軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第447話 軍オタアフター 巨大魔物の正体

新婚旅行で湯の町リリカーンに来ていたオレ達だったが、新人受付嬢のミスで PEACEMAKER(ピース・メーカー) 初の海上戦闘をおこなうことになった。

彼女のミスが無くても『困っている人、救いを求める人を助ける』理念のもとクエストは受けていたとは思うが、できればもう少し時間&情報が欲しかった。

出来ないことを望んでも仕方なくオレ達は準備を整えるため、一度泊まっている 白銀邸(はくぎんてい) へと戻る。

装備はリースの『無限収納』に入っているため、取り出すのは難しくない。

皆、いつも通りの装備品を身に付け、銃器を手にする。

海上戦闘用の銃器や装備は無いため、どうしてもいつも通りの装備になってしまうのだ。

準備を終えると、湯の町リリカーン 冒険者斡旋組合(ギルド) 支部へと行く。

受付嬢から集まった情報をもらい、正式にクエストを受注、サインをする。

そして港から飛行船ノアで出発。

魔王を倒し、『魔力消失事件』を解決した PEACEMAKER(ピース・メーカー) が来ていることは皆の間に広がっている。

今更隠しても意味がないため、『ちゃんとクエストを受けて出発した』ということを皆に伝えることを優先した。

大勢の人々の前で一般的な飛行船とは違う新型飛行船ノアが飛び立つ姿は印象的だろう。

港には漁師や町の住人だけではなく、観光客も集まっていた。

そんな人目の中で、ガンシップモードにする訳にもいかず、通常モードの飛行船ノアで飛び立つ。

今回は情報収集がメインで、『倒せるなら倒す』というやや後ろ向きの威力偵察だ。

無理をするつもりはない。

空路で向かったため数十分で目的場所へと到着する。

眼下には青い海だけが広がっている。

エンジンを一旦停止し、魔石の浮遊だけでその場に留まる。

前世、地球の航空機では考えられない動きだ。

この辺りは魔術や魔石がある異世界ならではだろう。

ココノとシアを操舵室に残し、他は甲板へと上がる。

甲板から身を乗り出し、眼下の海中を凝視した。

「……別に何もないな」

オレの目には良くも悪くもない海しか見えない。

船が沈んだ場所だが、すでに2日経っているため漂流物も無し。

巨大魔物どころか、魚の影一つ見えない。

「クリスはどう? 何か見えないか?」

PEACEMAKER(ピース・メーカー) で一番視力にすぐれるクリスに尋ねる。

しかし、彼女は首を振り、

『特に何も見えません』とミニ黒板を掲げる。

「何も見えないねー」

「ですね」

スノー&リースも目を強化し眼下を見下ろす。

スノーはともかく、ドジっ娘なリースはそのまま落ちてしまいそうでつい心配になって彼女の肩を掴んでおく。

リースが肩を掴んできた意図に気付き、『いくらドジな私でも落ちませんよ』と言いたげに頬をぷっくりと膨らませる。

可愛らしく膨らんだ頬に思わず手を伸ばし、空気を抜く。

リースの頬から空気を抜いて遊んでいると、スノーやクリスも構って欲しいのか彼女のマネをしてぷっくりと頬を膨らませていた。

オレは微苦笑を漏らしつつ、彼女達の希望通りスノー、クリスの順番に頬から空気を抜くため指を伸ばす。

そんな風に妻達といちゃついていると、

「リュート様、時間的な問題があるのかもしれませんわ。巨大魔物は早朝か夜遅くかにしか出ないのかもしれません」

「ありうるな……」

メイヤが身を乗り出し海面を凝視しながら鋭い指摘を飛ばす。

オレも妻達といちゃつくのを止めて、真面目な顔でメイヤの言葉に同意した。

もしそうだとしたら出直す必要がある。もしくは海面にエサとなる肉や魚などを投げ入れて、誘き寄せないといけないのかもしれない。

情報が圧倒的に不足しているため、完全に手探り状態だ。

「…………」

さてどうしたものかと考え込むと――刹那、海面が激しく揺れ、水しぶきをあげる。

「!? 一体何が――ッ!」

海面から10m以上離れている飛行船ノアが激しく振動する。

まるで地震にあったかのようにだ。

原因はすぐに判明した。まるで目の前でパネルがパタパタとひっくり返るように怪物が姿を現す。

「しょ、触手!?」

慌てて海面へ視線を向けると、巨大な烏賊――クラーケンが飛行船ノア左翼に触手を絡めていた。

こいつが船を沈めた巨大魔物か!?

ここまで大きいとは!

触手を入れて、頭から爪先まで50m以上はある。

しかし、なぜオレ達はこんな巨大生物を見落としていたんだ?

