軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第47話 ヴァンパイア

時間は少しだけ遡る。

「リュートくん、大丈夫? 少し速度落とす?」

「だ、大丈夫……まだ行けるから」

オレ達はお嬢様に足止めを任せて、森を駆け抜ける。

オレの魔力は現時点で残り三分の一を切っていた。

スノーは魔術を使い、奥様を抱えながら走っているのに魔力の衰えを感じない。

これが魔術師としての才覚の有無の差か。

奥様がオレ達を気遣い溜息を漏らす。

「この首輪さえなければわたくしも自分の足で走れるのだけれど」

「お気になさらず、それにもうすぐ森を抜けますから」

オレの言葉通りようやく森を抜ける。

切り立った崖を飛び降りると、予定ポイントに幌馬車が停車していた。

よし、打ち合わせ通りだ。

幌馬車内に入ると、メイヤが出迎えてくる。

「お帰りなさいませリュート様! 無事、恩人を救い出すことが出来たようですわね」

「メイヤ、後は頼む。スノーは彼女の手伝いをしてくれ。今は作戦行動中なんだから2人とも仲良くするんだぞ?」

「むぅー、分かってるよ」

特にスノーに対して釘を刺す。

彼女はオレの注意に唇を尖らせた。

オレは息を切らせながら、従者台に座り角馬に鞭を入れる。

何時までもこんな場所にいる理由は無い。

幌馬車内ではメイヤが奥様と会話を始める。

「初めまして奥様。わたくしはリュート様の一番弟子メイヤ・ドラグーンと申します」

「これはご丁寧に、セラス・ゲート・ブラッドよ。ご助力頂きまして誠に感謝いたしますわ。メイヤ――あの天才魔術道具開発者がなぜ魔人大陸に?」

「全てはリュート様の御心のままにですわ」

「メイヤさんもリュートの婚約者なのかしら?」

「こ、婚約者ですか!? い、いえ、そんな畏れおおい! ですが求められたら断れないといいますか。むしろ、わたくしとしてはお断りする理由などまったくないのですが」

メイヤは乙女の表情で顔を赤くし、指先を合わせてクネクネと動かす。

いや、そういうのはいいから、早く魔術防止首輪を外す準備に取り掛かって欲しいんだが……。

「むぅ~~~違うよ! この人はリュートくんの婚約者なんかじゃないよ! リュートくんの悪口言うし!」

奥様の発言にスノーが頬を膨らませて怒り出す。

彼女の発言に後頭部をハンマーで殴られたようにメイヤが倒れ込む。

「うぅうぅ、あの頃はまだリュート様のご威光に触れていない故、無知だったんですわ……と、兎に角、今は奥様の首輪を外させて頂きますわね」

「首輪を? でも鍵で解錠しなければ魔術の呪いで死んでしまうわよ」

「ですが、首輪をしたままだと敵に位置を特定され続けてしまいますわ」

「あら、首輪にそんな機能もあったのね」

「はい、ですから何時襲撃を受けるか分かりません。ですから外させて頂くのですわ。もちろんわたくしはリュート様の次に天才の魔術道具開発者メイヤ・ドラグーン! この程度の首輪を外すのなど造作もありませんわ。ですからご安心を」

