軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第429話 アルさんとの交渉

メイヤパパこと、ハイライ・ドラグーンに結婚式の話を無事に伝えた。

竜人大陸では彼以外にも、メイヤのライバルを自称するリズリナ・アイファンにも結婚式の報告をしている。

彼女にも結婚式に出席する約束を取り付けた。

ちなみに多脚戦車『クモクモ君あるふぁ2』の進捗は芳しくない。

受付嬢さんとの戦いで浮上した問題点、特に足回りは早々に解決するモノでもないため予想通りではあるが……。

それ以外は特に問題はなかった。

一通りの用事を片づけると、ココリ街にある本部へと戻るのだった。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

飛行船ノアで無事にココリ街の本部へと辿り着くと、グラウンドで訓練をしている団員達に声を掛けながら私室へと向かい歩き出す。

今日はこのまま休憩し、明日から仕事を再開するための鋭気を養う。

一方、オレはというと嫁達のようにすぐに休む訳にはいかない。

一人、とある場所へと向かう。

その場所とは当然、新・純潔乙女騎士団地下牢だ。

地下牢に閉じこめているアルさんと顔を会わせ話をしなければならない。

前回は護衛として団員2名を伴い地下牢へと下りたが、今回は話し合いをするためオレ一人で向かう。

地下牢出入口で歩哨に立つ団員二名と挨拶を交わし、一人でその先へと進む。

目的の牢の前に立つと、中では相変わらずアルさんが詰まらそうにココノの推薦図書を読んでいた。

彼女はその兎耳で、すでに誰が地下に下りてきているのかを理解しているはずだ。

にもかかわらず、今気付いた態度で本から顔を上げる。

「あら、リュート。お帰りなさい。その様子だと無事にエル姉にも会えたみたいね」

「はい、お陰様で。アルさんが捕まっているのに、なぜそこまで余裕のある態度を取っていられるのか理解させて頂きましたよ」

オレは嫌味に対して、嫌味で返す。

なのにアルさんはどこか楽しげな態度で、ベッド端に座りながら足を組み替える。

「それで私に何かご用からしら、団長様?」

「取引に来ました」

「取引、ね」

「地下牢から出しますし、ココリ街での自由もある程度認めます。もちろん犯罪行為や PEACEMAKER(ピース・メーカー) 、新・純潔乙女騎士団の名を貶めるようなマネは許しませんが」

節度ある態度で過ごして欲しい、と告げる。

オレ達の結婚式にエル先生達が出席する。

ギギさんや他のメンバーだけなら、アルさんを地下牢に閉じこめ続ければいい。

しかし今回はエル先生、ソプラ、フォルンが来る。

エル先生は実妹であるアルさんと会い、ソプラ、フォルンの顔を見せるのを楽しみにしている。

個人的にはアルさんのような有害物はしばらく牢屋に入れておくべきだと思うのだが、エル先生が会うのを楽しみにしているのなら話は別だ。全力で引き合わせるしかない。

そのためにアルさんにはマトモに見えるよう外面を作って欲しいのだ。

またこれからアルさんはオレ達 軍団(レギオン) の食客扱いになる。

そんな相手が犯罪行為や娼館に入り浸っているなど醜聞が悪すぎる。

エル先生がココリ街に来て、話を耳にしたら問題だ。

故にアルさんにはせめてココリ街に居る間は真人間、マトモに生活をして欲しい。

だからこそ取引として地下牢から出し、食客扱いで、監視は付くが基本干渉せず自由にさせるつもりだ。

もちろん問題を起こしそうになったら止めるが。

この条件にアルさんは勿体ぶるような態度を取る。

「地下牢から出してもらえて、食客扱いしてくれるのはいいんだけど~。それだけじゃちょっとねぇ~」

この駄兎! 足下みやがって!

だが、彼女がこの程度で乗ってこないのは想定済みだ。

オレは咳払いをしてから条件を切り出す。

「エル先生達と会って、無事に終わったら成功報酬をお渡しします。もちろん以後の身柄の安全もです。 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長として約束しましょう」

