軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軍オタ10巻発売記念、小説家になろうSS クリスの評価

獣人大陸、ココリ街、新・純潔乙女騎士団本部。

一階の団員宿舎で朝の準備をする少女達がいた。

「ふわぁ~ニャ。やっぱり朝は眠いニャ」

語尾に『ニャ』を付けるのは、獣人種族、 猫人(ねこびと) 族のアリーシャ。

猫人族というだけあり、猫の獣人で猫耳と尻尾が特徴である。

彼女は眠い目を擦りながら戦闘服にもそもそと袖を通していた。

「眠いのは分かるけど、早く着替えて行かないと食べる物がなくなるわよ」

アリーシャの側で二段ベッドの一段に腰を下ろし靴ひもを結んでいるのが人種族のミラだ。

彼女は同世代の中でも背が低く、童顔で胸も小さい。栗毛の髪をお下げに結んでいるためか、見た目以上に若く見られる。

すでに彼女は戦闘服に着替え、後は靴ひもを結ぶだけだ。

2人は純潔乙女騎士団へ同時期に入団した。

所謂、同期である。

性格、波長も合うため 軍団(レギオン) でも特に仲が良い。

宿舎は4人部屋で、同室の他二人はすでに着替えて食堂へと向かっていた。

ちなみに二段ベッドの一段がミラ、二段目をアリーシャが使っている。

猫人(ねこびと) 族のアリーシャは、猫だけに寝起きがあまりよくない。

ミラがそれに付き合っている形である。

アリーシャはむにゃむにゃと口を動かしながら返事をする。

「朝ご飯が食べられないのは嫌なのニャ。今日は訓練がきついかお昼までお腹が持たないからニャ」

食堂でご飯を出す時間は決まっている。

もしそれを過ぎた場合、たとえ団長であるリュートでも食事を摂ることはできない規則だ。

食べ逃した場合は我慢するか、自腹で買って仕事開始までに詰め込むしかない。

アリーシャの言葉にミラが顔をしかめる。

「今日ってクリス隊長の訓練日だもんね……。アリーシャはまだいいじゃない。私は射撃が得意じゃないから、本当に今から憂鬱よ」

靴ひもを結び終えたミラが頭を抱えて俯く。

アリーシャとミラは古参の団員なため、厳しい訓練も修羅場も乗り越えてきた。

特に初期は人数が足りず、『全ての技能を団員に叩き込む』のが当然だった。

人数が増えて、適正によって技能を習得させるようになったのは、つい最近の話である。

新人はともかく、全ての技能を団員に叩き込まれた最古参の団員達は、腕が錆びないように定期的に各種訓練をおこなう決まりになっていた。

当然、アリーシャとミラもである。

ミラは狙撃の才能が無いのかあまり得意ではない。

むしろ、見た目に反して腕力があるせいか格闘技術に才能がある。また体力があり、足腰も強いため荷物を持っての長距離移動も苦にはしない。

ただ狙撃の才能が無いだけである。

もちろん、訓練のお陰で一定水準は保っているが。

「でもクリス隊長は求める基準が高すぎるから」

「あぁー分かるニャ。クリス隊長の求める水準は自分基本だから高すぎるニャー」

クリスがおこなう狙撃訓練は前世、アメリカ海兵隊の狙撃訓練と同じである。

バラバラに設置されたターゲットを短時間に次々狙撃していくというものだ。

通常、狙撃は風を読み、距離を測り、集中して行う。

この訓練はより実践的で素早くボルトを前後させ、正確に、1発で敵を仕留めることを要求する。

クリスは訓練の際、課題をクリアするまで延々と繰り返させるのだ。

また他にも状況に合わせた狙撃訓練をおこなう。

アリーシャは意外と射撃技術が高い。

あまり得意ではないミラは居残り授業のごとく、他の団員よりも長時間訓練をする嵌めになる。

