軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軍オタコミックス8巻、なろう特典SS ルナの進路と愚痴

「お姉さん! もう一杯お代わり!」

新・純潔乙女騎士団団員3名が、仕事終わりに行きつけの酒場へと繰り出す。

「そんな酒精だけ飲んでいると胃が悪くなるニャ。ちゃんとツマミも一緒に食べるニャ」

「ほら、私の唐揚げ一つあげるから」

「……そんなにあるんだから、一つと言わずもう少し譲るニャ。足りなかったら注文すればいいのニャから」

語尾に『ニャ』を付けるのは、獣人種族、 猫人(ねこびと) 族のアリーシャ。

猫人族というだけあり、猫の獣人で猫耳と尻尾が特徴である。

彼女の向かい側の席に座ったのが、人種族のミラだ。

ミラは同世代に比べて背が低い。童顔で胸も小さく、栗毛の髪をお下げに結んでいるためか、見た目以上に若く見られる。

2人は純潔乙女騎士団へ同時期に入団した。

いわゆる同期である。

性格や波長が合うため、 軍団(レギオン) でも特に仲が良い。

そんな2人に混じって今夜は友人が1名この飲み会に参加していた。

「もうアリアリはリースお姉ちゃんのような言い方しないでよ。ありがとうミラミラ……ふぁあ、唐揚げ美味しいー」

その友人とは――ハイエルフ王国エノール、ルナ・エノール・メメア第3王女だ。

金髪をツインテールに結び、背丈はミラに負けず劣らず低い。

見た目は本来とんでもない美少女なのだが、薄汚れた白衣に袖を通し、酒精のジョッキを片手に、フォークに刺した唐揚げをもぐもぐ食べている。完全に飲み屋のおっさんの雰囲気を漂わせているため、『とんでもない美少女』とは断言しきれない状態だ。

ちなみになぜルナが、一般団員であるアリーシャ&ミラに混じって機嫌悪く酒精を煽っているかというと、これにはちゃんとした理由がある。

アリーシャ&ミラは元々『新・純潔乙女騎士団』に変わる前から 軍団(レギオン) に所属していた最古参だ。

故にルナとはなんだかんだいって付き合いが長い。

ルナも歳(彼女の見た目・精神年齢的に)が近い彼女達とは仲が良い友人同士だ。

元々ルナ自身、物怖じしない性格で社交性が高いため、彼女達だけではなく友人は多いのだが……。

そんなアリーシャ&ミラが仕事終わりに飲みに出かける途中、機嫌が悪いルナと遭遇。

ルナは鬱憤を晴らすため、彼女達の飲み会に付いて来たのだ。

ルナは新しく運ばれてきたジョッキに口をつけ、赤い顔でテーブルへと叩きつける。

「リースお姉ちゃんと言えば、聞いてよ! 最近お姉ちゃんったら本当に口うるさくて! 『ルナ、エノールの王族として 汚れた白衣(そのような格好) は止めなさい』とか、『そろそろ将来のことを考えて、本格的な淑女教育を再開したほうがいいんじゃないの?』とか言ってきて! 本当にうざい!」

「あ、うん……」

ミラが気まずそうに返事をする。

アリーシャはどう反応すればいいのか分からず、コップに口を付けて黙っていた。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長リュートの妻であるリースは、瞳の色を魔術道具で変えて普通の『エルフ族』に偽装している。

しかしルナが『姉』と口にしている時点で偽装の意味が無い。

さらに、リース、ルナは彼女達の話を統合するとハイエルフ王国エノールの王族姉妹ということになる。

ハイエルフ族は長寿のため、リース達の自国では『長寿と夫婦愛を司る種族』として観光資源化している。

ハイエルフに会うため人種族の貴族、大商などが金銭を積むこともあるほどだ。

一般市民が目にする機会などほぼないと断言できる。

そんなハイエルフの王族が姉妹揃っているのだ。

ルナの愚痴に付き合うのは問題無いが、『ハイエルフ族の王族姉妹』という部分にどう反応すればいいのか分からず、アリーシャ&ミラは中途半端な返事をしてしまったのだ。

2人の反応の鈍さに気付かず、ルナはさらに愚痴を吐き出す。

「リースお姉ちゃんがリューとんに任された兵器開発・研究にかかりっきりになっているのを快く思っていないっぽくて、魔王とか天神問題とか山場ぽいのは越えたから、ルナのことを考えてそろそろ王族として復帰させようとか考えているようだけど、本当に迷惑! ルナは国に戻ってまたあんな狭苦しい生活をすることなんかより、自由に楽しく色々開発とか、研究がしたいのに! 妹の心も分からないなら、黙って口を閉じてリューとんといちゃついてろって話よ!」

