軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第463話 軍オタアフター タイガの作戦案

ナパーム弾がほぼ完成後、投下されている城壁内部の状況がどうなっているのかオレとジオ・クライネルこと『腐敗ノ王』の2人で視察に来ていた。

視察自体は問題なく終わったのだが、当然、地面が震動。

ランスが引き起こした地震とは違う揺れ。

振動の原因はすぐに判明する。

魔王が眠る墓地穴が、活火山のように噴火したからだ。

穴から巨大な手の骨が姿を現す。

一目で理解する。

あれが太古、神話、この世界で語り継がれている物語の大悪党。

大陸中に死を撒き散らした魔王だと。

「ど、どうして!? 魔王が蘇るなんて! ちゃんとモンスター達を城壁内部に留めて、魔力や命を奪われるマネなんてしてないのに! そこまで封印が弱っていたというの!」

側に居る『腐敗ノ王』が、予想外の事態に美少女顔を歪めて困惑した声音をあげる。

彼が我を失うほど混乱したことでオレは逆に冷静さを取り戻す。

自分より困惑した人が居た場合、逆に冷静になるという俗説は本当なのかもしれない。

オレは彼の肩を叩き声をかける。

「落ち着いてください、『腐敗ノ王』殿。上が混乱してもいいことなんて何一つありませんよ。まずは状況を確認して、適切な指示を出して対処しないと」

「も、申し訳ありません。取り乱してしまって……勇者にして英雄殿の仰る通り、上が混乱したら対処のしようもなくなりますよね……」

『腐敗ノ王』は未だに顔色は悪いが、取り乱した精神を表面上は押さえ込む。

なんとか冷静さを取り戻そうと呼吸を繰り返す。

オレ達が城壁内部を視察しに来ていることを知っている『腐敗ノ王』の部下達が、現状を知り慌てて彼の元へと訪れる。

『腐敗ノ王』は部下が駆け寄ってくる時には冷静さを取り戻し、緊急事態に対する指示を出し始める。

オレはその傍らでナパーム弾を抱えたレシプロ機(擬き)が、魔王に攻撃しないよう光信号で指示を出し、相手を観察した。

墓地穴から這い出てきたのは左手の骨だ。

親指の位置ですぐに分かる。

墓地穴から城壁上部まで数kmほど距離がある。

だが墓地穴から這い出てくる左手の骨は約20~30mはありそうなほど巨大なため、数km離れていても余裕で目視することが出来た。

魔王の左手は墓地穴から這い出てきたにもかかわらず、不自然に真っ白だ。もぞもぞと穴から出ようと四苦八苦している姿は、白い芋虫のようで気持ちが悪い。

瓦礫を乗り越え左手が完全に穴から姿を現す。

「って、左手の骨だけなのか?」

墓地穴から左手が抜け出た後、次に左肩や右腕、頭などが出てくると想像していた。

なのに墓地穴から出てきたのは左手の骨――正確には手のひら、一の腕までの骨だ。

オレを含めた『腐敗ノ王』側も『魔王が復活した!』と考えていた。

にもかかわらず、左手の骨だけが姿を現したことに、『腐敗ノ王』も指示を聞いていた部下達もぽかんと呆けてしまう。

だがオレ自身は、その姿に納得する。

これは勘でしかないが、魔王は完全な復活を一時的に諦めて一部だけを結界外に無理矢理だしたのではないのか?

未だ魔王自身に弱まった結界の綻びからゾンビを産み出す力は残っている。

しかしいつまで吐き出しても城壁外に出られず、力を吸い出すことができない。

故に残った魔力で綻んだ結界の一部を無理矢理広げて、左手だけを外へと出した。

後は文字通り自身の手で城壁外へと出て人・魔物関係なく生物を虐殺して力を本体へ届け、最終的に全部を復活させようとしているのではないか?

この予想を『腐敗ノ王』達に説明すると、彼らは納得し頷き合う。

「恐らく勇者にして英雄殿の推測が当たっているかと。でなければ魔王が一部とはいえ復活するなどありませんよ!」

「予想が当たるのはいいとして……一部とはいえ魔王が復活するなんて不味くないですか? 結界外へ出るため力をほぼ使い切って弱っているだろうが、相手は魔王です。下手な実力者や魔物より強いはずですから。もし城壁外に出て見失ったら……」

町や村、魔物の群れなどを襲い力を蓄え、本体が丸ごと復活する可能性が非常に高くなる。

ゾンビ系モンスターが城壁外に出るより厄介な状況になりかねない。

『腐敗ノ王』は想像して、皆一様に顔色を悪くする。

オレ達の想像が『当たり』と言いたげに、墓地穴から抜け出し体(左手のみだが)の動きを確かめていた魔王が本格的に行動を開始する。

墓地穴から抜け出す際、大小の岩石が噴火のごとく吹き飛んだ。

結果、一部城壁が大岩によって潰され崩れてしまう。

魔王は骨の指で地面を掴み、崩れた城壁を目指し動き出す。

その巨体にかかわらず意外と動きが素速い!

