軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第467話 軍オタアフター 名前

魔人大陸、封印都市マドネスで起きた『魔王事件』は無事に終息を迎えた。

問題が片づくとオレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は飛行船ノアへと乗り込み獣人大陸ココリ街へと帰還する。

妊娠しているリースの様態が心配だったが、1ヶ月と数日程度ではそこまで外見的変化もなく、元気な姿でシア共々出迎えてくれた。

リースやシア、本部に残った団員達の姿を確認すると、妙な安堵感を覚える。

――しかし、そんな安堵感も経った数ヶ月後に吹き飛んでしまう。

魔人大陸、封印都市マドネスで起きた『魔王事件』以上の緊張感・緊迫感がオレを襲ったのだった。

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『魔王事件』から数ヶ月後。

新・純潔乙女騎士団本部で使用している客室リビングをオレは冬眠前に餌を探す熊のようにノソノソと落ち着かなく歩き続けていた。

「もう少し落ち着きなよ……。リュートくんがどれだけ焦っても、リースちゃんの出産は早々簡単に終わらないんだから」

「団長として、また夫として、リュート様はもう少しドッシリと構えて頂かないと」

「分かってるよ。分かってるんだが……何かしてないと落ち着かなくてさ」

ソファーに座ったスノー&メイヤの指摘を受けるが、オレの足は止まらず動いてしまう。

臨月を迎えたリースが産気づき現在、寝室ベッドでエル先生が助産婦を勤め、シア達護衛メイドが助手に付き出産をおこなっている。

オレが一番信頼できる医師として、エル先生には無理を言って出産が近付くとココリ街まで出向いてもらった。

エル先生は医師として、治癒系魔術師として多数の助産婦経験を持っている。

ギギさんやソプラ、フォルンは孤児院で待ってもらっていた。

前世と今生含めて初めて嫁が出産を迎えたということで、オレはどうしても落ち着かずうろうろ歩き回ってしまうのだ。

反対にスノー&メイヤは、自分達がもうすぐ母親になるせいかオレとは違い落ち着いた様子でソファーに並んで座っている。

2人ともリースの妊娠発覚に遅れて、懐妊。

お腹を冷やさないようにゆったりとした衣服を身につけているが、服の下からでも分かるほどお腹が大きくなっている。

彼女達が座る正面ソファーには未だ妊娠の兆候がないクリス、ココノが羨ましそうに2人を眺めていた。

「リースさま、スノーさま、メイヤさま……皆さま授かっていらっしゃるのにわたしたちだけ何の兆候もないなんて……。これは神が与えた試練なのでしょうか?」

『私も早くリュートお兄ちゃんの赤ちゃんが欲しいです……』

オレも頑張っているのだがクリス、ココノは体格の問題か、タイミングが悪いのか未だに兆しはみえない。

最近はスノー、リース、メイヤが出来ないため、毎晩2人に搾り取られているほどだ。

『何を』とは聞かず察して欲しい……。

「うーん、こればっかりは授かりものだから、リュートくんの魔術道具でもどうしようもないしね」とスノーが腕を組み唸る。

「むしろわたくしは、リュート様と結ばれるのが一番遅かったので、妊娠も一番最後、もしくは出来ないのかと戦々恐々としていましたわ……。なのでリュート様の間に授かることが出来て本当に安堵しました」

メイヤは手にしたカップをカタカタと揺らし、全身を感動と安堵感で振るわせながら告げた。

彼女の言葉にクリス、ココノも流石に何も言えなかった。

場の空気を変えるため話題を振る。

「そ、そういえばルナはどうしたんだ? 実姉の出産なのに姿が見えないけど」

『経験豊富なエル先生が助産婦に付くなら大丈夫だろうから、産まれたら教えてと言われました……』

クリスが申し訳なさそうにミニ黒板を掲げる。

確かに治癒魔術師で、助産婦経験も豊富なエル先生に任せておけば問題はないだろうが……。

ルナの奴、いくらなんでもクール過ぎないか?

『――――――!』

「!?」

ルナのクールさに驚愕していると、分娩室代わりに使用している寝室で変化が起きる。

魔王が地下墳墓から姿を現した以上の緊張感がオレを襲う。

緊張感から瞳孔が開き、腰を落として臨戦態勢を取ってしまっていた。

USPが側にあったら、手にして構えていたかもしれない。

自分が緊張感から妖しげな行動をしているのを自覚したが、嫁達が誰もツッコミを入れてこないことにも気付いた。

彼女達に視線を向けると、全員ソファーから立ち上がり、心配そうに寝室に繋がる扉を見つめていた。

口ではオレに『落ち着け』と注意していたが、やはり彼女達も心配だったのだろう。

扉の鍵が開く。

扉からニコニコ満面の笑顔でエル先生が顔を出す。

彼女の笑顔を前に体から緊張感が抜ける。

どうやら母子ともに問題なく産まれたようだ。

「リュート君、母子ともに健康よ。頑張ったリースちゃんを褒めてあげて」

「あ、ありがとうございます。失礼します」

どもりながらお礼を告げつつ、エル先生の脇を通り抜け寝室ベッドへと向かう。

赤ん坊はすでにリースの腕の中に居た。

彼女は愛おしげに腕の中の赤ん坊を見つめている。

オレが部屋に入ったことに気付くと、顔を上げ出産後にもかかわらず疲労の色を浮かべながらも幸せそうに微笑む。

「リュートさん、男の子です。リュートさんと同じ髪の毛が黒くて、とても可愛らしいですね」

「目元や口元はリースに似ているな」

産まれたばかりの赤ん坊を覗き込みつつ、返事をする。

リースの指摘通り髪の毛はオレと同じ黒で、目や口元は彼女に似ている気がする。また耳は当然だが長く尖っていた。

「男の子っていうことは約束通り、リースが名前をつけてくれ。どんな名前にするかもう決まっているのか?」

産まれる前、オレとリースは子供の名前について話し合っていた。

女の子だったらオレが名付け、男の子だったリースが付けると話し合いで約束したのだ。

彼女は小さく頷き、名前を告げる。

「この子には『リンク』と名付けます」

『リンク』とはハイエルフ族に伝わる旧い言葉で『繋ぐ』という意味があるらしい。

「リュートさんや皆さんが作り上げた PEACEMAKER(ピース・メーカー) という軍団、理念……リュートさんや皆さんの気高い意思を未来へ、次に繋ぐ者になって欲しいという想いを込めてつけました。どうでしょうか?」

「凄い、いい名前だよ」

彼女の名付けの理由を聞き、オレは不覚にも涙を流しそうになる。

悲しいからではない。嬉しいから泣きそうになったのだ。

リースがこれほど深く、軍団や理念を愛し、未来にまで引き継がせたいと考えていたとは知らなかったからだ。

故に彼女の純粋な想い、腕の中に居る次世代を前に涙が流れそうになったのだ。

気付けば自然とリースの手を取っていた。

「リース……リンクを無事に産んでくれてありがとう。リース自身が無事でいてくれてありがとう……愛しているよ」

「私もです。愛しています、リュートさん」

こうしてリュート・ガンスミスの第一子、リンク・ガンスミスが誕生したのだった。