しかも問題は、どれだけ求められる要求が高くても、クリス自身がそれをあっさりと達成してしまうため文句が言えないのだ。

これで本人がクリアできなければ文句の一つもつけられるのだが……。

「さらに質が悪いのことに、クリス隊長が可愛いから憎もうにも憎めないのが狡い! お姉ちゃんにも憧れたけど、あんな可愛い妹も欲しいわ」

「確かにニャ。うちもあんな可愛い妹が欲しいニャ」

「分かる、その気持ち凄く分かる。あんな可愛い子に、『頑張ってください』って応援されたら頑張るしかないよ。たとえどれだけ居残りで撃たされても……」

ミラが遠い目で過去を振り返る。

狙撃訓練で居残りさせられ、側で妹のように可愛いクリスに応援され続ける。

嬉しいのか、拷問なのか分からなくなる状況を思い出してしまう。

「…………」

「? どうしたの黙り込んで?」

遠い目をしていたミラだったが、アリーシャが黙り込んだことに気付いて声をかけた。

彼女は口を開きかけたが、閉じてしまう。

数秒考え込んだ後、再度口を開く。

「クリス隊長は可愛いニャ。でもその可愛いはウチらからすると、『妹にしたい』や『単純に可愛い』って感じニャね?」

「そうね。そういう感じね」

「……でも新人団員の中で、そうじゃないのが居るニャ」

「…………マジ?」

「マジニャ。クリス隊長と話をするたび、発情している匂いがするニャ」

アリーシャがクリスに発情する団員の名前を挙げる。

ミラはその名前を聞いて、顔を思い出す。

アリーシャは獣人種族、 猫人(ねこびと) 族でスノーほどではないが鼻が利く。

2人のやりとりを側で聞いて、新人団員が発情した匂いに気付いたらしい。

「てか、あの子、お風呂とかでよく背中を流してもらっていたんだけど! なんか懐いてきてたから先輩風吹かせて私も色々面倒見てたんだけどつまり、それって……」

「そうニャ。ミラに発情した匂いを少し出していたニャ。たぶんミラやクリス隊長系の子が好みなのニャ」

ミラは再び頭を抱える。

「知りたくなかったそんな情報……。これからあの子にどんな顔して会えばいいか分からないじゃない」

「だと思って言わなかったニャ。それにミラにも発情していたけど、それほどじゃないニャ。メインはクリス隊長ニャ」

つまり、彼女の直球で好みなのがクリスらしい。

「……ねぇ、それってマズくない? 団長か、クリス隊長本人に報告しておいた方がよくない?」

ミラ自身は情報を得たため、以後はなるべく避けるようにしたり、警戒し、自己防衛すればいい。

しかし何も知らないクリスの場合、最悪、押し倒される可能性もある。

だが、アリーシャは首を横に振った。

「たぶん大丈夫ニャ。あの子も軽率なマネはしないニャ。下手なことしたらここに居られなくなるどころか、リュート団長達に命を狙われるからニャ。それにクリス団長は遠距離だけじゃなくて、近距離の格闘技術もレベル高いニャ。新人団員なんて相手にならないニャ」

「そういえばそうね」

ミラは思い返す。

彼女は見た目に反して格闘技術に才能があるが、クリスはそれ以上だ。

訓練で何度も1対1で戦ったが、まず触れることすらできない。

クリスは目が良すぎて、こちらの行動を全て見抜き先手を取って触れる前に倒されてしまう。

クリス一人に対して、複数人数で挑んでも場合によって全て回避されて倒されることもあった。

「私達が心配するだけ無駄ね。遠距離も近距離も強いとか、クリス隊長って見た目に反して怪物じゃない……」

「正直、あの子も怖いけど、クリス隊長も怖いニャ」

ミラ、アリーシャは無言で目を合わせて頷き合う。

2人とも『クリス隊長には絶対に逆らわないでおこう』と確かめ合ったのだ。

雑談を終えた2人は、部屋を出る。

向かう先は朝食を摂る食堂だ。