まるで夏場の岸壁などに居るフナムシのようだ。

正直、動きが気持ち悪!

だが気持ち悪がっている場合じゃない!

このままだと城壁外へと逃げられてしまう!

「 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) ! 発砲を許可する! あの骨の足止めを頼む!」

封印都市マドネスに到着した初日。

城壁上部に『40mm 炸裂火炎魔石榴弾』をセットした 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) を設置した。

ナパーム弾が完成する前、城壁内部に溢れているゾンビ系モンスターに有効かどうか試すため試射もおこなった。

予想通りゾンビ系モンスターに火属性は有効で、散らばる破片&爆風の効果も加わり効率よく敵を倒すことが出来ていた。

しかし魔石を使っているため1発約金貨3枚(約30万)もする。

故に非常事態の時、使用する保険的意味で設置だけして以後、まったく使用していなかった。

今がその非常事態である。

オレは担当者である団員達に団長権限で指示を出す。

運が良いのか悪いのか……崩れた城壁からさほど離れていない距離に 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) を設置されていた。

自分から向かってくる魔王の左骨に狙いを定めて 引鉄(トリガー) を押せば、ヒットさせるのはそう難しくない。

もちろん『40mm 炸裂火炎魔石榴弾』程度で倒せるとは考えていない。

弱っているとはいえ相手は太古に猛威を振るった魔王(左手の骨)だ。

この攻撃で足止めしている間に、城壁の穴を土系統の魔術で埋める算段である。

当然、オレの狙いを『腐敗ノ王』達も既に理解し、駆け出していた。

自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) から榴弾が発射される。

訓練された団員の狙い通り、榴弾は違わず魔王左手の進行方向手前で爆発――したのはいいが爆炎&破片などが黄金の飛沫へと変化する。

『!?』

その場に居る全員、意味が分からず思考を停止した。

唯一、魔王だけが速度を落とさず移動し続けていた。

自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) を担当する団員が意識を取り戻し、慌てて連射する。

その全てが黄金や銀、土色、錆びた鉄、腐敗した異形の生物になった。

以前、『腐敗ノ王』が説明してくれた言葉を思い出す。

この地に封印されている魔王は『練金、変質に特化した魔王で、5大魔王の中でも随一の不死性を持つ。彼の大陸に多種多様な魔人種族が存在するのも、この魔王の力のせいだ』とか。

恐らく榴弾の攻撃も魔王に触れた瞬間から別の『ナニカ』に変質させているのだろう。

チートというレベルじゃないだろ!

魔王の能力に驚愕している間にも速度を落とさず、崩れた城壁を目指す。

自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) を一心不乱に発砲するが、足止めどころか認識もされていないようだ。

(どうする!? このままじゃ城壁を出て街に被害が出るぞ!)

高速で穴埋め方法を思考するが、距離はあるし、オレ自身魔術師ではないためどうすることもできない。

オレは諦めて魔王が城壁外に出て、街に被害が被ることを覚悟した。

――刹那、元々の城壁以上に高い真っ白な氷山が崩壊した箇所を埋めるように姿を現す。

魔王の左手自身、これは予想外だったらしく勢いを殺せず正面からぶつかる。

ぶつかった箇所が氷から、泥、白いナニカの粉、植物に変化して大きく削れてしまう。

しかし削れた箇所はすぐに新たな氷で穴埋めされた。

これならいくら氷を変質させても、早々簡単に城壁外へ出ることはできないはずだ。

「リュートよ、ここにいたのか! 探したぞ!」

状況は分からないが、とりあえず魔王を外へ出さずに済みオレと『腐敗ノ王』達は安堵の溜息を漏らす。

そんなオレ達に城壁を軽く乗り越え旦那様が声を掛けてきた。

「先程、地面が揺れて城壁の一部が崩れたからな。我輩の判断でホワイト殿に頼んで応急処置として作って頂いたのだ! 現場判断として勝手に動いたのだが……どうやらタイミングがよかったらしいな」

旦那様は城壁内部、氷山を削るように蠢く魔王の左手骨を一瞥し、最後の台詞を付け足す。

あの氷山は魔術師S級『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルが作り出したモノらしい。

「はい! さすが旦那様! 本当にナイスタイミングですよ!」

オレはつい手放しで褒めてしまう。

『腐敗ノ王』達も一様に手放しで褒めた。

とりあえずスノー&ホワイトには、引き続き魔王が氷山や城壁を乗り越えようと変質させるため、氷で穴埋めするよう指示を出す。

その間に『腐敗ノ王』が旦那様に状況をかいつまんで説明していた。

「ふむ、まさか一部とはいえ復活するとは……。さすが魔王と言ったところだな! だがしかし! 復活したとはいえ一部だけ! さらに結界を越えるため魔力等を消耗しているのだろう? ならばこの場で倒して、再度封印すればいいだけ! 何も難しく考える必要はないぞ! はははははははははははははっ!」

旦那様の台詞に、暗い顔で説明していた『腐敗ノ王』達の表情が若干明るくなる。

確かに状況は悪いがやることは単純だ。

魔王を倒して再度封印すればいいのだ。

こういう時、旦那様の前向きさは本当にありがたい。

暗い考え、低い士気のままでは戦いにならないからだ。

とはいえ、言うは易く行うは難し。

弱っているとはいえ現代兵器すら無効化するあの魔王をどうやって倒せばいいのか?