成功報酬について経理担当者と話し合いの上、双方納得する金額を決めさせてもらうと付け加えた。

この条件で問題がなければ牢から出た後、契約書を交わす予定だ。

アルさんは提示された条件にニヤリと悪い笑みを浮かべ、ベッドから立ち上がる。

オレの側に近くずくと、鉄格子越しに手を差し出してきた。

「いいわ、その条件で手を打ちましょう。団長様」

「よろしくお願いします」

オレはその手を握り返す。

こうしてなんとか無事にアルさんとの交渉を終えることができた。

オレは牢の鍵を開けて、アルさんを出す。

彼女は牢から出ると大きく体を伸ばした。

「あぁ~、やっぱ牢屋の外はいいね!」

「取引に応じたからにはちゃんと約束は守ってくださいよ」

「分かってるって! 私はちゃんと交わした契約は守る主義だから!」

絶対に嘘だ。

アルさんは信用できないという点だけは信用できる。

嫌な信頼だが、それだけは断言できた。

オレ達は揃って地下牢を出る。

歩きながら会話をした。

「ところで娼館と男娼館通いは禁止されたけど、こっそり呼ぶのは有りなの?」

「駄目に決まってるでしょ! 着る物も過激なのは駄目ですからね。後、言動にも気を付けてださいよ」

オレが釘を刺すと、後ろを歩くアルさんが可愛らしく拗ねる。

「そこまで規制しなくてもいいじゃん。なら酒精は? 美味しいご飯とかも食べに出たら駄目なの?」

「……酒精は外じゃなく本部客室でなら問題ありません。ご飯も食べ歩きは問題ありませんが、監視は付けさせてもらいます」

本部食堂でも十分美味しい物は作れる。

それで後は満足してもらおう。

「ところで今、この建物にあの魔術師S級、タイガ・フウーが、ギギさんに振られて引きこもっているって本当なの?」

「!? なんでアルさんがそんなこと知っているんですか!」

「外で日光を浴びせられてる時、ちょっと耳にしたのよ」

足を止め思わず背後に居るアルさんへと振り返る。

彼女は悪戯っぽく自分の兎耳を弄っていた。

エル先生も種族的に耳が良い。

その点を考慮して、アルさんを見張る者達には余計なことを口にしないように釘を刺しておいたのだが、こちらの想像以上に耳がいいみたいだ。

エル先生とは違ってずっと危険な生活を送ってきたせいだろうか?

「タイガ・フウーってずっとエル姉を慕って、孤児院まで押しかけたほどなんでしょ? どうせなら落ち込んでいる彼女を私が慰めてあげようか?」

「絶対に止めてください!」

「そんな力強く否定しなくても……。大丈夫よ。私、同性でもいけるから! むしろ最近は同性の可愛い子や綺麗な子の方が好みになってきたのよね。やっぱりむさい男よりは、女の子の方が抱き心地が良いっていうか。あっ、でもリュートは別よ。いつでもベッドに誘ってくれていいから! もちろんタダで!」

「絶対に誘いませんよ! 後、アルさんの性癖なんて知りたくないから喋らないでください!」

エル先生そっくりの顔で『男より女の方が~』とか言うのはマジで止めて欲しい。

思わずサブ・アームのUSPを抜きアルさんに向けて撃つところだった。

本当にアルさんは質が悪い。

オレの精神がごりごりと音を立てて削れていくのを実感する。

ある意味、ランスや『黒毒の魔王』より厄介な存在かもしれないな。

「兎に角、大人しくしててください。タイガに会うのも絶対に認めません! 下手に彼女に近付こうなんて考えないでくださいね? それがお互いのためですから」

「はいはい、分かったわよ。この街では大人しくしてればいいんでしょ」

目に力を込め睨みつけると、彼女は軽く肩をすくめる。

アルさんの態度に目を細めつつ、オレは再び地下牢から出るため歩き出した。

背後から彼女も付いてくるのを理解する。

口では『大人しくする』と言っているが、油断はできない。

アルさんと落ち込んでいるタイガを引き合わせるのは非常に拙い。

人は落ち込んでいる時、優しくするとその相手を好感を抱く。それが敬愛する相手と同じ顔だったら効果は抜群だ!

例え中身が畜生に劣る悪魔だとしてもだ。

ただでさえギギさんに振られて落ち込んでいるタイガを悪魔と会わせたらどうなるか分からない。

面倒事はお断りだし、タイガをこれ以上傷つけるようなマネはしたくない。

(タイガとアルさんの部屋を極力引き離して、本部内部でも接触しないよう監視を付けるべきだな)

また嫁達や団員にもアルさんが『同性でもいける』ということを明かし、注意勧告しておかなければならないだろう。

本当に面倒ばかりをかける。

(……しかし、調子に乗って居られるのも今のウチだ。結婚式が終わったら、身柄を無事に――いや、無事以上にしてやる)

身柄の安全は確保すると確かに約束した。

だが、それ以上にしないとは言っていない。

『無事以上に』とは、アルさんを旦那様に預けて心身共に鍛え成してもらおうという計画だ。

旦那様なら奥様一筋でアルさんに誑かされる心配もなく、必要上に健康的な生活を送らせてくれるだろう。

問題があるとするなら、今まで男性なら問答無用で効果があったが、女性の場合はどうなのかはっきりしない。

まさか女性を今から捕まえて旦那様に預ける――なんて実験ができる訳がない。

まぁ旦那様なら大丈夫だろう。

これで少しはアルさんもまともな性格になってくれるといいのだが……。

そんなことを考えていると、地下牢の出入口に辿り着く。

オレは金属製の重い扉に手をかけ押し開き、アルさんを外の世界に連れ出したのだった。