作品タイトル不明
第436話 軍オタアフター ルナの新兵器?
「リュートさん、ちょっとよろしいですか?」
「……どうしたんだリース、改まって」
結婚式を数ヶ月前に控えた午後。
執務室で書類仕事をしていると、妻の一人であるリース・ガンスミスが護衛メイドであるシアと共に部屋を訪れる。
その表情は憂いを帯ており、不安の影が胸に差し込む。
まさか結婚式を前に『マリッジブルーになったので、やはりこの結婚はなかったことに……』とか言い出すのか?
いや、だが、もうすでにオレとリースは結婚しているし、2人の仲は良好だ。
第一、マリッジブルーの気配なんて微塵もなかったはずである。
では他に問題でも起きたのか?
オレが不安を胸に抱えながら彼女の言葉を待つ。
リースは柳眉を下げて切り出す。
「実はここ数日、ルナの姿を見ていなくて。シアの話では研究所に引きこもっているらしくて。連れ出そうにも『研究の邪魔!』と言われて追い出されるのです。なので体を悪くする前になんとか連れ出したいのですが、わたしだと口で言い負かされる可能性があるのでリュートさん、一緒に付いてきてくださいませんか?」
なるほど、そういう用件か……。
マリッジブルー云々と言い出されずに済んで安堵する。
しかし、おかしな話もあるものだ。
「もちろん、そういうことなら喜んで一緒に行かせてもらうよ。でも、変だな……今は結婚式も間近だし、忙しいから根を詰めて研究をする案件なんてなかったはずなんだけど」
ルナには大型兵器の開発・研究を任せている。
他の団員達や皆は結婚式パレード準備で忙しいが、ルナには何の仕事も振っていない。
任せられる案件が無いともいえる。
ルナは魔術師で、完全記憶能力という個人チートまで所持している。
だが、気分屋で興味がある分野にしか、十全にその力を発揮しない。
なにより結婚式パレードにルナの能力を生かす場が無いのだ。
そのため最近は忙しいこともあり、放置気味だったのだが……。まさかリースが心配になるほど姿を現さず、研究所に篭もっていたとは。
「よし、善は急げだ。早速、ルナの所へ行こう!」
「ありがとうございます、リュートさん!」
「お手を煩わせて申し訳ございません、若様」
「2人とも気にする必要はないよ。義妹のためだし、オレ自身、最近ルナと顔を会わせてなかったから様子を見たいしね」
オレは処理途中の書類を放置して席を立つ。
書類仕事も大切だが、義妹の安全確認には代えられない。
オレ達は早速、ルナが居る研究所へと足を向けた。
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ルナが居る場所は新・純潔乙女騎士団本部グラウンド隅にある第2研究所だ。
大型兵器の開発と研究をメインにしているため体育館レベルで大きい。
さらに研究所は機密情報秘匿のため窓が無いため魔術光を付けないと中は暗く、見辛いのだ。
オレが所持するマスターキーで研究所の扉を開く。
魔術光をつけると、研究所内部が隅々まで照らされた。
ハンヴィー(擬き)、 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 、レシプロ機(擬き)、各種砲弾や 燃料気化爆弾(FAEB) 、バンカーバスター。
PEACEMAKER(ピース・メーカー) が扱っている大型兵器が集まっていた。
その光景はなかなかに壮観である。
そんな研究所の奥。
片隅には異常に物が置かれて――いや、散らばっていた。
服に本、魔術液体金属が入っていただろう樽、コップ、食べかけのお菓子、靴下、タオル、アクセサリーに白衣、ぬいぐるみ、着ぐるみ頭部、作業着、工具、魔石、なぜかウォッシュトイレの便座蓋があった。他にもごちゃごちゃとした物が多数ある。
さらに気になるのは奥の奥。
ごちゃごちゃと金属の塊が積み重なったり、部品が散らばっていた。
AK47のようだが……形が違う。
明らかに全体が短くなっている。
