軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第49話 決断

会合が終わった日の夜。

カレンのサプライズパーティーで使われたブラッド伯爵家の大広間で、立食形式の祝賀会が開かれていた。

ギギさんはさすがに参加していない。

今回迷惑をかけた関係者達に謝罪を済ませた後、旦那様を捜し出すためすぐに旅立つつもりらしい。

メインの出席者はオレ、スノー、クリスお嬢様、奥様、メイヤ。

そして会合の責任者も務めたお嬢様の親友、ケンタウロス族のカレン。そして同じくお嬢様の親友、3つ眼族のバーニー、ラミア族のミューアだ。

執事のメリーさんやメイド長のメルセさん、他使用人達も乾杯の合図と共に歓声をあげる。

今夜はブラッド伯爵家の勝利を祝い無礼講。

交代制でメイド達も料理を運び、飲み物を入れて回ったり雑務をこなす側と参加する側に分かれる。

オレは執事見習いだが、今回の功績により仕事は免除されている。

だが、他の使用人達が交替で働いているのに、免除されているためやや後ろ暗く壁の隅に陣取っていた。

しかしやはり目立つのか、入れ替わりで人に捕まる。

最初は執事長のメリーさん。

「まったく奥様のギギに対する罰は軽すぎる。本来なら反逆者は即刻処刑が妥当なのに。リュートもそう思いますメェー?」

「まぁそうですが、奥様がお決めになったことですから」

「もちろんです。ギギのお陰で旦那様が魔物大陸に奴隷として売られたという情報も手に入りました。その分の温情があってもいいとは思いますがそれにしてもメェー」

口からは文句しか出てこないが、声音に安堵の色が隠せないでいた。

なんだかんだ言って、メリーさんとギギさんの付き合いは長い。

「なので奥様に代わり、明日からギギには私直々に心構えを一から教えるつもりメェー」

メリーさんはお説教を始めたら長いタイプだ。

オレは胸中でギギさんに合掌する。

話をしているとスノーが顔を出す。

メリーさんは気を利かせて、解放してくれた。

「色々お疲れ。スノーが居てくれなかったら、きっとここまで上手くはいかなかったよ。ありがとう」

「ううん、わたしもリュートくんの手助けが出来て嬉しかったよ」

「そう言ってくれると助かるよ。それでスノーはこれからどうするんだ? 妖人大陸の魔術師学校に戻るのか?」

「前にも話したでしょ。魔術師Aマイナス級になって特待生になったから、一度も学校に通わなくても卒業出来るんだよ。だからもうずっとリュートくんの側に居られるんだよ」

そうだった。

スノーはオレに早く会いたい一心で魔術師Aマイナス級になったんだ。

色々な意味でオレがスノーの凄さを噛みしめていると、お嬢様がプリン片手に寄ってきた。

スノーはお嬢様が食べているプリンに興味を惹かれて、2人仲良くテーブルへと向かう。

今度は入れ替わりにメイヤが顔を出す。

「メイヤもありがとうな。メイヤが力を貸してくれなかったら、絶対に奥様やブラッド家を助け出すことは出来なかったよ。本当にありがとう」

「リュート様! お顔を上げてください! 第一、わたくしはリュート様の一番弟子! 弟子として当然のことをしたまでですわ!」

メイヤがいつもの調子で返事をする。

今度は彼女から、先程スノーにした質問を尋ねられた。

「リュート様はこの後、どうされるおつもりですか?」

「どうもこうも、オレはブラッド家の執事見習いで、お嬢様の血袋だからな。屋敷に留まるよ。それにまだ奴隷だし」

「でしたらわたくしもこちらに滞在しますわ!」

「えぇえぇぇ!?」

「一番弟子としてリュート様のお側にいるのは当然ですわ!」

いや、でも勝手に住むって……そんな勝手に決めていいわけないだろう。

後、オレの一番弟子を強調しすぎだ。

オレ達の会話にちょうど通りかかった奥様が参戦する。

「メイヤさんはブラッド家をお救い頂いた恩人。いつまでも滞在してくださって構いませんわよ。それとリュート」

「はい、奥様」

「貴方も今回の報酬として奴隷から解放しますわ。これで貴方は自由よ」

「お、奥様!? で、でも旦那様も魔物大陸へ連れて行かれて大変な時に……!」

奥様はオレを安心させるように頭を撫でてきた。

「大丈夫よ。主人は簡単に亡くなる人じゃないわ。それはずっと模擬戦闘をしていたリュートが一番分かってるはずよ」

確かに旦那様ならドラゴン数匹に囲まれても笑いながら倒しそうだ。

「それにリュートが探すより、わたくしの方がその筋には詳しいのよ。もちろんギギもこの後、夫を捜すための旅に出ますし」

蛇の道は蛇――というやつか。

奥様は『だから』と言葉を繋げる。

「奴隷を抜けた後、ここで執事を続けるのも、自分の夢を追って『人を助けるための 軍団(レギオン) 』を起ち上げても構わないわよ」

「奥様……オレの夢をどうして」

「ふふふ、スノーさんから聞いたの。とっても素敵な夢だとわたくしは思うわ。それでどうするつもりかしら?」

「……少し考えさせてください」