文句を叫ぶとルナは『ぐびー』と酒精ジョッキを傾ける。

姉であるリースとしては、多々問題が片づいたためそろそろ妹に『ハイエルフ王国エノールの第3王女』として復帰してもらいたいようだ。

本国は長女ララが起こした問題によってごたついているが、ルナの将来を考えたら『本国へ帰国し、王族に戻った方がいい』と考えている節がある。

ハイエルフ族の寿命は他種族より長い。

リースは王族として復帰した方が、長い目で見ればルナにとって良いと考えているのだ。

リース優先の護衛メイドシアも、彼女がそう望むなら意見に賛成しかしない。

反対にルナは PEACEMAKER(ピース・メーカー) で研究・開発の楽しみを知ったため堅苦しい姫生活より、研究者の道を進みたいと考えている。

まるで進学する大学で意見を違える母と子のような状態だ。

一通り愚痴を聞いたアリーシャ&ミラは、ハイエルフ王族の進路問題に巻き込まれ下手したら進む先を決定しかねないと恐怖し、相づちすらつかず黙り続けた。

2人は視線だけで会話をする。

(落ち込んでいたルナちゃんが元気になるニャるならと思って愚痴に付き合っていただけなのにニャ……)

(しかも飲んでいるのが普通の酒場だし。個室とか取った方がよかったのかな……)

2人が飲んでいるのはいつもの庶民向けの酒場だ。

彼女達の他にも仕事を終えて飲みに来た客達で溢れかえっている。

皆、美味いツマミ、酒精、馬鹿話に盛り上がっているため彼女達など気にもしていないが……こんな場所でする内容ではない。

とはいえ今更場所を変えようとするのも不自然で、このまま黙り続けてもいられない。

何より友達が落ち込んでいるのを放置するのはしのびない。

『毒を食らわば皿まで』

ルナの気持ちが回復するまで、2人は愚痴に付き合うことにした。

ミラが話を振る。

「リース隊長とシア隊長の立ち位置は分かったけど、団長や他隊長達はどうなの? ルナちゃんの味方に付いてくれそう?」

「うーん、とね……まずリューとんは、お嫁さんのリースお姉ちゃんの手前強くは味方してくれないっぽい。消極的残留賛成寄りの中立って感じ。戦場では即断即決するくせに、家庭ではなぁなぁで済まそうとするなんて! これだから男は!」

『ぐびー』とルナが酒精を煽る。

アリーシャがツマミを進めつつ、他の者達の立ち位置を教えてくれた。

「スノーちゃんは残留賛成派。リースお姉ちゃんとのすれ違いとかには気付いていなくて、純粋にルナのやりたいことを応援してくれてるんだよね」

「ああ……スノー隊長っぽいニャ……」

アリーシャは思わず納得する声音をあげてしまう。

「クリスちゃんとココノンは賛成派。リースお姉ちゃん言い分をしっかりと理解した上で、親友のルナの応援をしてくれているの」

ルナの不機嫌だった声音はクリス&ココノの話になると調子が良くなる。

それだけ彼女にとってクリス&ココノは大切な存在なのだろう。

最後にメイヤの派閥に関しての話になると口が重くなる。

『重くなる』というより、どう彼女を表現するばいいのか分からないといった感じだ。

「メイヤっちは……研究者として応援以前にライバル視されているから……」

メイヤとは同じ PEACEMAKER(ピース・メーカー) の兵器・開発部門担当者だ。

だが、彼女は『自身こそリュートの右腕に相応しい!』と自負している。

故にルナを無意識にライバル視しているのだ。

「嫌がらせとかは無いから実質無害だけど……。第一、別にルナはリューとんの右腕とか興味無いし。あー、でも、そのせいかメイヤっちが一番の中立ともいえるかも」

メイヤとしては『リュートの右腕』の地位さえ安泰なら、ルナの進路など興味がないため中立だと言いたいらしい。

つまり現状は『賛成3、反対2、中立2』。

消極的賛成寄りの中立であるリュートが明確に『賛成』、『反対』のどちらに回るかが鍵となりそうな状態である。

「これでリューとんがリースお姉ちゃんに唆されて明確な反対に回ったら、メイヤっちも合流して一気に反対派の流れが出来ちゃうじゃん! 本当に勘弁してよ! 今『クモクモ君あるふぁ2』の研究が進んでいる最中なのに! このタイミングで帰国させようとするのはマジ勘弁してほしいんだけど!」

