軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第449話 軍オタアフター 川遊び

クラーケンに奇襲を受け、湯の町リリカーンの 冒険者斡旋組合(ギルド) 支部で情報伝達した翌日。

オレ達は息抜きのため散歩に出かけていた。

町はすでに『魔王を倒し、魔力消失事件を解決した勇者』というのがバレているため歩き辛い。

そのため町から外れた森林側を散策していた。

森の澄んだ空気に体が喜んでいるようだ。

前世、日本では森林の中を歩く『森林浴』がリフレッシュ効果をもたらすと流行ったのを思い出す。

オレ達もそれにならいたっぷりと森の空気を浴びながら、気分転換しつつクラーケン対峙の方法を模索した。

「やっぱり問題は大きく分けて二つなんだよな」

独り言だが、オレは皆に聞かせるように声量を大きく告げる。

「一つはクラーケンを逃がさないため、一撃で動けなくするほどの大ダメージをいかに与えるか」

烏賊というのは意外と動きが速い。

クラーケンは大きな魔物だが、動きはこちらが想像する以上に速いだろう。さらにクリスの眼を欺くほどの擬態能力まである。

こちらの手札を晒す前に一撃で大ダメージを与えて身動きを封じて、最後は再生機能が及ばないほどの火力を投下し爆殺するのがベターだろう。

でなければ学習されて、身を潜めたり、隙を狙って奇襲をかけられるかもしれない。

そうなったら本気で手に負えなくなる。

「もう一つの問題は、初めの大火力を浴びせるために必要な飛行船ノアが壊れていることだ」

飛行船ノアが壊れていなければ話は早かった。

飛行船ノア・セカンド、ガンシップモードにして左旋回をしながら 8.8cm対空砲(8.8 Flak) や120mm 滑腔砲(かっこうほう) を叩き込めばいいのだから。

しかし、飛行船ノアが壊れているためその手は使えない。

修理には最短で1ヶ月はかかる。

実際、一旦本部まで戻らないといけないのと、修理途中で問題が起きないとは限らないため、1ヶ月以上はかかるだろう。

その間、漁師達は海に出られない。

我慢できずに海に出てクラーケンに襲われる人が出るかもしれない。

最悪の場合、クラーケンが湯の町リリカーンまで来て被害を出す可能性もある。

現状は決して楽観しできる状況ではないということだ。

問題を確認した後、隣を歩くスノーが案を出す。

「リュートくん、最初に凄い怪我を負わせればいいんだよね。アレは使えないの。 燃料気化爆弾(FAEB) は?」

「恐らく思ったほどダメージは与えられないだろうな」

燃料気化爆弾(FAEB) は爆発して巨大な火の玉を作る。

見た目的に火炎や熱で敵を倒すイメージがある。

実際、前世地球のニュースでも見た目のイメージから似たような表現や『核兵器と同等の威力がある』など誤報もされた。

実際は核兵器と同等の威力もないし、熱や火炎で敵を倒すわけではない。

燃料気化爆弾(FAEB) は周囲の空気を一瞬で燃やし、その衝撃波の圧力でもって敵を押しつぶす兵器である。

故に人間サイズならばともかく、巨大生物であるクラーケンには十分なダメージを与えられないだろう。

スノーは『そっかー』と説明を聞いて納得した。

「ならばバンカー・バスターを使ってはどうでしょうか? あれなら威力は申し分ないはずです――って、バンカー・バスターを使ったらクラーケンを貫通しちゃいますよね。忘れて下さい」

スノーの反対側。

オレの隣を歩くリースが提案するが、自身で問題に気付き訂正する。

バンカー・バスターは地下基地を破壊するための兵器だ。リースの考え通り、クラーケンに使用した場合、本体を貫通してから爆発するだろう。

しかし、案としては悪くない気がする。

信管の位置を変えて、爆発する時間を調整し内部破壊できるようにすればいい。

実際にクラーケンで試すわけにはいかないため、その調整は一発勝負になるが……。

リースではないが、自分で考えを進めた結果、問題点に気付いてしまう。

結局ギャンブルになるため、バンカー・バスター案は一旦保留にする。

オレ達のすぐ後ろを歩くメイヤが提案する。

「リュート様、兵器にこだわらずいっそ魔術で倒すというのはいかがでしょうか」

「魔術で倒す?」

「はいですわ! レシプロ機(擬き)で本部に戻り、ホワイトさんを連れてくるのです。魔術師S級、『氷結の魔女』ならクラーケン程度倒すのは容易いのでは?」

「なるほど! その手があったか!」

メイヤの提案に思わず足を止めて振り返る。

彼女の指摘通り兵器にこだわり過ぎていた。

オレ達には現代兵器だけではなく、この世界最強の魔術師の一角であるハイエルフ族、魔術師S級、『氷結の魔女』のホワイト・グラスベルがいる。

彼女をレシプロ機(擬き)に乗せ、誘き出したクラーケンに投下。

ホワイトさんの魔術で海ごとクラーケンを凍結し、砕けばいい。

勝算が高いどころか、確実に倒せる。

さすがメイヤだ!