「もうルナったら! こんなに散らかして!」
リースがぷりぷりと怒り、散らばった靴下、シャツ、衣服を中心に拾い集め始める。
その姿は一国の王女ではなく、休日、娘の汚れた部屋を前にした母親のような態度だった。
オレは思わず苦笑してしまう。
リースがジト目を向けてきたので、誤魔化すようにルナの姿を探した。
研究所に引きこもっているという話だったのだが、彼女の姿はどこにも……。
「姫様、若様、あちらをご覧下さい」
ルナの姿を探していることに気付いたシアが、一角を指さす。
そこには薄汚れた毛布が集まっていた。
良く目を凝らすと、毛布の間だから細く白い何か出ている。
「……もしかしてあれって、ルナの腕か?」
「りゅ、リュートさん、ど、どうしましょう!? ルナが、た、倒れて……ッ!」
「落ち着けリース。根を詰めすぎて寝ているんだろう。うるさくすると起きちゃうぞ」
オレの指摘にリースが両手で可愛らしく口を押さえる。
しかし、どうやら遅かったらしい。
もぞもぞと毛布が動き、尖った耳に薄汚れた顔、何日も洗っていないぼさぼさの髪のハイエルフ――ルナが顔を出す。
一目で何日も風呂に入っていないことが分かる。
「お姉ちゃん、リューとん? どうしたの急に来て。何かあったの?」
「何かあったじゃないでしょ! 貴女、一体どれだけここから出ていないの! だいたいルナは一度夢中になると周りの目も気にせず――」
『ギュルギュル』とここまで聞こえてくる腹の音が鳴った。
発生源は当然、ルナである。
あまりに大きな腹の音にリースの説教が途中で止まったほどだ。
発生源であるルナはマイペースに、
「お姉ちゃん、リューとん、お腹減ったんだけどなにかお菓子持ってない? 後、喉も渇いたから水ちょうだい。できれば果実水がいいなー」
「――ルナぁぁっぁぁぁぁあッ!」
あまりの態度に当然、実姉のカミナリが妹に落ちたのだった。
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リースの説教後、食事前にルナを風呂に入れて着替えさせられる。
その間にシアが食事の準備。
2人が風呂から上がり、着替えを終えて戻ってきたところでちょうど料理ができあがった。
オレ達は本部食堂でルナの食事姿を眺めながら、彼女から話を聞く。
「つまり、新しいアサルトライフルの研究・開発してたってことか?」
「うん、そうだよぉー」
もぐもぐとシア特製パスタ&スープを食べながら、ルナが軽い調子で答える。
まさか新しいアサルトライフルとは……。
「 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) 以降、新しい団員が増えたでしょ。なかにはルナより小柄な子も居て、AKが扱い辛いっていう声がちらほらあったんだよ。将来的に 軍団(レギオン) もまだまだ拡大するでしょ? だから、そういう子達専用の小型アサルトライフルを開発できればと思ってちょこちょこ研究してたんだけどなかなか上手くいかなくて」
『背丈や手足が小さいためAK47が扱い辛い団員がいる』という話は情報担当のミューアから文書で上がっていた。
今はまだ少数のため、労力を割くことができず後回しにしていたが、まさかルナが先に手を付けていたとは……。
彼女も軍団の中では小さい分類になる。
だから、AK47が扱い辛いという子達気持ちが理解でき、なんとかしたかったのだろう。
また何より『この異世界の住人』であるルナが、どんな思想でアサルトライフルを作り出そうとしているのか興味が湧いた。
オレはスープを行儀よく飲むルナへと尋ねる。
「上手くいかないってことは試作品はあるんだろう? もしよかったら見せてくれないか。アドバイスが出来るかもしれないし」
「リューとんが忙しくないならお願いしてもいいかな? 最近は色々煮詰まっちゃって」
ルナは嫌がるどころか積極的に意見を求めてくる。
むしろ、オレを気遣って声をかけなかったらしい。
マイペースな性格だが、気遣いができない訳じゃないのだ。