ルナは酒精ジョッキから手を離し頭を抱える。

ちなみに『クモクモ君あるふぁ2』とは、メイヤをライバル視している竜人種族、魔術師B級、リズリナ・アイファンと PEACEMAKER(ピース・メーカー) が共同で開発した多脚戦車だ。

この発言に『クモクモ君あるふぁ2』を現場、運用した2人が酒精を噴き出しそうになる。

「『クモクモ君あるふぁ2』の研究が進んでいるってマジかニャ?」

「あれって団長が無茶ぶり……っていうか夢か妄想の産物の要求だったはずじゃ……。まだ『クモクモ君あるふぁ2』にM2を乗せて発砲した方がマシって話でしょ」

彼女達が知る限り、最新版は『高速移動中に発砲した場合、関節部分が負荷に耐えきれず折れて移動不能になるレベル』だ。

現場で実際に運用する彼女達団員側からすれば不安定な兵器に命を預けるなど、自殺行為でしかなく正直『クモクモ君あるふぁ2』の評判はあまりよろしくない。

古株である2人は、一応『クモクモ君あるふぁ2』の運用マニュアルも勉強させられているが、感想としては『できれば使用したくない』という低評価である。

現状、兵器としてはあまりに不安定過ぎるせいだ。

しかしリュートが要求したスペックは、さらにとんでもない物だった。

『120mm砲を背負い、70km/hで回避行動を取りながら撃って当てる』だ。

当時のリズリナすらそのスペックを聞いた際、『70km/hでとか、回避行動を取りながら撃って当てるとか……もうそれ魔法レベルだよね? でなきゃ変態だよ、変態! そんなことできるわけないじゃん!』とマジ切れした。

なのにルナとリズリナは、リュートの要求したスペックを達成するため未だに研究しているらしい。

頭を抱えていたルナだったが、自身の専門分野の話題を振られて不機嫌そうな表情を一変。

笑顔を浮かべ、早口に説明を開始する。

「確かに今現在の『クモクモ君あるふぁ2』だと移動しながら発砲した場合、関節が負荷に耐えきれず折れちゃうの。問題はそれだけじゃなくて、移動しながら発砲しつつ、敵へ当てるっていうのは技術的に本当に難しくて。けど、リズリーと共同で研究しているんだけど、ゴーレム技術を応用すればそれらの問題を同時に解決できる可能性が出てきたのよ! 今までは『クモクモ君あるふぁ2』をまるまる一つゴーレム化してたけど、部品単位でゴーレム化することによって――」

ルナは竜人大陸に居るリズリナと研究レポートを郵送でやりとりしているらしい。

意外なアイデア、有用な意見交換、奇抜な発想を披露しあい、研究を進めていくのが最近非常に楽しいようだ。

メイヤも研究者ではあるが、『リュート様第一主義』のため意見交換をしても『リュート様のご意見が全て!』になるため会話しても面白くない。

その点、距離はあるがリズリナはルナの立場も気にせず、ずばずばと意見が交換できるのが楽しいのだとか。

一通り上機嫌に『クモクモ君あるふぁ2』の研究進捗、リズリナとの意見交換の楽しさを語ったルナのテンションが突然下がる。

お喋りに夢中でぬるくなった酒精に口を付けつつ愚痴る。

「そんな研究を邪魔されるとか本当に勘弁なんだけど……。はぁ……リースお姉ちゃんの関心もリューとんとの間に子供ができればそっちに移ったりしないかな」

「……リース隊長が過保護なのは分かるけど、団長も身内に対して凄く甘いよね。だから例え2人に子供が出来ても、そういう過保護精神は無くならない気がするわ」

「あー分かる気がするニャ」

ミラの意見にアリーシャが思わず同意した。

その同意を聞いて、ルナの表情が暗くなる。

「もしかして……リースお姉ちゃんとリューとんの間に子供が出来てもルナの扱いは変わらない?」

「…………」

「…………」

ミラ&アリーシャは何も言えず、互いにぬるくなった酒精を飲み視線を逸らす。

沈黙は時に雄弁より答えを示すものだ。

ルナの表情から暗さが抜け落ち、無表情になる。

「――もういっそのこと PEACEMAKER(ピース・メーカー) を抜けて、リースお姉ちゃん達が知らない場所にでも研究所を建てようかな……」

この発言にミラ&アリーシャがおおいに慌てる。

ルナには才能がある。

独り立ちして研究所を建てるには多々の困難があるが、彼女の場合はその才覚で全てを解決しかねない。

それだけの才覚がルナにはあるのだ。

とりあえず今日は飲んで全てを忘れさせようとミラ&アリーシャは新しい酒精を注文。

ルナへと酒精を流し込み、酔い潰そうと動いたのだった。