先程からオレのすぐ後ろで『リュート様はお背中すら素敵ですわ。特にうなじ。白い肌に黒髪、境目部分など思わず舐め回したくなるほどセクシーですわ! あぁ、もうわたくしを誘っているとしか思えないほどフェロモンを出しまくっていますの! これはもう舐めてもいいということですわよね? これもう押し倒してもいい流ですわよね?』とかブツブツ呟いて話を聞いていないと思っていたのだが。

ちゃんと話を聞いて、考えてくれていたんだな。

「……よろしいでしょうか、若様」

「どうかしたか、シア?」

一番最後尾を歩く護衛メイドのシアが口を開く。

「ホワイト様は現在、巨人族の素材採取のため北大陸へ移動中です。本部にはおらず、合流は難しいかと」

「!? そうだ、そういえば新婚旅行に行くオレ達に代わって、素材採取を代わってもらったんじゃないか……」

シアの指摘で思い出す。

ホワイトさん達は一般的な飛行船で移動中のため、今現在どこに居るのか分からない。

連絡の取りようがないのだ。

他の魔術師S級であるタイガは、アルさん封印の旅に出ている。

魔術師S級ではないが、旦那様を連れてくる訳にもいかない……。

魔術でどうこうするのは難しそうだ。

良い案だと思ったのだが……。

他にも意見が出るが、どれも実現は難しいものばかりだった。

『見てください! 綺麗な川があります!』

頭を悩ませていると、クリスがミニ黒板を掲げてくる。

一番先頭をクリス&ココノが手を繋いで歩いていたのだ。

2人は繋いだ手を仲良くブラブラさせ歩いていた。その姿を眺めているだけで胸がほっこりと温かくなり、和む。

彼女達が最初に森を抜け、川へと到着する。

山から海へ流れる清流。

川は意外と深く、地元民の子供達が水遊びで潜って遊んでいる。

なかには手に銛を持って潜り川魚を突き刺し摂っている子供もいた。

オレ達も遊んでいる子供達の邪魔にならない位置で、川遊びを楽しむ。

川遊びと言っても靴を脱いで足を浸したり、手で触ったりする程度だ。

「わぁ、思ったよりずっと冷たいね」とスノー。

『綺麗な水ですね。このまま飲んでも良いぐらいです』とクリス。

「いくら綺麗に見えても、川の水はそのまま飲んでは駄目ですよ。目に見えない小さな生物が居て、飲んで病気になる可能性もあるんですから」

リースの言葉にスノー&クリスが同意の返事をする。

昔、皆にこういった川などの水は直接飲まず、一度沸騰させてたから飲むように教えたことがある。

目に見えない小さな生物――寄生虫について説明するのが意外と難しかった。

「子供達のように泳ぐわけにはいきませんが、せっかくですから釣りでもやりましょうか?」とメイヤが遊びを提案する。

一応、この世界にも竿に糸を垂らして魚を釣る『釣り』という文化は存在するが、前世日本にあるほど立派ではない。

糸は魔物から作り出したモノで、しなりのある木材を使用しただけの代物だ。

当然、リールなどない。

『釣り』は富裕層――引退した男性が趣味でやるという認識だ。

オレ達の場合、サバイバル訓練で何度もこなしているため、娯楽という認識が薄い。

個人的にはせっかくの海なので、船を出して海釣りなどしてみたいが……。

前世も船に乗って釣りをしたかったのだが、やはり敷居が高く断念した。

クラーケンを無事に退治したら、妻達と一緒にやってみるのもいいかもしれない。

「ご希望ならばすぐに準備いたしますが?」

シアの右手には釣り専用の糸と、なぜか左手には手榴弾が握られていた。

冗談ではなく、シアは爆発漁として手榴弾を取り出したらしい。

確かにこの世界では禁止されていないが、危険なので即時却下する。

「シア、釣り糸はともかく、手榴弾を使った爆発漁は危ないから却下だ。釣りもいいがせっかくの川なんだから、久しぶりに『飛び石』でもしよう」

「いいね、久しぶりに勝負だよ、リュートくん!」

スノーが喜々として落ちている石の選別を始める。

『飛び石』とは孤児院時代、川で遊ぶ際、オレが広めた遊びの一つだ。

前世ではなんと呼ばれているかは知らないが、平らな石を投げて水面を跳ねる遊びである。

跳ねる回数がもっとも多いのが勝ちだ。

スノー以外も『飛び石』を知っているため、皆で投げる石を探し始める。

「これはなかなか良いな。平らで良く跳ねそう――」

オレも負けじと投げる石を探す。

ちょうど良さそうな平らな石を見つけて、握り具合を確かめていると脳裏に強い光が駆け抜けた。

オレは手にある飛び石をまじまじと見る。

「? どうかなさいましたか、リュートさま?」

近くにいたココノが話しかけてくる。

オレは彼女の顔と飛び石を交互に見比べる。

この奇行に妻であるココノはさらに首を傾げた。

そんな態度も気にせず、オレは興奮で顔を紅潮させる。

ココノとレシプロ機(擬き)の力があれば クラーケン(奴) を倒すことができるかもしれない!

オレはすぐさま思いついたアイデアを実現するため『飛び石』に興じる妻達に声をかけ、意見を求めたのだった。