「もちろん、喜んで協力するよ。むしろ、オレが考えないといけないのにルナへ押しつける形になって悪かったな」
「気にしないで、別にこっちは楽しくてやっているんだから。むしろ、下手に声をかけてお姉ちゃんとリューとんの邪魔しちゃ悪いしね。ルナのせいで2人の夜の時間が削れたら申し訳ないし」
「へ、変なこと言わずに黙って食べなさい!」
リースが真っ赤な顔で妹を叱る。
さすがのオレもルナの発言には微苦笑を浮かべるしかなかった。
ルナの食事が終わると、再びグラウンド隅にある第2研究所へと足を踏み入れる。
彼女は真っ直ぐ私物化している隅へ向かう。
鍵がかかる頑丈なロッカーを開き、一丁の銃を取り出す。
ルナは両手に抱えて、テーブルの上に銃を置いた。
「これが現在開発中の試作アサルトライフル『ルナちゃんスーパーアサルトライフル(仮)』だよぉ!」
『サイドカー』の時もそうだがルナのネーミングセンスは小学生男子レベルだよな……。
机に置かれた『ルナちゃんスーパーアサルトライフル(仮)』は今までの銃器とは違い奇妙な形をしていた。
AK47に比べて明らかに全長が小さく、なのに 銃身(バレル) が短い訳でもない。
弾倉が 引鉄(トリガー) より後ろにある。
AK47、MP5K、PKM等、今まで使用してきた銃器とは明らかに一線を画していた。
「なんだか変わった形ですね」
リースは素直な感想を漏らす。
オレはというと、
「『ブルパップ』か!? まさか『ブルパップ』にまで辿り着いていたなんて……」
「若様、『ブルパップ』とはなんでしょうか?」
オレはシアの質問に反射的に応えてしまう。
『ブルパップ』とは、 機関部(レシーバー) ――弾倉から 弾薬(カートリッジ) が押し上げられ、 薬室(チェンバー) に収まり、 撃鉄(ハンマー) によって 雷管(プライマー) が叩かれて銃弾が飛び出す部分がある。
いわば銃器の心臓のような場所だ。
今までの銃器は大きく分けて 銃身(バレル) 、 機関部(レシーバー) 、 銃床(ストック) の3つに別れていた。
『ブルパップ』は 機関部(レシーバー) に 銃床(ストック) の代わりをさせる。
つまり直線上に『 銃身(バレル) 、 機関部(レシーバー) 』の二つのみを配置することで、 銃身(バレル) を短くせず(短くすると命中率が落ちる)、全長を縮めるのだ。
前世地球では『ブルパップ』が登場したのが1970年代になってから。
14紀頃にヨーロッパで『タッチ・ホール式』の銃が作られる。
それから約5世紀かけて『ブルパップ』方式が出てきたことになるが、ルナは『銃』という存在を知り、たった数年でそこに辿り着いたのだ。
もちろん、前世地球とは状況があまりに違うため、一概には言えないが。
オレは話せる部分だけを3人に聞かせる。
ルナは一通り話を聞くと、頭の後ろで手を組み頬を『ぶぅー』と膨らませる。
「なんだリューとんも思いついていたんだ。ルナが最初だと思ったのにぃ」
彼女の指摘に思わず苦笑いを浮かべてしまう。
オレは前世の知識がある。答えを知っているから説明できるのであって、ルナのように一から発見、試行錯誤した訳ではない。
彼女の功績を横から掠め取る形になってしまった。
胸中で罪悪感を募らせていると、ルナは功績を横から掠め取られたことなど気にせず、好奇心で目を輝かせ尋ねてくる。
「ねぇねぇ、リューとん。先に思いついているなら、問題点とか分かってる? ルナじゃ解決できない問題がいくつもあるんだよぉ。アドバイスしてくれない?」
「もちろん、オレでよければ力になるよ」
彼女の勢いに飲まれ頷く。
了承を得るとルナは『ルナちゃんスーパーアサルトライフル(仮)』の問題点を次々に挙げていった。
一通り話を聞く。
問題点は以下の通りだ。
・ 機関部(レシーバー) を 銃床(ストック) の代わりにするため、耳元に近くうるさい。
・短くなって取り回し易くなったが、反動が強すぎる。
