軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第430話 タイガの旅立ち?

午前中、嫁達が集まり会議をしていた。

議題は『結婚式準備』だ。

会議室の上座にオレが座り、左側にスノー、クリス、ココノ。

右側にリース、メイヤが座っている。

当然、シアは給仕として動いていた。

準備はちゃくちゃくと進んでいるのだが……問題があるとするなら結婚式の規模が滅茶苦茶大きく、派手になっていた点だろう。

オレは初めて目を通す当日スケジュールと概要に再度目を通した。

「め、メイヤ……これはちょっと派手過ぎないか?」

個人的な結婚式イメージは教会で誓いをして、その後、披露宴をするというものだった。

しかし書類に書かれている結婚式計画は街を挙げてのイベントになっている。

まず新・純潔乙女騎士団本部からウェディングドレス姿の嫁達&正装したオレが馬車を改造した荷台上に乗り、天神教会まで移動。

その際、音楽を奏でる楽団と正装した団員達に挟まれて移動する。

到着後、教会で誓いの儀式。

教会を出た後は祝砲として 8.8cm対空砲(8.8 Flak) 空砲を発砲し、再び馬車に乗って最初とは違うルートで新・純潔乙女騎士団本部へと帰還する。

帰還した後は街をあげて歌え、踊れ、飲め、祝えの大宴会が開催することになっていた。

街をあげての宴会はいい。

街の人々にも色々お世話になったし、大勢の人々に祝福されるのはいいことだ。

しかし見せ物じみた真似はどうだろうか?

部隊に指示を出すのには慣れているが、大勢の前でにこやかに手を振り移動するのはさすがに初めての経験である。

まるで前世、テレビで観た祝勝パレードのようだ。

もちろんオレ&メイヤが費用を出すことになっている。

オレは二度見してから、目頭を押さえて今回の計画責任者であるメイヤに問いかけた。

「メイヤ、この計画書なんだが、街規模でやる必要はあるのか? もう少し落ち着いた感じにした方がいい気がするんだが……」

「そうですか? スノーさん達の意見を聞いて、これでも大分押さえたつもりなのですが」

街レベルで『大分押さえた』のか!?

オレはついスノー達に視線を向けてしまう。

彼女達は微苦笑を漏らし同意する。

「最初、メイヤちゃんが出した内容は世界規模だったんだよ」とスノー。

『各大陸を1年間回り結婚式を皆に祝ってもらう壮大な計画でした』とクリス。

「皆に祝って頂くのは嬉しいのですが、体力的に大陸全部は難しくメイヤさまには妥協して頂いたのです」とココノ。

「体力面だけではなく、時間的にも厳しいですからね。世界を回るのは……」とリースが頷いた。

「わたくしとしては魔王を倒した勇者で、世界を救った英雄でもあるリュート様が世界中で祝福されるのは当然だと思うのですが。資金的にも問題はありませんし。ですが、わたくしだけではなく、皆さん全員でおこなう結婚式ですから、我が儘ばかりはいえませんわ。ですので街規模に妥協したのです」

最後はメイヤが締めくくる。

もしスノー達が止めていなければ確実にメイヤは世界規模で結婚式をあげる計画を実行に移しただろう。

実際に世界規模で結婚式を挙げられる資金、人手、ツテがあるのから厄介だ。

オレがメイヤの考えを甘く見ていたことを反省していると、スノーが嬉しそうなほやほやした笑顔を作る。

「でも世界規模ではともかく、街のみんなに祝ってもらえるなんて嬉しいよ」

『ですね。私達の結婚式を皆さんが祝ってくれるなんて嬉しい限りです』

スノー、クリスだけではなく女性陣ははしゃいだが声をあげた。

身内や友人だけではなく、大勢の人々から祝われるのは恥ずかしいが、嬉しいくもあるらしい。

前世、日本のネズミ遊園地で結婚式をするのが人気だと小耳に挟んだことがあるが、あれに近いモノなのかも知れないな。

オレ個人としては嬉しいより、恥ずかしい気持ちが強い。

しかし、嫁達が幸せならそれで満足だ。

断ることなどできない。

大人しく街中でパレードをする覚悟を決めておこう。

「了解、了解。それじゃこれで計画は進めよう。ちなみにパレードするのはいいとして楽団はどこから連れてくるんだ?」

「 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) でお世話になった彼らに頼むつもりですわ」

「ああ、彼らか……」

メイヤが懇意にしている楽団で、 大々祭(だいだいさい) で急遽仕事を依頼した。

その金額が異常に安くて、バーニーが喜ぶより『何か裏でもあるのでは?』と頭を悩ませていた楽団か。

あれ以降、何か問題が起きたわけではない。

技術力の高さは実体験済みだ。

彼らが担当してくれるならありがたい。

オレは他の質問に取り掛かる。

「料理に関してだけど――」

「材料の搬入に時間がかかると思われますので――」

と、オレ達は午前中、結婚式計画の話をおこなった。

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話し合い後、昼食を皆で摂ると、オレは一人執務室へと向かう。