ただ、と彼女が付け足す。

「解錠には約30分ほど時間がかかりますわ」

メイヤほど魔術道具に精通し、専門の道具を用意しても30分もかかるのか……。

素人が魔術防止首輪を外すのはやっぱり不可能なんだな。

「その間に襲撃されることはありませんの?」

「それは大丈夫です。今、クリスちゃんが敵を足止めしてくれてますから!」

スノーは元気よく答える。

奥様の口調に心配の色が浮かぶ。

自身の安全より、娘の身を心配した口調だった。

「やっぱりあれは見間違えではなかったのね。あの子がギギたちを足止めなんて出来るのかしら」

「出来ますよ! だってクリスちゃんはとっても強くなりましたから!」

スノーが奥様の心配を払拭するように快活に答える。

オレもスノーと同意見だ。

むしろやりすぎていないか心配なほどだ。

お嬢様に才能があるとは思っていたが、こちらの想像以上だった。

特に夜戦。

肉体強化術を使わず元の視力と夜目で、的確に的を撃ち抜くさまは驚愕の一言だった。

前世の世界、アメリカ軍で使われているスラングで、夜に獲物を狩る狙撃手のことを『ヴァンパイア』と呼ぶ。

夜戦でもっとも力を発揮するお嬢様はまさに『ヴァンパイア』だ。

「それでは始めますね。横になって頂いても?」

メイヤの指示で奥様が荷台で横になる。

「明かりをお願いします」

スノーは魔力で馬車内を明るくする。

メイヤは道具を手に首輪の解体を開始した。

――宣言通りメイヤは首輪を30分で解錠してしまう。

彼女は首輪を無造作に外へと投げ捨てる。

「リュートくん、クリスちゃんに撤退の合図を出すね」

「任せた」

スノーは馬車から身を乗り出し腕を真上へ伸ばした。

魔術で派手な破裂する光を上げる。

それから約1時間後。

ギギ達が、魔術防止首輪がある位置まで急行する。

だが、そこには魔術防止首輪だけが街道に落ちているだけだった。

彼らは奥様を取り逃がしてしまったのだ。

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オレ達が辿り着いた場所は、メイヤが懇意にしている魔石商の屋敷だ。

夜戦を終えて戻ってきたお嬢様が、奥様と約数ヶ月ぶりに対面する。

「……ッ!」

お嬢様は野戦服姿のまま、久しぶりに対面した母親の胸に飛び込む。

奥様は優しく何度も彼女の頭を撫でた。

「ありがとうクリス。母を助けてくれて」

『みなさんのお力がなかったら、私1人では何もできませんでした』

魔術ミニ黒板に文字を書く。

「そうね。皆様、あらためてブラッド伯爵家を代表してお礼を申し上げます」

奥様はその場にいる皆――オレ、スノー、メイヤに頭を下げた。

「奥様、自分はブラッド伯爵家の執事ですから。当然のことをしたまでです」

「だとしたら当家にとって、リュートを迎えることが出来たのは本当に僥倖だったわ」

「メリーさん達には奥様救出成功の報告を出していますが、面会は手打ちが終わってからになります。居場所を知られて襲撃を受け、再度奥様やお嬢様が攫われるのを防ぐためです」

敵は憎いが、お家騒動の側面もある以上、皆殺しにする訳にはいかない。

人質がもう居ないため、向こうも打つ手は無い。

こちらの武力を抑止力として見せつけ一旦手打ちにした後、旦那様を探し出し、その後に再度旦那様に対処を任せるのが良いだろう。

「そう。でも、今後はどうするつもり? わたくしが無事なら、夫が遠慮なく力を振るえるけれど……あの人は今、どこかに奴隷として売られてしまったと聞いているわ。あの人達を押さえる抑止力は現在ないのだけど」

『お母様は、お父様がどこに売られたのかご存じないのですか?』

「ええ、ごめんなさい。力がない母で」

『そんなことありません! でもお父様は無事なのでしょうか……』

「その点は心配ないわ。だってあの人ですもの。ドラゴンの体当たりを受けても傷1つ付かなかったもの」

うわぁー、その姿が簡単に想像できる。

気持ちを切り替え話をする。

「抑止力に関してはお嬢様がいらっしゃるので問題ありません。なので相手との交渉を近日中におこないたいと思います」

「クリスが?」

「はい。お嬢様こそ我々の抑止力、切り札です」

リュートはお嬢様に向き直る。

「ちなみにお嬢様、今回使ってみてスナイパーライフルに問題はありませんでしたか?」

『弾薬の 発射薬(パウダー) がまだ弱い気がします。あと 引鉄(トリガー) のキレがまだちょっと甘くて弾丸がイメージと若干ずれるので調整よろしくお願いします』

「くっ、か、かしこまりました」

短時間とはいえ、かなり頑張って完成させたスナイパーライフルだったが、お嬢様はまだまだだと駄目出しをしてくる。

「分かりました。では、手打ち式の日までには調整させて頂きます。一応、現状のものでパフォーマンスを演じて頂くことも考えておいてください」

『分かりました』

メイヤが割ってはいる。

「そろそろ日が昇る時間。湯浴みとお食事どちらの準備をなさいますか?」

「では、遠慮無くご厚意に甘えさせて頂きます。湯浴みをお願いしますわ。娘と久しぶりにゆっくり入りたいかと。いいわよね、クリス?」

『はい、お母様』

お嬢様はにこにこ笑顔でミニ黒板を持ち上げる。

久しぶりの親子水入らず、オレたちは気を利かせて部屋を後にした。