・弾倉が今までと違い位置が後ろにあるためとっさに抜き辛い。
・左利きの場合、空薬莢が顔に当たる。
以上だ。
まさに前世地球にあるベタな問題ばかりである。
ルナは独自に研究した解決案をまず話してくれた。
「音がうるさいのや反動が強いのは、 発射薬(パウダー) が多すぎるのが問題なんだよね。だから少なくて、かつ威力を落とさないためにどうすればいいか考えたの。今のAKで使っている7.62mm×ロシアンショートだと、弾丸が大きいから飛ばす際に 発射薬(パウダー) 量が必要になる。9mmとかならそこまで反動強く無いんだけど、でも9mmじゃ威力がちょっと低すぎて。だから色々弾丸サイズを研究していたの」
部屋の隅に積み上がっていた金属達は、弾丸サイズを変えて撃つために用意された『ルナちゃんスーパーアサルトライフル(仮)』達らしい。
ま、まさかルナは単独で『小口径高速化』の答えに辿り着いていたとは……。
小口径高速化とは、『弾丸を小さくして高速で物体に当てる』というコンセプトの 弾薬(カートリッジ) だ。
弾丸を小さくすれば発射された際、空気抵抗が小さく高速で物体に当てることができる。
しかも、当てさえすれば高速なので7.62mmと威力はほぼ変わらない。
アメリカ軍が初めて取り入れ、以後、世界の軍隊に広まっていった。
『小口径高速化』のメリットは――
・ 発射薬(パウダー) 、弾丸を小さくし物資の節約ができる。
・ 弾薬(カートリッジ) 一つの大きさが小さいため、従来より多数弾倉に装填することできる。
・アサルトライフル、マシンガンと同じ 弾薬(カートリッジ) を使うことで、それぞれに流用できる。
などなど、多数のメリットがある。
全世界的に『小口径高速化』になるのは必然だ。
他にもルナは『空薬莢排出口の変更』や『弾倉位置の変更』、『排出されるガスの処理』等の研究をおこなっていたらしい。
しかし、どれもなかなか上手く行かず行き詰まっているとか。
話や資料、実際に作った『ルナちゃんスーパーアサルトライフル(仮)』を見せられたが、未完成品と馬鹿になどできない。
試行錯誤、努力の跡があり、中には地球にはない面白く、有益なアイデアもあった。
このままルナ独自の銃器研究をするのも面白いと思うほどである。
ただ彼女は名誉や名声、お金、研究欲を満たすために取り組んでいるのではない。
小柄な団員達のため、扱いやすい銃器を研究しているに過ぎない。
またどうも完全に行き詰まっているとか。
「だからリューとん、どうすればいいか教えてぇ」
ルナは両手を組み、うるうるとした上目遣いで訴えてくる。
意地悪で教えないつもりはないし、オレ自身、小柄な団員達の問題は気になっていた。
ある意味ちょうどいい機会だ。
この際、ルナにアドバイスをして解決してもらう。
また彼女の研究内容には、今回作り出すのにちょうどいい『正解』に近いモノがあった。
その『正解』に近い構造の銃器を下地に、『小柄な団員達でも扱える銃器』の開発アイデア、アドバイスをルナへと説明する。
言葉だけではなく、構造や外装デザインを紙に分かりやすく書く。
一通り説明するのに気付けば数時間かかっていたが、ルナは笑顔でお礼を告げてきた。
「ありがとう、リューとん! これでなんとかなりそうだよ!」
その笑顔が見られただけで説明疲れも、執務室に残してきた仕事がまだある絶望感も忘れることができた。
説明にずっと付き合ってくれたリース、シアもルナの態度に微笑ましそうな笑みを作っていた。
――説明後。
結婚式パレードを終えて、数ヶ月。
ルナはオレの説明&アドバイスから『小柄な団員達でも扱える銃器』を完成させる。
実際の使用感を確認してもうらうため、 軍団(レギオン) でも小柄な部類に入るココノに試射を依頼した。
「では早速、試射させていただきますね」
ココノは『ルナちゃんスーパーアサルトライフル(仮)』改め――『FN P90』を構え、数十m先に設置された土的へ向けて 引鉄(トリガー) を絞る。
