軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第442話 軍オタアフター 鮮魚メイン、新婚・カップルラブラブ特別コース

女性陣が風呂場から上がってきたので、食事について話をする。

間食として湯の町リリカーン名物の茶菓子を食べたが、さすがに量的に少ない。

オレを含めた全員が徒歩&馬車移動もあったため、お腹が空いているのですぐ食べたいと希望を出す。

シアは一礼すると、部屋を出てオレ達を食堂へと案内する。

食堂は現在居る室内と、挨拶を受けた屋敷にも存在するらしい。

今回は身内のみのため現在居る室内の食堂を利用する。

部屋の奥へ行くと潮風を全身で浴びられるバルコニーがあり、その手前に食堂が存在した。

天気が良ければバルコニーにテーブルを出し、食事も出来る。

下は崖だが、その分、空と海の青さ遮るモノがない吹き抜ける潮風を浴びることができる。

そんな絶景の場所なら、どんな食事でも美味しく食べることができそうだ。

とはいえ現在は夜間で、オレ達は風呂から上がったばかりだ。

体を冷やし過ぎて風邪を引いても不味いため、窓は締められていた。

宿に滞在中、機会があればバルコニーに出て日光を浴びながら食事がしたいものだ。

テーブルには人数分の椅子が準備されている。

すでに端にシア以外のメイドが待機しており、オレ達が椅子に座ろうとすると音もなく近づき椅子を引いてくれる。

席に座ると、食堂の奥から料理を載せたワゴンが運ばれてくる。

どうやらその部屋の奥に、ワゴンごと乗せて移動できるエレベーター的なモノがあるようだ。

銀色の蓋がテーブルに並び、次々開封されていく。

小魚のフライに、魚のパイ。

魚や貝をトマトで煮込んだようなモノ。

意外だったのは茹でた蛸と魚の切り身を薄切りにして並べたカルパッチョ的な料理があった。

さすがに刺身はなさそうだ。やはりこの世界ではまだ生食は難しいらしい。

醤油がないため、たとえ刺身があっても美味しくはないだろうが。

海の幸だけではなく、山で取れたキノコと山菜が並ぶ。

他にも川魚を使った料理。

今までみたことがないたぶん手が込んでいる料理などが並ぶ。

どれも見た目だけではなく、匂いが良く胃が空腹でキュッと動くのを自覚する。

ただテーブル中央がぽっかり空いているのが気になった。

もちろんわざとあけているのだろう。

シアが言っていた『鮮魚メイン、新婚・カップルラブラブ特別コース』という頭が痛くなるようなコースメニューにしては普通過ぎる。

恐らくあの中央に置かれる料理こそが、このコースのメインなのだろう。

疑問を感じてすぐに、ワゴンに乗せられた銀の蓋をされた大皿が運ばれてくる。

どうやらこれがメインらしい。

メイド二人が器用に連携して、大皿を中央に乗せる。そして被せられた銀の蓋を、もったいぶることなくあっさり取り外した。

「ッ!? これって……」

驚き息を呑んだのはオレだけではない。

妻達も同じように驚きを露わにする。

メイン料理は肉だった。

つみれに唐揚げのような物、焼き物、蒸してソースをかけた料理など多数あるが、一番目を引くのは甲羅が浮かぶ鍋料理である。

比喩や冗談ではなく、鍋に嫌がらせのように亀の甲羅が浮いているのだ。

シアや他メイドの態度から、調理ミスではないらしい。

妻達も『え? これ食べられるの?』という顔をしている。

シアは皆の困惑した視線を浴びつつも、フラットな態度を崩さず淡々と説明を開始した。

「こちらが『鮮魚メイン、新婚・カップルラブラブ特別コース』のメインとなりまずズッポンと呼ばれる亀を使った料理になります。こちらのズッポン料理は湯の町リリカーンで昔から食されており、精がつくと評判になっております。特に 白銀邸(はくぎんてい) では、裏山に飼育場を設置。宿でも使用している源泉を引き、エサにもこだわって丁寧に飼育させて頂いております」

彼女はまるで 白銀邸(はくぎんてい) で長年務めている従業員のごとく、堂に入った態度でよどみなく説明する。

シア、オマエはうちの護衛メイドではなかったか……?

「また環境やエサだけではなく、当宿ではさらに魔術師、魔術道具を活用しより高品質なズッポン作りに力を入れております。おおよそ通常のズッポンに比べ、2倍以上の効果が得られることが実証されております。ご宿泊してくださったお客様からも『とても精がつく』とご好評を頂いております。『とても精がつく』と」

最近、シアの中では2回言うのが流行っているのだろうか?