午前中は会議に使ったので午後は、書類仕事を済ませなければならないのだ。

廊下を歩いていると、意外な人物が待ち構えていた。

彼女の姿に気付くと、思わず足を止め驚愕の表情を作ってしまう。

その人物とは――

「た、タイガ! 部屋から出られるようになったのか!? しかも、その恰好は……」

「心配を掛けたね、リュート・ガンスミス」

魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) 、タイガ・フウーは、ギギさんに告白。振られてしまう。

振られたのが原因で受付嬢さん問題が終わった後、新・純潔乙女騎士団本部の客室に引きこもっていた。

しかし、今は部屋から出ただけではなく旅マントにフードを被り、手には口元を縛った袋を手にしている。

見た目は完全に旅人である。

タイガはオレの視線に気付き、引きこもって窶れた顔で自嘲気味に微笑む。

「僕はギギさんを好きになった。そしてリュート・ガンスミス達のようにエルお姉ちゃん、ソプラ、フォルン、孤児院の皆と一緒に仲良く暮らせればいいと思っていた。けど、それは叶わなかった」

「タイガ……」

「そんな顔をしなくても大丈夫。もう誰も恨んでなんかいないから。そういうのは部屋で出し尽くしたよ」

今度こそ彼女は自嘲する。

「過去を悔やんでもしかたないし、今を恨んでも意味はない。だから、僕は前に進むことを選んだ。新しい目的――これから前に進むための自分探しをするために、旅に出るよ」

自分探しの旅か……。

そういえば昔、受付嬢さんも『自分探しの旅に出る』って言って旅だったよな。

邪推するなら、オレ達の結婚式にエル先生達が来るということで、顔を会わせ辛いためココリ街から出るつもりなのかもしれない。

しかし、そんなこと口が裂けても言えない。

タイガは十分傷ついている。その傷に塩を塗り込むようなマネなどできる筈がない。

常識を持っていたらまずできないだろう。

もしやるヤツがいるとしたら鬼畜か、外道の類だ。

オレはもちろん違うため、気付かないふりをする。

「お世話になったから黙って出るのも不味いと思ってさ。だからリュート・ガンスミスに挨拶だけでもと待っていたんだ」

「気を遣ってくれてありがとう。けど、もし世話になるのが申し訳ないとか考えているなら違うぞ。いつまでも居て良いし、ホワイトさんのように団員達の指導員になってもらってもいいんだぞ?」