軽快な音を立て銃口から5.7mm×28が発射された。
ハンドガンにも流用できる5.7mm×28弾のため、筋力があまりないココノでもAK47に比べて圧倒的に撃ちやすい。
また全長が約504mmなので、やはりAK47に比べると扱いやすそうだ。
一通り撃ち終わり、ココノが感想を述べる。
「最初はあまりに変わった形だったので撃ちにくそうに思いましたが、実際使用したらまったくそんなことはありませんでした。AK47に比べると反動もきつくなく、音もうるさくなくて、取り回しし易いのがいいですね」
「ありがとう、ココノン褒めてくれて!」
ルナはココノに抱きつくと、頬を擦りつける。
日頃、彼女の過剰な親愛行動になれているせいか、ココノに戸惑いはなかった。
むしろ、さらに『FN P90』を褒める。
「本当に素晴らしい銃器だと思います。特にわたしはリュートさま達のように戦うことができず、ハンヴィーや乗り物内にいることが多くて。でもいざという時、AK47だと長すぎて取り回しが難しく、サブマシンガンも重くて……ハンドガンだと心細かったですが、このP90なら装弾数も多いのでとても心強いです」
ハンヴィーに乗っているココノまで戦う状況に陥ったら、ほぼ全滅状況だと言っていいだろう。
さすがにそうなる前に団長として撤退するつもりなので、そういう状況は訪れないだろうが。
しかし、ココノから望む答えが返ってきたため、『FN P90』が他小柄な団員達にも受け入れられる確信を得る。
個人的にも満足し気付くと腕を組み頷いていた。
なぜココノの返答に確信を得たかというと――まずはあらためて『FN P90』について説明する必要がある。
『FN P90』はベルギーの銃器会社、FN社が開発したブルパップの銃だ。
長方形の板を子供が適当に削ったり、くりぬいたり、弄ったりしたような独特な形をしている。
悪ふざけでこのような形をしているのではなく、人間工学に基づいて作られているのだ。
前世日本で『FN P90』のモデルガンを所持していたが、とても持ちやすかった。
特徴のある形をしているため『FN P90』は漫画やアニメ、小説等によく使われている銃器の一つだ。
ちなみに『FN P90』が有名になった切っ掛けは、ペルー日本大使公邸占拠事件で突入する特殊部隊員が持っているのがテレビに映ったためである。
本、テレビ、ネットかは覚えていないが、突入する前に『FN P90』が特殊部隊員に配られた。
しかし、使い慣れていない新銃器を突入時に使えと言われ特殊部隊員達から大ひんしゅくを買ったとか、買わなかったとか……。
そういうエピソードがあったらしい。
話を戻す。
『FN P90』はブルパップだが、使用している技術はブローバックとクローズド・ボルトだ。
まず『ブローバック』とは、弾丸発射後の 発射薬(パウダー) のガスで次弾を装填する方式のことだ。
オートマッチクの銃器は発射後の 発射薬(パウダー) のガスを利用して、手を使わずに次弾を装填・発射する。
ガス圧を利用して色々な次弾を装填する方法や技術が存在するが、その中でも『ブローバック』は最も単純な方式だと思ってもらえればいい。
『クローズド・ボルト』は、MP5にも使われている技術だ。
つまり『FN P90』は見た目の割にそこまで特殊な技術が使われている訳ではない。
実際、ルナは『ブローバック』と『クローズド・ボルト』を組み合わせた試作品を作り出している。
しかし上手くいっていなかった。
理由は給弾システムで、空薬莢がどうしても普通の銃器のようにしか出せず失敗作扱いしていたのだ。
オレはこの失敗作を掘り起こし、ルナにアドバイスをしたのである。
では、参考にした『FN P90』の空薬莢はどこから出てくるのか?
正解は下からだ。
全長の真ん中よりやや後方部分の下から空薬莢が出てくる。
そのためブルパップで問題になる左利きの人物は空薬莢が当たるため使用が難しい――という問題をクリアしているのだ。
ではどうやって空薬莢を下へ出しているのか?