一方、嫁達はというと、最初こそ『ズッポン料理』にドン引きしていたが、シアの説明を聞いた後、興味深そうに料理を眺めていた。

料理の見た目は変わっていないのに、嫁達の反応はほとんど180度変化する。

「お食事の前の食前酒も、料理に合わせて特別なモノをご用意させて頂きました。ズッポンの生き血を酒精で割った『ズッポンワイン』となります」

シアの解説に合わせて、メイド達がオレ達の前に食前酒『ズッポンワイン』を置いていく。

食前酒のため、量は多くない……オレのを除いてはだ。

妻達はショットグラスに対して、オレだけが普通のコップサイズで出してくる。

「……オレのだけ多くないか?」

「サービスでございます」

またオレの後ろにあるワゴンには、お代わりようの『ズッポンワイン』が大ジョッキサイズで置かれている。

「な、なぁシア、これって」

「サービスでございます」

サービスって言っておけばいいと思っているのだろうか?

シアの子供を作らせようとする気合いの入れ具合が可視化されたような気分だ。

だがお陰で理解する。

この 白銀邸(はくぎんてい) は温泉で血行を良くして、スッポン――ではなく魔術師&魔術道具で強化したズッポン料理を食べさせることで、『子宝の湯』という名誉を勝ち取ってきたのだろう。

確かに効果がありそうだが、この宿に滞在中はずっと『ズッポン料理が続くのか』と考えると頭が痛くなってくる。

しかし、料理に罪はない。

説明が終わったところで冷めないうちに手を付ける。

カンパイしてから、『ズッポンワイン』を口にする。

前世、日本で暮らしていた時、この手の物があることは知っていたが、実際酒精で割っているとはいえ生き血を飲むことに抵抗を覚える。

意を決して口を付ける。

新鮮なためか血の生臭さはない。食前酒のため度数が高いわけでもないので非常に飲みやすくはある。

飲み下すと、舌に鉄臭さが微かに残った。

「ッッゥ!」

ズッポンの効能か、胃に届くと体中がすぐに熱くなる。

温泉で血行が非常によくなったせいか、爪や髪の毛の先まで広がっていると錯覚してしまう。

「リュートくん、リュートくん、せっかくだから料理とって上げるね!」

「あ、ありがとう、スノー……」

スノーは席から立ち上がり、喜々として中央にある『ズッポン料理』に手を伸ばす。

彼女はズッポンの唐揚げを皿に盛る。

『私もお料理を取ります!』

「私もリュートさんの妻として、料理をとりわけますね」

「わ、わたしもリュートさまにお料理を取らせてください」

「当然! 妻としてわたくしにもお任せください!」

クリス、リース、ココノ、メイヤも迷わず『ズッポン料理』を手を伸ばす。

誰もオレの要望を聞かず、周りにある美味しそうな鮮魚料理に目もくれず『ズッポン料理』へと突撃する。

ちなみにクリスはつみれ。

リースは蒸し焼きのソースがけ。

ココノは季節の野菜と焼き物。

なぜかメイヤは鍋の甲羅を皿に盛る。

甲羅なんてグロイだけで食べるところ皆無じゃないか。どうしろっていうんだよ。

妻達がオレの目の前に取り分けた料理を並べる。

個人的には新鮮な鮮魚を食べたいのだが……この分だと『ズッポン料理』だけでお腹が一杯になりそうだ。

「若様、おかわりはまだまだありますので遠慮無く仰ってください」

シアは半分ほど減ったコップに新たな『ズッポンワイン』を限界まで継ぎ足し、目をキラリと光らせ断言してくる。

……どうやらオレに逃げ場はないらしい。

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その日の夜。

湯の町リリカーン沖合で一隻の漁船がまだ日も昇らない早朝、漁へと出ていた。

船は湯の町リリカーンで使用されている一般的な漁船だ。

そんな漁船が、あっけなく海へと沈む。

まるで小枝を折るように『ぐしゃり』と真ん中から折れて、引きずり込まれるように海へと沈んでいく。

1人の漁師が浮かぶ板きれに掴まりながら、沈む船の様子を呆然と見守っていった。

まるで悪夢の中にいるような感覚でだ。

後に彼は無事に救助され『巨大な怪物に襲われた』と証言したのだった。