姫であるメイヤ様の先生ですから。この街で魔石店を営む我々にとって彼女の動向を知っておくのは常識のようなものです」

小柄な男性店員が好意的な笑みを浮かべる。

流石メイヤ、有名人だけあってその影響力は半端ないんだろうな。

(だが都合が良い。これなら下手な物を買わされたり、値段で騙されたりはしないだろう)

もしそんなことをしてメイヤに目を付けられ、この竜人大陸で居場所を失う。

リスクが高すぎる。

オレは早速、小柄な人の良さそうな男性店員に相談し、適した魔石を見せて貰うことにした。

「水の魔石と炎の魔石を探してるんですが」

「なるほど水の魔石を鎧に、炎の魔石は剣などに装備するのですね」

「いえ、違います。水の魔石で水を操りお尻を洗うんです。炎の魔石は、その水を温める為に使います」

「は?」

「いや、だからトイレをし終わった後、水と炎の魔石を使ってお尻を洗うための装置を作りたいんです。それに適した魔石はどれになりますかね?」

「……馬鹿にしてるんですか?」

男性店員の顔色が変わる。

先程までの友好的な微笑みから、一転敵意を露わにした険しいものに変わった。

「そりゃ、メイヤ様の先生なら凄い方かもしれません。私など指先1つ動かさず闇に消し去ることだって出来るでしょう。ですが、言わせて頂きたい。私はこの魔石商という商売に誇りを持っているんです! なのにお尻に水を当てる!? 馬鹿にするのもいい加減にしてください! 出てってくれ! アンタに売る魔石はない!」

「ま、待ってください! 本当に水でお尻を洗うのは気持ちいいんです! 温水だったらなおさらです! 世界が変わるほどの革命なんです! 自分を信じてください!」

「ええい! 出てってくれ! 貴方に売る魔石はないと言ってるじゃないか!」

「本当なんです! お尻が! お尻が気持ちよくなるんです!」

だが男性店員はオレの訴えを聞かず、店から追い出されてしまう。

最後に見た彼の瞳は真剣に怒っているものだった。

しかし彼は何も悪くない。

トイレ後、温水でお尻を洗う――ウォッシュトイレの思想自体がこの世界ではまだ前衛的過ぎて理解できないのだ。

もし体験したらきっとその素晴らしさに涙を流し喜ぶに決まっている!

オレはウォッシュトイレを絶対に完成させようと心に固く誓った。

そして彼に使って貰いその素晴らしさを実感してもらおう!

オレは別の魔石店へ行くと、用途を秘密にして1つ金貨1枚する炎&水の魔石を買った。

魔石を持ってメイヤ邸へ。

魔石のプロであるメイヤの力を借りてウォッシュトイレ制作に取りかかる。

メイヤなら大丈夫だと思うが、1店目の男性店員のように激昂する可能性があるため用途は濁し、筒から温水が出る仕組みを作りたいとだけ伝えた。

メイヤは魔石に関して頼ってくれたのが嬉しかったのか、喜々として協力してくれる。

「では水を溜めているタンクの回りに、筒へ向けて流れるように魔術文字を描きますわね」

「その水を炎の魔石で温めて、温水にしたいんだ。筒部分に温める魔術文字を描くことはできるか?」

「もちろんですわ! これほどの大きさの魔石なら水を熱湯に変えるのもすぐですわ」

「いや、熱湯にしなくてもいいんだ。お風呂のお湯ぐらいにしてもらえれば」

「そうですか……なら安全性を考えて制限をかけておく必要がありますわね」

「そんなことも出来るのか?」

「はい、もちろんですわ」

「よし、それじゃ制限もかけておいてくれ」

メイヤはオレの指示に従い作業を開始する。

数日掛け、メイヤと2人でウォッシュトイレ製作に没頭した。

筒は手動のハンドルで出し入れして、位置を調整できるようにする。

水流の操作はタンクの外側に魔術文字を描き込むことで可能とした。

流れる水を温水にするため外に出ない筒部分に、熱するための魔術文字を描き込んだ。

前世のウォッシュトイレで言うなら、使う分の水を瞬間的に加熱する『瞬間加熱式』を採用したことになる。

水、炎の魔石ともハンドルと一緒に壁側に設置。

2つの並ぶ魔石に手を触れながら、起動呪文を告げると水が流れ、熱で温められた温水が飛び出る。

温水にしたくない場合は、水の魔石のみ触れて呪文を唱えればいい。

魔石に込めた魔力が切れた場合、取り替えるか再度魔力を充填すれば再利用出来る。

かなりエコな仕上がりだ。

今回、オレ&メイヤ制作の異世界式ウォッシュトイレにかかった費用は……魔石×2個、ノズル、洋式便器本体、他必要なギミック素材――合計約金貨3枚(約30万円)ほどかかった。

今回借りた一軒家の家賃が月々銀貨5枚。

家賃6ヶ月分だ。

前世のウォッシュトイレで一体型のものであれば、高いものだと定価30万円台のものもある。

異世界で作ったのだから、高すぎるほどでは無いと思う。

今回かかった費用とその使用目的を嫁2人に伝えると……

「リュートくんはハンドガンの時もそうだけど、変な方向に情熱を傾けるよね」

『お兄ちゃん、あんまり無駄遣いしちゃ駄目ですよ?』

なんかちょっと痛い子扱いされてしまった。

大丈夫、彼女達もウォッシュトイレを体験すれば、その素晴らしさにきっと気付いてくれる筈だ!

ウォッシュトイレこそ禁断の果実!

一度味わってしまったらもう二度と抜け出せなくなる魔性の道具!

その素晴らしさに抗える人種など異世界の壁を乗り越えても存在しないと断言しよう!

身を以てガラパゴス・ジャパンが生み出した最終兵器の恐ろしさを味わうがいい。

オレは彼女達がウォッシュトイレの虜になって、身悶える姿を想像し1人静かに微笑んだ。

こうして新たに借りた一軒家にリュート式ウォッシュトイレが完備されることになった。

以下、番外編。ウォッシュトイレを使用した時の反応。

スノーの場合。

使用中――『!? ふぎゃぁ! な、なにこれぇ! ふにゃぁ!?』

使用後――『これしゅごいよぉ~。気持ち良すぎてわたし、腰抜けちゃったよ』

クリスの場合。

使用中――『!? ッゥ、んんぅ! ンッ……っ』

使用後――『こ、これは魔王の叡智で作られた拷問器具です! に、二度と使いませんから!』

メイヤの場合。

使用中――『り、リュート様ぁぁ! りゅ、リュート様ぁ!! リュート様あぁっぁっぁ!!!』

使用後――『うふふふ、さすが希代の大天才リュート様。トイレをここまで進化させるとは……ッ』

魔石店のオジさんの場合。

使用中――『ウホ! うほほほほ、ほぉー!』

使用後――『世界が開いた……ッ』

クリスには涙目で怒られた。

どうやら彼女には不評のようだった。

それ以外の人達には好評だったが。