「ええ、構わないわよ。それじゃ今度はメイヤさんのお話でも聞こうかしら。リュート、奴隷からの解放手続きは明日行いますからね」

「えっ、ちょ! わたくしは一番弟子としてリュート様へご奉仕をしなければいけないのですわ!」

メイヤは奥様に腕を掴まれずるずると引き摺られていく。

オレが1人で静かに進路を考えられるよう気を利かせてくれたのだろう。

お陰で静かに自問自答できた。

(オレはどうして奴隷から解放されて、すぐ自分の夢を――『困っている人や、救助を求める人を助ける 軍団(レギオン) 』を選択しなかったのか……)

理由は明白だ。

クリスお嬢様が心配なのだ。

自信を取り戻したが、まだ寂しがり屋で弱いところがある。だから、オレが側にいてやらないといけないと思う。

だが、いつか彼女もブラッド伯爵家の当主として他の男を婿に取るんだ。それまでずっと守るのか?

それは現実的ではない。オレにはやりたいことがある。それまでこの家にいるわけにはいかない。けれど――

グルグルと黒い渦のような問答が胸中で吹き荒れた。

そんな考えに没頭していると、お嬢様の親友3人が登場する。

「ここにいたのか。主役が壁際に居てどうする」とケンタウロス族のカレン・ビショップ。

「今回はわたしだけ、なんの役に立てなくてごめんね」と3つ眼族のバーニー・ブルームフィールド。

「それを言ったら、私なんてただメリーさん達と連絡を取り合っただけよ」とラミア族のミューア・ヘッド。

「いえ、皆様には今回の件だけではなく多岐に渡ってお世話になりましたから、感謝の念しかありません。本当にありがとうございました」

オレのお礼にラミア族のミューアが微苦笑する。

「そういってもらえるとありがたいけど……。ところでリュートさんは奴隷から解放されたけど、これからどうするつもりかしら?」

「……お聞きになっていたのですか」

「ご、ごめんなさい。聞くつもりはなかったんだけど」

3つ眼族のバーニーが申し訳なさそうにわたわたする。

オレは微笑み、問題無いことを告げた。

「大丈夫です。聞かれてマズイ話ではありませんから」

「聞かれてマズイ話ではないと言っても……リュートが執事を辞めるかもしれない。その事をクリスは知っているのか?」

「……いえ」

ケンタウロス族のカレンの指摘に、声が重くなる。

「ちょっとカレン」

「……分かってるミューア。すまないリュート、意地の悪い質問だった。自分達は責めに来たのではなく、伝言を預かったから伝えに来たのだ」

「伝言?」

「ああ、クリスからだ。自室に居るから来て欲しい、らしい」

言われて思わず室内に視線を向ける。

確かにお嬢様の姿は無い。

先程、スノーと楽しげにプリンやミル・クレープを食べていた筈だが、いつのまに。

「ありがとうございます。では、自分はお嬢様に会いに行きますので、ここで失礼致します」

3人に頭を下げ、大広間を出る。

途中、メイド長のメルセさんとすれ違い、お嬢様に呼ばれて自室へ行くことを告げた。

彼女は微笑みを浮かべて、

「頑張って、リュート」と言葉を残す。

何を頑張れと言うんだ?

そしてオレはもう歩き慣れた廊下を進み、お嬢様の自室扉前へと辿り着く。

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ノックをしてから、扉に手を掛ける。

約数ヶ月ぶり、懐かしのお嬢様の自室だ。

奥様を救出する時、寄っている暇などなかったからな。

部屋は薄暗い。

明かりは窓から差す星明かりのみ。

「お嬢様、リュートです。カレン様の伝言により伺いました」

初めて出逢った日のように、お嬢様はベッドの上で毛布を被って丸まっていた。

彼女はミニ黒板から赤い顔を覗かせている。

「お嬢様?」

『ここに座ってください』

ミニ黒板を手に自分の隣を叩く。

言われるがままベッドに腰掛ける。

お嬢様は隣にぺたっと座り、オレの顔を見上げてくる。

瞳は今にも泣き出しそうなほど潤んでいた。

「……ッ!」

気付けば、お嬢様に押し倒される。

彼女の小さな唇が、自身のと重なる。

勢いがつきすぎて歯と歯がぶつかる幼いキス。

そっと、唇が離れる。

お嬢様はのぼせたように顔を赤くしていた。

「お、お嬢様!?」

「……です」

「!?」

耳にした初めての声。

キスの衝撃を上回る。

お嬢様はオレを真っ直ぐ見詰めながら告白してきた。

「リュ、リュート……お兄ちゃんが、好き、です」

初めて聞くお嬢様の声。

彼女は必死に絞り出すように、懸命に気持ちを伝えようとする。

「大好きで……す。クリス、を……お嫁さんに、し……てくださ、い」

長年声を出していなかったせいでつっかえつっかえだが、気持ちは熱いほど伝わってくる。

彼女はそのまま途切れ途切れの声で続ける。

オレの夢――『助けを求めている人を救いたい』、それをスノーに聞いたこと。そしてオレがいつか出て行く事を予感し、別れたくない、オレの側にずっといたいと思っている自分に気づいたこと。