ホワイトさんは歌と踊りだけではなく、魔術師の団員に魔術指導をおこなってもらっている。

……感覚的な表現が多いのであんまり役には立っていないが。

しかしタイガは孤児院で教えていたこともあり、指導員として問題無いはずだ。

この申し出に彼女は微苦笑で首を横へと振る。

「誘ってもらえて嬉しいよ。けど、リュート・ガンスミス達のように人々を助けながら、世界の広さを目にしつつ自分を探す旅にも出たいんだ」

「そうか……。だがいつでも戻って来てくれていいんだからな」

孤児院に戻れない分、この本部が代わりになればいいと言外に込めた。

タイガも意図を察し礼を告げる。

「本当にありがとう……リュート・ガンスミス……。今回、お世話になった借りはいつか絶対に返すよ」

「貸し借りで言うならこっちがタイガの世話になったんだ。むしろ、タイガに対する借りの方が大きいぐらいだ」

「確かに」

受付嬢さんとの一件を思い出し、彼女はようやく普通に笑みを零す。

オレも釣られて笑ってしまう。

一通り笑い終えると、タイガが自然と手を差し出してきた。

オレも迷わず手を取り、強く握り返す。

「それじゃ行ってくるよ。皆にはよろしくと伝えてくれ」

「分かった。夜盗や魔物の心配はしてないが、体調には気を付けろよ」

手を離すと、タイガは足下にある荷物を掴む。

「旅に出ると言っても、リュート・ガンスミス達の結婚式までには一度戻ってくるよ。影ながら祝福するから」

「気が変わったら教会に来てくれ、席は空けておくよ」

タイガは何も答えず曖昧な笑みだけを作る。

彼女は肩に荷物をかけると、背を向け皆に見つからないよう裏口を目指す。

オレだけが、彼女を見送る――はずだった。

「あれぇ~、そこに居るのはリュートとタイガじゃない」

声に振り返ると、廊下の先には瓶を片手に持った兎耳、アルさんが立っていた。

「く、クズアル!? どうしてここに!」

タイガはアルさんの姿を気付くと、驚きの声をあげる。

彼女はずっと部屋に引きこもっていたため、アルさんが本部に居ることを知らなかったのだ。

アルさんとタイガを近づけないよう極力部屋を離していた。

しかし、今回別れを告げるためタイガ自身が部屋から出て物理的に近付いてしまったのだ。

不幸な遭遇としかいえない。

『クズアル』と指さされたアルさんが手にしているのは酒精の陶器瓶らしく、近付いてくるととても酒臭い。

この駄兎は昼間から飲んでいたようだ。

彼女は酒精で顔を赤くしながらも、しっかりとした足取りで歩み寄ってくる。

「いきなり顔を会わせて『クズアル』なんて酷いじゃない。あっ、聞いたよ、タイガってギギさんに告白して振られたんだよね?」

「ピィッ!?」

アルさんの言葉にタイガが聞いたことがない悲鳴を漏らす。

彼女は楽しげにけらけら笑いながらタイガへと追い打ちをかける。

「ねぇねぇギギさんに振られてどんな気持ち? 天下無敵の魔術師S級様が敗れるとか!」

アルさんはタイガを指さして笑うと、手にした酒精の陶器瓶に口を付ける。

「うんぐ、うんぐ、うんぐ……くぅ~他人の不幸で酒精が美味い! あらやだ、酒精が全部なくなっちゃった……。ねぇリュート、ダッシュで今から酒精のお代わり取ってきて、後一緒におつまみも~」

この駄兎は失恋したタイガを慰めるどころか、本人の目の前で振られた事実を笑い、あまつさえ酒のツマミにしやがった!

もう鬼畜とか、外道とかのレベルじゃないだろ!

タイガは涙目で右手を押さえつける。

「こ、この駄目兎ぃ……ッ! こ、殺す! 殺したい! で、でもエルお姉ちゃんの顔をした、血を分けた妹を殺すなんて……ッ。堪えろ、堪えるんだ!」

「こら、タイガちゃん! 女の子が『殺す』とか物騒な言葉を使っちゃ駄目でしょ!」

「ご、ごめんなさい、エルお姉ちゃ――ッぅ!?」

自身の内側から溢れ出る殺気、衝動を抑えていたタイガだったが、アルさんの『エル先生モノマネ』に引っかかってしまう。

タイガはオレと同じ過ちを犯す。

アルさんにからかわれたことに気付くと、タイガは怒りと羞恥心で顔を真っ赤にした。

その反応がアルさんをさらに喜ばせる。

エル先生の影響力が強い人物であるほど、アルさんは厄介な相手になってしまう。

特にオレやタイガのように強く恩義を感じる相手にとって、彼女は天敵だ。

本当にアルさんは下手な魔王より質が悪い。

さすがにこれ以上はタイガが不憫&可哀相過ぎるため、オレはアルさんの背中を押し遠ざける。

「もういい加減にしてください! 酒精とツマミなら、食堂に行けばありますから自分で取りに行ってくださいよ!」

「えぇ~だって私が取りに行ったら、渋られるじゃん。団長様ならそうならないでしょ?」

「だったら、今回はオレの名前を出していいですから! 早く行ってください!」

「ありがとう、リュート! リュート君、大好きよ!」

オレの許可を取ると、エル先生のモノマネでお礼を告げてくる。

エル先生と同じ顔、声でお礼を言われて、相手がアルさんだと分かっていても頬が緩む。

クソ! 本当に質が悪い!

上機嫌で食堂へと向かうアルさんを見送ると、オレは背後を振り返る。

彼女にからかわれたタイガはというと……壁に顔を近づけてブツブツと呟き続けている。

「大丈夫、自分は魔術師S級だし。自分は魔術師S級、 獣王武神(じゅうおうぶしん) 、タイガ・フウー。 獣王武神(じゅうおうぶしん) タイガ・フウー自分は強い自分は強いだから大丈夫 獣王武神(じゅうおうぶしん) タイガ・フウー魔術師S級――」

本部客室でタイガが何をしていたのか理解する。

ずっと彼女は自分の心を自己暗示、催眠をかけ奮い立たせていたのだろう。

本当に余計なことしかしないなあの駄兎は!

「!?」

憤っているとタイガに生きる目的を持たせ、なおかつアルさんに痛い目を見せられるかも知れないアイデアを思いつく。

オレは壁に向かって呟き続けるタイガに声をかける。

「タイガ、タイガ! 良いこと思いついた! タイガはこれから世界を旅するんだろ? だったら世界を回ってアルさんをどうにかする方法を探してきてくれないか?」

「……アルさんを?」

「一応、旦那様に鍛え直してもらう予定だけど、相手はあのアルさんだから上手くいくかどうか分からないし。念のためタイガにあの駄兎をどうにかする方法を探してもらいたいんだ」

邪神封印の使命。

オレの話を聞いたタイガの瞳に光が宿る。

新たな目標を得たことで瞳に力が戻ったのだ。

「やる……やるぞ、いや、やらせてくれ! 僕にあの邪神を葬る方法を探させてくれ!」

タイガは壁からオレへと向き直ると、力強く手を握り締めてくる。

オレも彼女の手を同じように握り替えした。

こうしてタイガは新たな使命を胸に旅立つ決意を固め直す。

エル先生を悲しませず、アルさんを闇に葬る――げふん、げふん、痛い目に遭わせる方法を探す旅。

それはとても困難なモノになるだろうが、魔術師S級 獣王武神(じゅうおうぶしん) 、タイガ・フウーならきっとやり遂げてくれるはずだ!

オレは改めてタイガの旅を見送る。

邪神を封印するという新たな使命を帯びたタイガの背は、とても大きく、力強く見えたのだった。