疑問に刺激を受け、脳が前世日本のテレビ番組を思い出す。

子供時代、ゴールデンタイムに放映された動物の生態番組だ。

その番組によれば、烏賊の一種が皮膚にある細胞の色素等を変化させて瞬時に周囲にあわせて擬態することができるらしい。

クラーケンにも似たような擬態能力があって、あれだけの巨体にもかかわらず発見できなかったのだろう。

1人納得していると、クラーケンに引っ張られ飛行船ノアが大きく左側へと傾く。

甲板には柵が有り、真っ逆さまに落下する訳ではない。

念のため近くに居た運動神経の鈍いメイヤの腕を掴み抱き寄せる。オレはメイヤを抱えたまま、柵を足場に留まった。

視線の端ではスノーが同じく側に居たリースを抱き寄せ、同じように柵を足場にしている。

「はぁぁぁあ! リュート様ぁあ! そんな強く抱きしめられたらわたくし、どうにかなってしまいそうですわ!」

今にも海へ落ちそうになっているのに、メイヤは相変わらず変なことを言って身をくねらせる。

ここまでいつも通りだと逆に尊敬できるレベルだ。

とはいえ、いつまでもメイヤに構ってはいられない。

オレは空いた右手でバランスを取りながら、AK47をクラーケンに向けて発砲する。

スノー、リース組は、スノーがバランスを取りリースがPKMの 引鉄(トリガー) を絞った。

クリスは単独で、VSSを構え撃つ。

弾丸がクラーケンの胴体や顔面に降り注ぐ。

胴体などは神経が鈍いのか効果は薄いようだが、クリスの発砲した弾丸が右眼球を潰す。

痛みに悶えて飛行船ノア左翼に絡んでいた触手が緩んだ。

お陰で操舵席に居るココノがなんとかバランスを大分回復させる。

『このまま倒しきれるか?』とも思ったが、クリスの撃ち抜いた眼球は早回しのごとく再生していく。

魔力で回復、再生させているのだ。

オレ達が撃ち込んだ胴体の傷もいつのまにか再生していた。

「くそ! この程度の火力じゃ倒しきれない。一度、退避して体勢を立て直すんだ!」

大声を上げて、指示を飛ばす。

メイヤとリースは念のため室内へと移動させ、ココノ達には伝声管越しに指示を伝える。

オレ、スノー、クリスはどうにか飛行船ノア左翼から触手を引きはがすため攻撃を加え続けたが、GB15や手榴弾を投げ入れてもダメージはすぐに回復されてしまう。

その間にも他触手が絡みつこうと姿を現す。

もし他触手に絡みつかれたら引きはがす手段はない。

飛行船ノアごと海中へと引きずり込まれてしまう。

そうなった場合、こちら側に対抗する手段はかなり限られる。

オレは苦渋の決断を下す。

「スノー、魔術で左翼を破壊してくれ! オレとクリスはその間、他触手が近付かないよう時間稼ぎだ!」

「分かったよ!」

『了解です!』

伝声管越しにココノにも全力で上昇するよう告げておく。

スノーは返事をしてすぐAK47を肩に引っかけ、肉体強化術で身体を補助。

軽業師のごとく柵を跳び越えて、左翼根元へと着地する。

「我が腕に集え風の精霊! 風刃を纏て敵を貫け! 風螺旋(ウィンド・スパイラル) !」

風×風の中級魔術を唱えて、右腕に纏わせる。

スノーは風魔術をドリル代わりに左翼根本近くへ順番に穴を開けていく。

いくら魔術師のスノーでも左翼を一撃で破壊することは難しい。下手に威力の高い攻撃魔術を使用したら、飛行船そのものを沈めかねない。

そのため 風螺旋(ウィンド・スパイラル) を纏わせた右腕で、次々に穴を開けていく。

複数穴を開けると、最後に肉体強化術で体を補助。

全力で左翼を踏みつける。

バキバキバキ――と物体が軋み、折れていく嫌な音が海上へと広がる。

飛行船ノア自体が上昇していたこともあり、無事左翼を破壊し分離させることに成功した。

左翼を切り離すと、飛行船ノアは勢いよく上昇する。

船体底部を触手がギリギリ掠り、僅かに船体を振動させた。

オレ、クリスも他触手を絡ませないようギリギリ持ち堪える。

あと少し遅かったら、左翼だけではなく本体に絡みつかれるところだった。

完全に安全圏まで上昇したところで、安堵の溜息を漏らす。

オレは改めて甲板から眼下を覗く。

海上では全長50m以上の烏賊の怪物クラーケンが、海面に巨大触手を叩きつけ海水をまき散らしている。

触手だけではなく、胴体も巨大でイカめしも数百人単位分作れるレベルだ。

実際、作ったとしても不味くて食べられないだろうが。

前世、地球に居るダイオウイカも身が固すぎるのと、アンモニア臭が強すぎて食べられないと言っていた気がする。

「おっきいねー」

『私達はあの魔物を倒さないといけないんですよね……』

同じようにスノー、クリスが甲板から眼下のクラーケンを眺める。

クリスの指摘通り、オレ達はあの巨大魔物クラーケンを倒さなければならない。

まさか新婚旅行に来て PEACEMAKER(ピース・メーカー) 初の海戦だけではなく、過去最大級の魔物を倒さなければならないとは……。

しかし、悪いことばかりではない。

飛行船ノアに損傷をしたが、オレ達は全員無事で、倒すべき敵の情報も得られた。

後はあのクラーケンを倒せばいいだけである。

とりあえずこれ以上は無理をせず湯の町リリカーンへ向かうよう指示を出す。

左翼が破壊されているため、いつも通りの速度は当然出せない。

普段と比べたら亀のような動きで町へと引き返したのだった。