ずっとオレの隣にいて、自分がオレに救われたように、自分がしてもらったように誰かを助けたいと思ったこと。

オレのことを好きだ、離れたくない、どこまでも一緒に行きたい、と思っていること。

つっかえながらも一生懸命に伝えてくるクリスお嬢様。

いじらしい彼女が愛おしい。

胸がじんわりと熱くなる。

しかし自分にはスノーがいる――

もしも出会う順番が違っていたら、答えはどうなっていただろうか。

オレはお嬢様の肩に手を置き、体を起こす。

再び腰を下ろした体勢に戻る。

「お嬢様のお気持ちはとても嬉しいです。ですが……自分にはスノーという婚約者がいます。彼女を裏切ることはできません」

「リュ、トお兄ちゃ、んが、好きで……す。愛して、ます。ライフル……もっとがんば、ります。お願い、すて、ない……で」

「ッ……!」

反則だ。

オレにお嬢様を見捨てることなど出来る筈がない。

彼女のお陰でオレはブラッド家に拾われることができた。

下手をしたら男娼として売られたり、鉱山で働かされ死んでいたかもしれない。

それにまた彼女がふさぎ込み、部屋に篭もるかもしれない。あの太陽光も入れない暗い部屋。また長い時間1人で佇むお嬢様。

その光景が脳裏を過ぎっただけで、オレの心臓はミキサーにかけられたようにズタズタになる。

さらに他の男が彼女の肢体に手を這わす想像をしただけで強烈な吐き気を催した。

彼女を守りたい。

彼女を自分のものにしたい。

クリス・ゲート・ブラッドが愛おしい……ッ!

それでも! それでも――!

スノーは裏切れない!

「お嬢様のことはオレも好きです。愛してます。けれど……スノーのことも愛しているんです。オレには……彼女を裏切ることはできません」

「ッ……」

お嬢様は肩を落としふさぎ込む。

のろのろとミニ黒板に手を伸ばす。

『やはりスノーお姉ちゃんには勝てませんでした』

「……すみません。でも、多分出会っていた順番が逆だったら結果は違ったと思います」

『分かりました……なら、クリスも第2夫人として頑張って、お兄ちゃんを支えていきたいと思います』

「そうですね。第2夫人として頑張って……はぁ?」

『スノーお姉ちゃんと約束したんです。もしクリスが第1夫人になれなかったら、第2夫人としてお兄ちゃんと結婚する、と』

「はぁ!? いつですか?」

『メイヤさんのお家で夜会をした時です』

メイヤ、夜、夜会……あの時か!?

翌日、お嬢様は恥ずかしそうにスノーの影に隠れたのは、オレの恥ずかしい過去話を聞いた訳じゃなかったのか!?

思い出していると、ちょうどいいタイミングでスノーが部屋に入ってくる。

「クリスちゃん、お話終わった?」

『はい、やはりスノーお姉ちゃんには勝てませんでした。ですが、第2夫人としてこれからはお兄ちゃんを支えていきたいと思います』

「えへへへ、信じてたよリュートくん。やっぱり生まれたときから一緒の幼なじみの絆は強いね。でも、クリスちゃん心配しなくても大丈夫だよ。きっとリュートくんなら第1夫人とか、第2夫人とか関係なく平等に愛してくれるから」

『はい! 私も頑張ってスノーお姉ちゃんと一緒に、お兄ちゃんを支えていきます!』

「うん! これから2人で頑張ろうね」

2人はあっさり重婚を容認する。

確かにこの世界、時代では一夫多妻制などなんら珍しくない。

文化が違う……。

「い、いや! ちょっと待ってください! お嬢様はもうブラッド家の当主! 嫁に行くなんて出来るんですか?」

『大丈夫ですよ。ヴァンパイア族は長命な種ですから、私が名目上当主となって跡継ぎを生んだら、その子が家督を継げばいいので嫁に行っても問題ありませんよ。お母様も了承済みです』

Wow、根回し済みっすか。

そしてお嬢様はスノーと2人仲良くなにやら会話を始める。

どうやらオレについての時間割り、新生活のルールなどについて決めているようだ。

2人とも楽しそうなので、オレがこれ以上何か言うのは野暮だろう。

それにお嬢様――あらためクリスがオレの嫁になってくれたのは、本当に嬉しい。彼女のことはオレも大好きだし、愛している。スノーとの仲も良好だし。

こうしてオレに第2夫人で凄腕スナイパーの嫁が出来ました。

<第3章 終>

次回

第4章 少年期 黒エルフ編―開幕―