上空にはナパーム弾を所持するレシプロ機(擬き)が待機しているが、たいした効果は無いだろう。

ナパーム弾でダメージを負うなら、 自動擲弾発射器(オートマチック・グレネードランチャー) で足止めぐらい出来たはずだ。

ナパーム弾、『40mm 炸裂火炎魔石榴弾』となると『黒毒の魔王』に止めを刺した120mm 滑腔砲(かっこうほう) 、核兵器に次ぐ威力があると言われているバンカー・バスターなどがあるにはある。ナパーム弾を研究・製作した臨時倉庫研究所に仕舞われている。

たとえば120mmの場合、今から倉庫研究所に取りに戻り、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を改造している本体を丸ごと城壁内部に運びこみ、地面に巨体を支えるアンカーを打ち込み、砲弾――装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS―T)を装填して……なんてやっている時間があるのだろうか?

準備している間に、スノー&ホワイトの魔力が切れる可能性の方が高くないか?

こういう時、リースが居てくれれば『無限収納』で直ぐに準備できるのに!

今更だが本当にオレ達は彼女に依存していたんだな……。

また第一、120mm 滑腔砲(かっこうほう) やバンカー・バスターが準備できたからと言って、本当にあの最古の魔王に効果があるのか不明である。

正直、どれほどの破壊力がある兵器を叩き込んだとしても、別の物質に変質されてしまうような気がするのだが……。

この懸念に『腐敗ノ王』が答える。

「大丈夫です」

彼は背中に背負っていた代名詞の『腐敗ノ王』を抜く。

「氷山や城壁保護の時間稼ぎは、他魔術師を宛てれば問題ありません。魔王の力の封印に関してはぼくに任せてください。この『腐敗ノ王』は魔王の骨から作り出した魔剣です。『腐敗ノ王』の力で魔王の練金能力を一時的に封じます。その隙に最大限の攻撃を叩き込んでください」

「一時的に封じられるのは分かったけど……それはどれだけの時間だ? 『腐敗ノ王』自身、攻撃する際、距離を取ることは出来るんだよな?」

「…………」

この問いに『腐敗ノ王』が、俯いてしまう。

やはりか!

彼の手にする『腐敗ノ王』は剣だ。

魔王の力を一時的とはいえ封じるのに、遠距離からどうこうできるはずがない。

『腐敗ノ王』は魔王の左手共々心中する気でいるようだ。

彼は美少女顔で儚げに笑顔を作る。

「お気になさらないでください、勇者にして英雄殿。ぼくはこいう時のために一族の長をしていたのですから。魔王を再封印するために必要なことなら、喜んでぼくはこの命を捧げます」

魔王の墓守を長年務めてきた一族のトップとして、男としての覚悟を見せつけられる。

「「…………」」

オレと旦那様はそれ以上何も言えず黙り込む。

男が覚悟を決めたのだった。

中途半端な言葉をかけるのは、彼の覚悟を汚す行為にしかならない。

同じ男としてそんな無粋なマネはできなかった。

「『魔王を再封印するために必要なことなら、喜んでぼくはこの命を捧げます』とか、アホなこと言わないでくれないかな。リュート・ガンスミスの教育に悪いじゃないか。もし彼がマネしたら奥さんやエル先生に会わせる顔がなくなるよ」

顔全部を覆う 防毒マスク(ガスマスク) に、旅マント&フードを被ったタイガが城壁上部へと姿を現す。

城壁周辺の騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたようだ。

……ふと、彼女の先程の台詞が、昔どこかで聞いたモノに似ている気がするのだが……いつだっただろうか?

疑問に首を捻っているとタイガの指摘に、『腐敗ノ王』があからさまに顔をしかめる。

自身の覚悟に水を差されたからだろう。

「他に方法が無い以上、しかたないのではないでしょうか? むしろ、ぼくだけの犠牲で済めば安いモノです。いくら魔術師S級でも現状をどうにかする力は無いのですから、下手な横槍はしないでください」

「むしろ僕ならどうにか出来る力があるから、ここまで来たに決まっているだろ?」

タイガはあっさりと『腐敗ノ王』の台詞を受け流し、肩をすくめる。

彼女はオレへと視線を向け、 防毒マスク(ガスマスク) の下でニヤリと笑う気配を感じる。

タイガの態度に一瞬首を傾げそうになったが、彼女の狙いに気付き目を大きく見開く。

そうだ! タイガの力があれば『腐敗ノ王』を犠牲にせず魔王を倒すことができるじゃないか!

「僕の考えた作戦っていうのはね――」

オレが狙いに気付いたのを察して、タイガが説明を口にする。

彼女の建てた作戦とは――。