ポイントは 弾倉(マガジン) にある。
『FN P90』の 弾倉(マガジン) は本体に対して水平、つまり90度になっている。
次弾を給弾する際、押し出された弾が90度回転して装填される。
通常の銃器は下から 弾倉(マガジン) を刺し、発砲後、ガスを利用し次弾を装填する際、空薬莢は上に排出する。
『FN P90』の場合は、上から 弾倉(マガジン) を設置し発砲後、ガスを利用し次弾を装填する際、空薬莢を『下』に排出しているのだ。
これによりブルパップで問題になる空薬莢問題を解決した。
まさに目から鱗の解決方法である。
「わたしのような小柄な者からするととてもありがたいのですが、このP90を使ってもよろしいのですか? AK47に混じってP90を使用したら、団員達も混乱すると思うのですが」
ルナに抱きつかれたまま、ココノが質問してくる。
彼女の心配はもっともだ。
AK47に混じって、他銃器であるP90を使う者が居たら混乱のもとになる。
しかし、それに関してはすでにルナとの間でも解決済みだ。
「大丈夫、心配いらないよ。今の所、P90を使用する人材は後方任務に就く者限定にする予定だから」
「元々『FN P90』はそういう人材向けに考えられたPDWらしいよ」
「PDWですか?」
ルナの言葉にココノが可愛らしく小首を傾げる。
PDWとは『Personal・Defense・ Weapon(パーソナル・ディフェンス・ウエポン) 』の略だ。
ではPDWとはどんな武器なのか?
例えば『FN P90』はPDWである。
実際、発売する会社が最初は商品名にPDWと入れていたほどだ。
『FN P90』はハンドガンの 弾薬(カートリッジ) を多数発砲することから、サブマシンガンと思うかもしれない。
実際、前世地球の銃器雑誌で『FN P90』は、サブマシンガンの分類に入れられていた。
つまりPDWとはサブマシンガンのことなのか?
厳密に言うと違うモノである。
PDWはアサルトライフルとサブマシンガンの真ん中、中間にある銃器のことだ。
前線で戦うだけが兵士の役目ではない。
後方で整備や通信を担当したり、パイロットや戦車を操縦する兵士も存在する。
そういう兵士の場合、アサルトライフルは長すぎて邪魔だった。
とはいえサブマシンガンは以外と重量がある。
ハンドガンだと火力が足りない。
そんな兵士のために作り出されたのがPDWだ。
小型で取り回しがきき、軽く、弾数があり、敵のボディアーマーを貫通する威力がある銃器。
使用する 弾薬(カートリッジ) を小口径高速化することで、ボディアーマーを貫通する威力を手に入れ、ブルパップを採用し 銃身(バレル) を短くすることなく短縮化、部品にプラスチックを使うことで軽量化に成功する。
今回製作したP90は、全て魔術液体金属製だが。そのためP90の特徴ともいえる透明の弾倉の開発はできなかった。
耐久性を吟味しつつ、なるべく軽量化を心がけたため本来のP90とほぼ変わらない重さになっているはずである。
こうしてPDWと呼ばれるまったく新しいコンセプトの銃器が完成したのだ。
ココノが発砲後、感想を述べた時に、オレは確信を得た。
後方メインに活動するココノが『FN P90』を気に入ったことから、PDWが受け入れられると確信したのだ。
クリスや他前線に立つ小柄な団員に試射を頼まなかったのも、PDWは後方メインの人材に最初は広げる予定だったからだ。
やはり前線で 弾薬(カートリッジ) に互換性が無い銃器を投入するのはまだ早計である。
オレは説明できる部分だけPDWの解説をした。
ココノが納得し頷く。
「なるほどPDWとは、わたしのような後方の人向けの銃器なのですね」
「本当は小柄な団員全員が扱えるのを開発したかったんだけどねぇ」
「ですが、後方だけとはいえこのPDW、『FN P90』があるのはありがたいです。改めてありがとうございますルナさま、リュートさま」
ココノの純粋なお礼の言葉に、ルナは再び照れた笑いを浮かべる。
ルナは改めて拳を固く握りしめ声をあげた。
「次こそは前線でも後方でも、それこそスナイパーライフルやマシンガン代わりにも使える銃器を開発するよ! そして今度こそ『ルナちゃんスーパーマックスオールラウンドガン』って名前を付けるんだから!」
と、彼女は改めて目標を宣言する。
ルナの宣言を聞いてココノは笑顔でパチパチと応援の拍手を贈った。
オレはというとそんな2人を和やかな笑みで見守っていた。
しかし、ルナの目標はいつか達成することができるのだろうか?
彼女が目指す銃器は前世地球上にも存在しないものだ。
オレはまだ見ぬ『ルナちゃんスーパーマックスオールラウンドガン』をついつい夢想してしまう。
そして今、唯一分かることは……相変わらずネーミングセンスが酷いとうことだ。